表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小狐さんといく~異世界モフモフ道中  作者: ところてん祐一
第二章:もふもふギルド入会編
42/66

黒モヤボアアンの最後

「そういえば、黒モヤボアアンはどうなったんだろう」


 俺は、ふと疑問に思う。

 俺が最後に見た時、黒モヤボアアンは、通常種のボアアンに弾き飛ばされて、そのまま倒れ落ちていた。普通であれば、それで倒せているはずなのだが、奴は満身創痍ながらもアステールによる猛攻を耐えきっている。弾き飛ばされて、木に衝突したぐらいで倒せているとは、あまり思えないのだ。


 俺は、黒モヤボアアンが倒れ落ちた方向を見てみる。

 そこには、黒いモヤが消えて、全身が黒い体毛に覆われたボアアンが倒れ伏していた。


 「ユーゴさん、どうしたっすか?」


 俺の細かい傷の手当てをしていたリリアさんは、突然俺が首を動かしたので気になったようだ。彼女もつられて、俺が見ている方向と同じところを見る。


 「ははーん、なるほどっす。どうなったのか気になったんすね?」


 リリアさんは、えいえいと俺のわき腹をつっついてくる。


 「い、痛い痛い。リリアさん地味に痛いって。倒れ落ちたところまでは、見たけど本当に倒せてるのか気になって」


 「そういうことっすね。私が追い付いてきた段階で、かなり弱ってたっすからね。弾き飛ばしただけとはいえど、とどめの一撃にはなってるはずっすよ。それに、これでも一応警戒はしてたっすからね」


 リリアさんの話によると、どうやら黒モヤボアアンは、一撃も耐えられないほどに弱っていたらしい。俺が思っていたよりもアステールによるダメージが大きかったのだろう。リーゼのアイテムは、それほどまでにとんでもなかったということだ。


 「こゃーん!」


 俺が内心倒せた理由に納得していると、コンの声が聞こえてきた。

 俺は、顔をあげて、コンの方を見ると、どうやらコンは、倒れ伏している黒モヤボアアンの近くに座りこんでいる。


 「コン!?」


 コンは、俺と目が合うと、黒モヤボアアンの首元を尻尾で指している。

 俺は、コンが指しているところを目を細めて見てみる。


 「ん?なんだあれは。黒い鈴?」


 俺は、黒モヤボアアンの首元に黒い鈴のようなものがついているのが見えたのだ。ただ、それ以外は黒モヤボアアンの体毛が黒一色なこともあり、遠目からではとてもよく見えない。


 「さすがにこの距離からじゃ見えないな」


 「それじゃあ、もっと近づいて見てみるっすよ」


 「えっ?」


 俺は、突如聞こえてきたリリアさんの声に驚いた。独り言のように呟いてたつもりなので、まさか何かしらの返事が返ってくるとは思わなかったのだ。


 「ユーゴさん。なんでそんなに驚いてるっすか?すぐ近くでユーゴさんの手当てしてるっすから、全部聞こえてくるっすよ。さっきコンちゃんの声も聞こえてきたし、何かあったんじゃないっすか」


 リリアさんは、驚いてる俺の顔を不思議そうに見ている。


 「いや、まさか返事が返ってくるとは思わなくて」


 「それで驚いてたんすね。とはいえ、私もユーゴさんが無理をしないか見とかないといけないっすからね」


 リリアさんは、俺の言葉に納得がいったとばかりに頷いた後に、じとーっとした目線を俺に向けてくる。

 俺は、そんな彼女の視線に再び申し訳なさを感じて、思わず視線をそらす。


 「ほらユーゴさん、そっぽ向いてないで一緒にコンちゃんの所に向かうっすよ」


 リリアさんは、そう言ってやや強引に俺の手をとると、そのままコンのいる方へと向かっていったのだ。




 俺たちが、コンのいる場所まで辿り着くと、倒れ伏している黒モヤボアアンのすぐ近くにはリリアさんの乗ってきた通常種のボアアンがいたのだ。ボアアンは、心なしか悲しそうに黒モヤボアアンの方を見つめている。

 俺は、ひとまず黒モヤボアアンがどうなっているのか確認するために近づいていく。


 「さすがに動いちゃいないか……」


 黒モヤボアアンは、すでに息をひきとっていたようだ。ちょっと前まで、暴れまわっていたのがまるで嘘みたいだ。


 俺は、黒モヤボアアンのその姿を見て、なんとも言えない気持ちになった。勿論、黒モヤボアアンを討伐するために必死に戦ってきたし、討伐しなければ大きな被害が出てしまうことも分かっているつもりではあったのだ。しかし、結局のところ、()()()であっただけなのだ。


 「ユーゴさん!!」


 俺は、後ろから思いっきりリリアさんに引っ張られると、そのまま身体ごと彼女の方へと向けられる。


 「ユーゴさん、今すぐ受け入れろとは言いません。いますぐ理解しろとも言いません。でも、今ユーゴさんがこの子を止めなければもっと多くの人が悲しむ結果になってたのかもしれない。ユーゴさんは、そんな未来を救ったんす。だから、そんなに背負いこんじゃダメっすよ」


 「リリアさん……。ありがとう」


 俺は、この世界に来て、初めて生物の『死』に対面して、それが重くのしかかってきていたのだ。しかし、リリアさんの言葉に少しだけ気持ちが軽くなったような気がする。


 「こゃ!」


 いつの間にか俺の肩の上に乗っていたコンは、自分もいるぞと言わんばかりに俺の顔に小さな手でペシペシとしてくる。


 「コンもありがとうな。よく頑張ってくれたよな」


 俺は、コンにお礼を言って頭をなでる。コンは、気持ちよさそうにしている。

 俺は、そんなコンの気持ちよさそうな姿を見て、暗い気持が少しずつなくなっていることに気がついた。


 「ユーゴさん顔に元気が戻ってきたっすね。色々と思うところはあると思うっすけど、考える時間は今だけじゃないっすからね。ゆっくりでいいんすよ」


 「そうだな……」


 俺は、リリアさんの言葉にその通りだなと思ったのだ。すぐに答えが出るわけでもなく、今しか時間がないわけでもないのだから、ゆっくりと考えていけばいいだろう。そう言えば、さっきも同じようなことをリリアさんに言われた気がする。


 「そういうことっすから今やるべきことをするっすよ。それで、ユーゴさん何を確かめるんすか?」


 一瞬にして、切り替えたリリアさんは、俺に尋ねてくる。


 「はやっ!いや、それはともかく首元に何かついてた気がするんだ」


 ちょっと待って、とリリアさんに言いながら俺は、黒モヤボアアンの首元を探す。すると、そこには保護色で少し分かりづらくなっていたが、黒い鈴のついた首輪のようなものがついていたのだ。


 「見つけた!リリアさんこれこれ。黒い鈴のようなものが」


 「黒い鈴っすか?」


 リリアさんは、俺が指差したところを見る。彼女が、それを見たとき、その表情が一瞬にして強張ったのだ。それは、俺が今まで見たことのない表情で、恐ろしく怖いものであった。


 「ユーゴさん。すぐにこの子を魔法のかばんに入れてください」


 リリアさんは、淡々として俺にそう言ったのであった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ