ギルド
俺たちがギルドの中に入ると、そこはとても活気にあふれていた。いたるところに冒険者らしき人たちがいっぱいいるが、喧嘩をしている様子もまるでない。第一印象は、よさそうな場所であった。これなら特に目立たなければ、冒険者たちに絡まれることもないだろうとホッとしていた。その時、軽そうな装備を身にまとった女性の(おそらく)冒険者が俺の元へと近づいてきて、話しかけてくる。
「あら?よく来たわね。冒険者登録かしら?」
そう言って、続けざまにかわいい狐さんね、といい俺の頭にいるコンに手を伸ばす。しかし、コンはぐるると低く唸り、彼女を威嚇している。そして、めいいっぱい俺の頭にしがみついているものだから、少し頭が痛い。
コンに威嚇された彼女は、ショックを受けているようだ。
俺は、コンをなでてめいいっぱいなだめると彼女に返事をする。
「いえ、こちらに迷い人用に説明してくれる場所があると聞きまして」
後になって、思い返してみるとこの時、『迷い人』という言葉を使ったのは、少しうかつだったかもしれない。まだこの時、迷い人がどういう扱いを受けているのか知らなかったのだから。
俺が返事を返すと固まっていた女性は、再起動し、少し驚いた表情を見せた後、口を開く。
「迷い人・・・。そうだったのね。それならあの奥の方に迷い人用のカウンターがあるからそこで手続きしてくれるはずよ」
そう言って親切にも場所を教えてくれたのだった。なんだろう、この世界は優しい人ばかりなんだろうか。なんて良い世界なんだろう。
「ありがとうございます!お姉さん」
俺は彼女にお礼を言うと教えられたカウンターの方まで向かっていった。後ろの方から、お、おね?という言葉が漏れていたようだが、俺は全く気が付かなかったのである。
俺が例のカウンターまで辿り着くと、そこは他のカウンターとは違い、並んでいる人もおらず、受付嬢らしき人がけだるげにカウンターに座っていたのだ。
俺は、彼女の元へと向かう。近くでよく見てみると、銀髪の似合うとてもきれいな女性であったが、その態度や雰囲気で全てを台無しにしている。ちなみに先ほど触られそうになって威嚇していたコンは、あの後すぐに頭の上から俺の服のなかへとポジションチェンジしている。よっぽど触られたくなかったのだろう。
それはさておき、俺は彼女に声をかける。
「あの~、ここで迷い人用の説明を受けれるって聞いてきたんですけど」
受付嬢は、間髪をいれずに答える。
「嫌っす。めんどうっす。あっちに資料があるからそこを見てほしいっす」
なんともやる気のない状態だ。しかもこちらの方をまるで見ないオプション付きだ。
しかし、俺も困った。どれが資料なのかもわからないし、受付嬢がさしている場所も検討違いの場所を指している。
「ねぇ、ちゃんと説明してくれない?まったくわからないんですけど」
「んー、ちゃんとそこにあるっす。めんどいっすね。ん?あれ?ひょっとして迷い人?」
受付嬢がめんどくさそうに顔をあげて、俺の顔を見ると途端に態度が変わったのだ。俺が迷い人だって言っていたのに、それをまるで聞いていなかったようだ。そして、俺の顔を見て初めて気付いたのは謎だ。
「だから最初からそう言ってるだろ。というかなんで話し聞いてないのに分かるんだよ」
思わず言葉が荒くなってしまう。今までが他の人に優しくされてきたこともあってか無意識的に今回もきっとそうだろうとどこかで思っていたのだろう。
それに対し、受付嬢は少しばつが悪そうな顔をして返事する。
「それは悪かったっす。なんで分かったかというと迷い人に良く見られる特徴っすからね」
そう言って、俺の髪の方を指す。おそらく黒髪のことを指しているのであろう。後でよくよく聞いてみると迷い人は多種多様だそうだが、その中でも特に黒髪と黒眼を持っている人が多いらしい。
「それじゃあ、迷い人について説明を始めるっす」
そう言って受付嬢は、話し始めた。




