治療と決意
「リリアさ……」
「ちょっと、ユーゴさん。ひどいけがじゃないっすか!すぐそっちにいくっすからね。大人しくしててください」
リリアさんは、俺がひどいけがを負っていることに気づくと、慌ててボアアンから飛び降りて、俺の方へと向かってくる。その言葉通り、すぐに俺の側へと来ると、しゃがみこんで俺の傷の具合を確かめ始めたようだ。
「ユーゴさん。私、無理は禁物って言ったっすよね。なんでこんなボロボロになってるんですか!いや、そんなことよりも治療が先っすね……」
リリアさんは慌てて、持ってたかばんの中を探し始める。どこぞの青いネコ型ロボットのように、これでもないあれでもないと周りにアイテムをばらまいているのだ。その傍らで、コンは、ばらまかれたアイテムを拾っては、彼女の近くへ集めている。
少しの間、そんなことを繰り返していたリリアさんだが、お目当ての物がついに見つかったのかその動きがとまる。
「やっと見つけた。ユーゴさん、すぐに治療するっすからね!」
そう言って、リリアさんがかばんの中から取り出したのは、三角錐のような形をした小さな青いビンであった。彼女は、そのビンのふたを取ると、その中身を一気に俺に向かってかけたのだ。
じゅわーっ。
そんな音と共に、俺の身体に激痛が走った。
「いってぇー!」
思わず声がもれる。
先ほどまでは、痛みを通り越して何も感じずに頭がぼーっとするような感覚であったのだが、一気に痛覚が戻ってきたようだ。俺は、あまりの痛さに身体を丸めた。
「こゃ……」
そんな俺の様子を見て、コンは俺の方へと近づいてきてたのだ。心配そうな顔をして、俺の方をじーっと見つめている。
「こゃ、こゃん!」
俺の方を見ていたコンであったが、何かに気付いたのか俺に必死になって伝えようとしている。
俺は、痛みをこらえながらもコンが伝えようとしていることを読み取ろうとする。
「えっ?身体が動いてる?あっ、本当だ!さっきまで全然動かなかったのに。そういえば声も出るようになってる」
俺は、自分の身体が動かせるようになっていることに気が付いたのだ。まだ、痛みは残っているものの先ほどまでと比べると、格段に回復している。これは、リリアさんにかけられた謎の液体のおかげだろう。
「あれ?ということはもしかして……」
俺は、自分の身体の怪我の具合を確認してみる。所々えぐれていたり、至る所から血が出ていたはずの俺の身体であったが、今やそんな傷は見当たらず、小さな傷が少し残っている程度に回復していたのだ。
「ユーゴさん!本当によかったっす」
リリアさんは、安心したような表情を浮かべて、俺の手を取ってきたのだ。
「わっ。リリアさんありがとう」
少しドキッとしながらも俺は、リリアさんにお礼を言う。その時にちらっと見えた彼女の目元には、うっすらと光り輝く涙があった。それが見えた瞬間、俺の中で罪悪感が一気に膨れ上がってきたのだ。こんなにも心配させてしまったことが本当に申し訳ない。
「強くなりたいな……」
俺は、思わずそう呟いた。結局のところ、俺にはコンがいなければ何もできないのだ。今回の黒モヤボアアンのような強敵と戦うこともあるだろう。ならば、せめてコンの足を引っ張らないぐらいの最低限の力が欲しい。
「ユーゴさん。めっ!っす」
リリアさんは、突如俺の頭をポカッと叩いてきたのだ。
俺は何が起こったのか分からずポカンとしてしまう。
「強くなりたいと思う気持ちは大切っす。どうしても強さというのは必要になるっすからね。でもだからといって、焦るのは絶対ダメっす。間違った方向にいっちゃいますから……。ゆっくりと落ち着いてから何が必要なのか考えてみてください」
リリアさんは、俺の目を真直ぐ見ながらそう忠告してくれたのだ。おそらく俺の呟きが聞こえていただけでなく、俺の内面にも気づいていたのだろう。
「ユーゴさんに今必要なのは、しっかりと身体を回復させることっす。エリクシャで、大きな傷は治ってるっすけど、体力までは回復してないっすからね。無理はめっ!っすよ。それにコンちゃんもいるっすからね」
リリアさんは、優しい表情を浮かべながらも幼子に言い聞かせるかのように俺に言ったのだ。
コンも彼女の隣に座って、無茶なことはするなよ相棒と言わんばかりに俺の方をじーっと見てくる。
俺は、つい照れくさくなってしまい、二人の視線から目をそらす。視線はそらしてしまったもののリリアさんの言葉やコンの想いは、しっかりと俺の中に突き刺さっていたのだ。今焦ってもやれることは限られているし、確実に強くなれるわけでもない。ならば、しっかりと自分と向き合ったうえで何が必要なのかを見出すべきであろう。それに、俺は一人ではない。コンという一心同体の相棒がいるのだ。焦る必要はない。コンと共にそれを見出していければ良いのだから。
「リリアさん、ありがとう」
俺は、改めてリリアさんにお礼を言ったのであった。




