貴重な手掛かり
「黒い鈴が魔物を暴走させるための装置といっても、詳しい仕組みについては何もわかってないっすけどね。ただもうひとつだけ分かっていることがあって、この黒い鈴をつけられた魔物は、何故か身体が黒くなるっす。さっき魔法のかばんの中に入れたボアアンのように全身が完全に黒くなってしまうと自我がなくなるんすよ」
俺は、リリアさんが悲しそうな顔で語る内容を聞いて、あまりのひどさに悲しさと怒りが同時にこみあげてきたのだ。
「なんてひどい……。なんでそんなことをするんだろう!」
俺は、思わず言葉がもれる。正直、悲しみと怒りが混じったこの気持ちをどこかにぶつけてしまいたい、そんな気持ちでいっぱいなのだ。
「ユーゴさんのその気持ちはよくわかるっす。私だって、できることなら黒い鈴を根絶させてしまいたい!魔物たちを無理やり暴走させるのは許せないっす!とはいえ、現状どこで、誰が、何のために、作ったのか全く分からないので、後手に回らざるをえないんすよ」
リリアさんは、とても悔しそうにやりきれない表情を浮かべていたのだ。その思いは、俺なんかとは比べ物にならないほどに強いものであろう。彼女の気持ちが痛いほどに俺に伝わってくる。おそらくではあるが、何かしら独自にも動いているのだろう。
「もちろん、私たちモフリストやギルドの方でも調べてはいるっすけど、現状これ以上は何も分からないんすよ。だからこそ、今回残っていた黒い鈴は、貴重な手掛かりっす。必ず持ち帰らなきゃいけないっす!」
リリアさんは、訴えかけるかのように熱く語ったのだ。
俺は、そんな彼女の姿を見て、これこそがモフリストとしての在り方なのだろうと少し分かったような気がするのだ。黒モヤボアアンとの戦闘で深く傷ついたボアアンの治療もしかり、黒い鈴のこともしかりと魔物達を大切に思うその気持ちこそがモフリストにとって大事なことなのであろう。
「そうだったのか……。リリアさん、それなら早くギルドに戻らないとだね」
「ちょっ、ユーゴさん大丈夫っすか?いくら貴重なものとはいえ、頑張ってくれたユーゴさん達を無理させてでも早く帰る必要はないっすからね!つい熱くなっちゃったのは、すみません」
リリアさんは、立ち上がろうとする俺を慌てて止めに入る。しかし、俺はそれにも構わず立ち上がったのだ。
「リリアさん。少しは回復したからもう大丈夫だよ。早くギルドに戻ろう」
「ユーゴさん……。本当に大丈夫っすか?」
「大丈夫だよ!」
「……わかったっすよ。でも、辛そうだったら無理にでも休んでもらうっすからね」
リリアさんは、ため息を吐きながらも俺が動くことを了承してくれたのだ。
俺は、そのことにホッとしていると、コンが俺の肩の上まで乗ってきた。コンは、そのまま俺の頭の上まで駆け上り、いつものポジションに落ち着く。
「コンも準備万端みたいだな」
「こゃ!」
コンは、俺の言葉を肯定するかのように鳴いたのだ。
俺は、近くに置いていた魔法のかばんを拾って持つとリリアさんの隣に並ぶ。
「それじゃあ、ユーゴさん、コンちゃん。帰りは、途中までこの子に乗って帰るっすよ」
リリアさんは、そう言ってボアアンの方を指差した。
「リリアさん、二人も乗って大丈夫なの?」
「私とユーゴさんぐらいなら大丈夫っすよ。それよりも結構スピードがでるっすからしっかりと捕まっててくださいね」
リリアさんがそう言って、ボアアンに跨った。
俺達も急いでボアアンに飛び乗る。
ボアアンは、俺とリリアさんが乗ったと同時に一気に森の中を走りはじめていった。
ボアアンが思ったよりも早く森の中を駆け抜けてくれたおかげで、俺たちはなんとか日が落ちる前に森の入口まで戻ってくることができたのだ。俺とリリアさんは、ゆっくりとボアアンから降りていく。
「乗せてくれてありがとうな」
俺は、ボアアンにお礼を言って、その身体を優しく撫でる。ボアアンは、なんだか嬉しそうにしていた。
「ユーゴさん。ここからは歩いて街に戻るっすよ」
リリアさんは、微笑ましそうな様子で俺とボアアンの方を見ながら声をかけてくる。
「わかったよ。リリアさん、この子はどうするの?」
「この子とは、残念っすけど、ここでお別れっす」
リリアさんは、そう言いながらも少し寂しそうにしていた。きっと、本当は彼女もつれていきたいのだろう。
「ブモォー」
リリアさん同様、ボアアンも悲しそうに彼女の方を見ている。
そんなボアアンの元にリリアさんは、近づいていくと、その身体をギュッと抱きしめ話しかけたのだ。
「ここまで乗せてくれて、ありがとう。今は、キミを連れていけないけど、また会いに来るっすからね」
リリアさんは、そうして少しの間ギュッと抱きしめた後、ボアアンから離れていく。
「ブモォォォ!」
ボアアンは、そんなリリアさんに向けて一鳴きすると、森の奥へと走り去っていったのだ。
リリアさんは、ボアアンの姿が見えなくなるまで見送ると俺に声をかけてきた。
「それじゃあ、改めて街の方に戻るっすよ」
俺とリリアさんは、そのまま森の外へと出て行ったのだ。
その後は、特に何かが起こるでもなく、俺たちは、街へと到着する。そのまま街の中へと入ると一直線にギルドへと向かっていった。
俺たちは、ギルドに着くと、そのままいつものカウンターへと向かっていく。
「ユーゴさん、お疲れ様っす。ひとまず依頼達成の処理をするっすね」
俺たちが、いつもの場所に着くと、リリアさんはそう言ってカウンターの奥へと入っていった。
俺は、その場でぼんやりとまっていると、少ししてからリリアさんが出てくる。
「お待たせしたっす。無事依頼は、達成となりました。こちらが報酬の1000リンっす」
「リリアさん、ありがとう」
俺は、リリアさんから報酬のお金を受け取ると、それを魔法のかばんへとしまう。
「ユーゴさん。今日はお疲れでしょうから、また明日にでも魔法のかばんにしまったあの子を持ってきてくれませんか?」
「明日で良いならすごく助かるよ。じゃあ、また明日持ってくるね。リリアさん、今日はありがとう」
疲労がかなり溜まっていた俺にとって、リリアさんからの提案はとてもありがたいものであったのだ。俺は、すぐさま彼女に了承すると、お礼を言ってからギルドを出て行く。
その後、俺はどこによることもなく宿へと帰ってきて、部屋へと戻っていく。俺が部屋の扉を開けると同時に、服の中で寝ていたはずのコンが飛び出し、我先にとベッドの方へと向かっていった。俺もコンに続いて、ベッドの前までいくと、そのまま倒れ込んだのだ。やがて、一気に眠気がやってくると、俺はそのまま意識が落ちていく中、何か聞こえた気がしたのであった。
称号小狐との絆を獲得しました。
これにより、小狐に対する理解が少しだけ上がります。
これにて、第二章が終わりとなります。




