コンの道案内
「確かこっちの道を通ってたよな……」
俺は、昨日の記憶を頼りに道を進んでいくが、どうにも目的のリーゼのアトリエに近づいている気が全くしない。そもそも、昨日辿り着いたのも突然走っていったコンを追いかけたら偶然辿り着いただけなので、正直なところ行き方なんてほとんど覚えていないようなものなのだ。
「こんなことなら帰り際、しっかりと道をみておけばよか……って、そうだ! コンに案内してもらった方が早いんじゃないか」
「こゃ?」
コンは、突然自分の名前が出たことを不思議に感じたのか、首を傾げている。
「コン。昨日、俺たちが行ったリーゼがいた店の行き方覚えてるか?」
「こゃ!」
コンは、勿論だ、と言わんばかりに頷く。
「さすが、コン! それじゃあ、昨日のお店……リーゼのアトリエまで案内してくれるか?」
「こゃぁ!」
俺の肩の上に乗っていたコンは、こちらの方を向いて一度頷くと、そのまま肩の上を飛び出していく。コンは、もう一度俺がいる方へと振り向いた後、そのまま走っていったのだ。ついてこいということなのだろう。俺は、コンを見失わないように急いでその後を追いかけて行ったのだ。
少しの間、俺は前を走るコンを追いかけていると、突然コンの足が止まった。俺もそれに合わせて立ち止まると、視線をコンの方から前の方へと上げていく。そこには、なんだか昨日も見た覚えのあるレンガ造りの建物がズラリと並ぶ通りになっていて、少し先にはスラちゃんが可愛くデフォルメされた看板があるリーゼのアトリエが見える。
「こゃーん!」
コンは、一度鳴くと、俺の方へと向かってきてそのまま肩の上へと飛び乗ってくる。そのまま、俺の顔を何度かペロペロと舐めると、じっと俺の目を見てきたのだ。その姿は、案内できたからほめてほめて、と言わんばかりである。
「コン、よくやったな! さすがだぜ相棒」
俺は、コンの頭を優しく撫でていく。コンは、気持ちよさそうに尻尾を振っている。
「こゃぁー!」
コンは、もっと撫でて欲しいのか撫でていた俺の手に身体をこすりつけてきたのだ。俺は、そんなコンの頭を今度は思いっきり撫でまわしていく。コンは、さらに激しく尻尾を振っていてとても気持ちよさそうにしている。
「コン。また後で、存分にモフってやるからな。先にリーゼに会いに行くぞ」
俺は、コンを撫でていた手を戻すと、リーゼのアトリエの方まで向かって行ったのだ。
俺は、リーゼのアトリエの前まで着くと、入口の扉に張り紙がしてあることに気が付いた。
「えっ? もしかして、休みとかじゃないよな」
俺は、少し不安に思いつつも張り紙を読んでみる。そこには、ただいま調合中です、と書かれた文字と右下の方にスラちゃん(だと思われる)が頭を下げているようなイラストが描かれていたのだ。
「調合中……ってことは、多分作業中ってことだよな。このスラちゃんが頭を下げてるイラストは、もしかして今日はダメってことなのか?」
俺が、張り紙の意味をあまり理解できずに頭を悩ませていると、突然コンが俺の肩の上から飛び降りて扉の前に立った。
「こゃ!」
コンは、短く鳴くとその小さな手で扉を押し始めたのだ。
「ちょっ、コン! ……って開いてる!?」
コンに押されてる入口の扉は少しずつ開かれていっており、カギはかかっていなかったようである。
「開いてるなら、多分大丈夫だよな……。もしダメだったらちゃんとリーゼに謝ろう」
俺は、自分の中で強引に納得させると、コンと一緒に扉を押して店内へと入っていったのであった。
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