リーゼ大明神
「リーゼ、ありがとう!」
俺は、リーゼにお礼を述べた後、改めて渡された物を見てみる。それは、星のような形をしていて、ただの置物にしか見えなかった。正直、何に使うものなのかはさっぱり分からない。彼女の説明によると、危なくなったら上に投げろとのことだが、これがなんとかしてくれるのかとても不安だ。
「ユーゴさん。そんな心配そうな顔をされなくても大丈夫ですよ。実は、この道具には、魔法が込められていて、上に投げることで魔法が発動するんです。見た目は、少し頼りないかもしれないですけど、意外と強力な魔法ですので、逃げる時間くらいは稼いでくれるはずです!」
俺の不安そうな様子を察したのか、リーゼは、一生懸命大丈夫だと説明してくれる。大きく身振りや手ぶりを入れていて、俺に大丈夫だと分かるように必死に伝えようとしてくれているのだ。
俺は、そんな彼女のかわいい姿を見て、ほっこりとした気持ちになり、少しずつ自分の中から不安が和らいでいくのを感じた。あんなにも一生懸命に彼女は、俺の為に説明してくれているのだ。そんな彼女の為にも、俺が信じないわけにはいかない。俺は、自分の顔を一度叩くと残っていた不安を外へと投げ捨てた。
「ありがとう!リーゼの話を聞いて、不安が取れたよ。やばくなったら使わせてもらうね。というか今までの経験上、リーゼから貰った物は、すごい物ばっかりだったからこれもとんでもないものなんじゃ……」
「わわっ!そんなそんな、逃げる時間を作るぐらいで精一杯ですよ。でも、ユーゴさんの不安が取れたようで安心しました。命を預けるような場面でと、言いましたので、ユーゴさんが不安になる気持ちもわかります」
リーゼは、少し照れたような様子で、俺にそう言った。
今にして思えば、俺はリーゼから毎回のように何かしらをもらって、そのとんでもないシロモノに驚いている気がする。ただ、そんな彼女からの貰いものを今回疑ってしまったことは、しっかりと反省しないといけない。本当にリーゼ様様である。
「リーゼ大明神様。いつもありがとうございます!」
「えっ?だいみょう……?よくわかりませんが、頭を上げてくださいユーゴさん。コンちゃんも真似しなくていいんですよ」
どうやらコンも俺の真似をして、彼女を拝んでいたようだ。ちなみにであるが、彼女の頭の上にいるスラちゃんも何故か俺たちと同じような動きをしている。楽しそうな雰囲気でも感じたのだろうか。
「それで、リーゼ。こいつには、どんな魔法が込められてるの?」
彼女から貰ったこの道具に、どんな魔法が込められているのか気になった俺は、彼女に聞いてみる。
「はい。こちらはですね、アステールという名前でして、実は……」
「おーい、リーゼちゃん!すまんが助けておくれ!」
リーゼが、俺にこの道具もとい、アステールに込められている魔法について、説明してくれようとしていた時であった。どこからか、リーゼに助けを求める声が聞こえてきたのであった。
「はーい。すみません、今行きます!」
リーゼは、聞こえてきた声の方に返事をすると、俺の方へと向き直り、申し訳なさそうな顔で見上げてくる。
「リーゼ。俺の方は、いいから行ってあげなよ。俺もそろそろ依頼に行かないといけないし、ちょうど良いタイミングだったかもね」
「ユーゴさん、すみません。それでは、私はあちらの方に行きますので、ユーゴさんも依頼がんばってくださいね!」
リーゼは、やはり申し訳なさそうな顔で、俺に謝ると、声が聞こえてきた方へと走っていったのだった。
俺たちは、彼女の姿が見えなくなるまで見送ると、リリアさんと約束した待ち合わせの場所へと向かったのであった。
俺たちが、リーゼと別れて待ち合わせ場所に辿り着くと、そこにはすでにリリアさんがいたのだ。
「ユーゴさん。遅いっすよ」
どうやら彼女の方が、早く着いたようで、待たせてしまっていたようだ。
「リリアさん。遅くなってごめん」
「私の方も思ったより早く終わったので、大丈夫っすよ」
俺が、遅れてきたことを謝ると、彼女は、あっさりと許してくれた。俺が、そのことに安堵していると、彼女から何かを手渡される。それを良く見てみると、どうやら地図のようであった。ところどころに矢印や丸いマークが付けられている。
「ユーゴさん。一応分かりやすいように地図には、マークを付けてるっすからそれを参考にして、今回の討伐対象がいる所へと向かってください。あんまりもたもたしてると日が暮れちゃうかもしれないっすよ」
リリアさんは、そう言ってニコッと俺に微笑みかけると、街の外へと出て行ったのだ。
「えっ?リリアさん、ちょっと待ってよ!」
俺は、急いで彼女の後を追いかけて行ったのであった。




