リーゼのアトリエ
ギルドの解体場を後にした俺たちは、これといったあてもなくのんびりと街の中を歩きはじめる。この街は、それほど大きいわけではないらしいのだが、それでも俺たちが通ったことのある道はまだまだ少ない。何せ基本的には、宿からギルドまでの道か、街の外へと出る道ぐらいしか通っていないのだ。俺たちが、この街について知っていることなんて極々一部に過ぎないのであろう。
「こゃー!」
コンは、俺の頭の上に乗りながら、キョロキョロと街中を見渡しているようである。今は、普段通る宿までへの道のりとは違った道を適当に歩いているのだが、コンは見慣れぬ景色に瞳を輝かせているようだ。時折、俺の頭をペシペシと叩いてくるので、かなり興奮しているのかもしれない。
「そういえば、ここに来たばかりの頃もこんな感じだったな……」
俺たちが、初めてこの街を歩いた時もコンは、キョロキョロと周りを見渡していたことを思い出す。狐は、とても好奇心旺盛だそうなので、コンも例にもれずそういうことなのだろう。
俺がそんなことを考えていると、突如コンは俺の頭を蹴って飛び出していき、どこかへと走っていく。
「ちょっとコン!? どこいくんだよ」
俺は、急いで飛び出していったコンを追いかけていく。そのまま、少しの間追いかけているとコンはとある店の前で止まったのだ。コンは、尻尾を振りながら、お店の方をじーっと見ている。
「コン。やっと追い付いたぞ!」
なんとか追いついた俺は、お店の前に座っているコンを両手で持ち上げる。それと同じ頃、一人の少女がお店から出てきたのだ。少女は、俺たちの姿に気づくと、驚いたような表情を浮かべていた。
「えっ? ユーゴさんとコンちゃんですか?」
その少女は、リーゼであった。彼女は、すぐに笑顔になると俺たちの方にぺこりと頭を下げる。それにつられて、俺もぺこりと頭を下げる。
「こゃーん!」
コンは、俺の手の中で一つ鳴くと、そこから抜け出していき、一気にリーゼの肩まで飛び乗ったのだ。そして、彼女の顔を一回ぺろりと舐める。おそらくではあるが、これがコンの挨拶なのだろう。
「ふふっ。コンちゃん、こんにちは~」
リーゼも俺と同じように受け取ったのか、コンの頭を撫でながら挨拶をする。
コンは、相変わらず気持ちよさそうだ。
「そういえば、ユーゴさん今日はどうされたんですか?」
コンを撫でながらリーゼは、俺に尋ねてくる。その彼女の表情は、何かを期待しているような感じだ。
「えっと、街の中を見て回ってたらコンが突然走っていって、ここまで追いかけてきたんだ」
少し詰まりながらも俺は、ここに来た経緯を説明する。それを聞いたリーゼは、少しだけ残念そうな顔を浮かべていた。
「そうだったんですね……。あの、実はここ私のアトリエなんです」
「アトリエ?」
「はい、アトリエです。ここでアイテムを調合したり、それを売ったりしてるんですよ。良かったら見ていきませんか?」
「そうなんだ! せっかくだから見させてもらうね」
俺は、リーゼにそう伝えると、彼女と一緒にアトリエの中に入っていったのだ。
俺たちがアトリエの中に入ると、そこにはたくさんの棚が置かれていて、その中にはリーゼが作ったのであろうアイテムがたくさん並べられている。
「おぉ~!」
俺は、思わず声がもれる。ここにあるアイテムたちがどんなものなのか全く分からないのだが、今までリーゼからもらったアイテムのことを考えるときっとどれもすごいものなんだろう。
「もしかして、ここに置いてあるアイテム全部リーゼが作ったの?」
「はい。私とスラちゃんが調合したものだけですね」
リーゼは、にっこりとそう答える。いつの間にか彼女のそばに来ていたスラちゃんもプルプルと震えて肯定しているようだ。
「すごいなぁ……」
「いえいえ、まだまだですよ」
リーゼは、俺の言葉を否定しながらも嬉しそうにしている。スラちゃんも彼女のことが褒められて嬉しいのかさらにプルプルと震えていた。
「まだまだなんてそんなことないよ! 昨日だってリーゼから貰ったアイテムのおかげで、生き残れたようなものだしね」
「わわっ、そんなそんな。お渡ししたアステールがお役に立ったようでよかったです! それよりもユーゴさん生き残れたって……、そんな危ないことになってたんですか?」
リーゼは、最初顔を赤くして照れていたが、俺の生き残れたという言葉が気になったようで、心配そうに尋ねてくる。
「えっと、ちょっとね。それよりも、昨日のアイテムのお金払うよ!」
俺は、適当にごまかしつつも昨日貰ったアイテムのお金を払う為に、魔法のかばんからお金を取りだそうとするもリーゼにそれを止められる。
「ユーゴさんダメです。アステールは、差し上げたものですから、お金は大丈夫ですよ。それと昨日は、本当に何があったんですか?」
「いや、さすがに貰ってばっかりじゃ申し訳なくて……。ちょっと恥ずかしいからその話はまた今度」
「ユーゴさん……。危ないことばかりしちゃダメですよ! それと差し上げたことを気にされてるのでしたら、今日何か買っていただけたら大丈夫ですので」
リーゼは、少しだけ頬を膨らませて不満そうにしつつも俺のことを心配してくれたのだ。俺は、そのことを申し訳なく思いつつも、気を使ってくれたリーゼに感謝する。
「ありがとうリーゼ。それじゃあ何か買わせてもらうね」
俺は、さっそく棚に並んでいるアイテムを物色しはじめたのであった。




