依頼の準備
「えっ? リリアさんも一緒にきてくれるんですか?」
「そうっすね。今回だけは同行させてもらうっすよ。とはいってもあくまでもメインはユーゴさんたちっすからね。途中までは、一緒にいくっすけど、それ以降は別行動っす」
リリアさんの言葉に俺は驚いていると、彼女はそう答えたのだ。
正直、俺としては、とても心強い。途中まではとはいえ、彼女も同行してくれるのだ。なんというか妙な安心感がある。コンも俺と同じようなことを思っていたのか、膝の上で嬉しそうに尻尾を振っている。
「ありがとう! 正直心強いよ」
「あはは。頼りにされるのは嬉しいっすけど、私は口出ししないっすからね。ユーゴさん達の力で進んで行ってください」
リリアさんは、やや困ったような笑顔を浮かべながら、俺にそう言ったのであった。
あの後、前回と同じように俺は、依頼を受ける手続きを済ませると、リリアさんと街の出口で落ち合う約束をした。ここから一緒に依頼に向かった方が早いのだが、どうやら彼女には少しやることがあるようなのである。
「ユーゴさん。私が昨日さしあげた魔法のかばんは、必ず持ってきてくださいね。今回は絶対に必要になるっすからね。絶対っすよ!」
彼女は、去り際に俺にそんな言葉を残していったのだ。
正直なところ、俺は、討伐の依頼をこなすうえでは、邪魔になるだろうと思い、持っていかないつもりであったのだ。しかし、彼女にしては珍しく強く念押ししていたので、きっと必要になる理由があるのだろう。そう思った俺は、宿へと魔法のかばんを取りに向かったのであった。
その後は、特に何かが起こるわけでもなく、宿へと辿り着いた俺たちは、部屋へと戻っていき、魔法のかばんを取るとすぐに宿を出たのであった。
「とりあえず、リリアさんに言われてた魔法のかばんは持ってきたけど、他に準備する物はあったっけなぁ。なぁ、コン。お前は他に準備する物は何か思いつくか?」
俺は、服の中からひょこっと顔だけ出しているコンに問いかける。コンは、少しの間、俺の顔をじーっと見たあと、首を傾けたのだ。どうやらコンも特には思いつかなったようだ。
コンは短く、こゃー、と鳴くと申し訳なそうな顔をしている。
「コンは、そんな顔をしなくてもいいんだよ。俺が思いつかなかっただけだからさ。ほら、この昨日買ったポムポムでも食べて元気出してくれよ相棒」
俺は、魔法のかばんの中からカットされたポムポムを取りだすと、コンの前まで持っていく。コンは、俺の顔をちらっと見た後、ポムポムを食べ始めたのだ。
「こゃーん!」
コンは、ゆっくりとポムポムを食べ終えると元気に一声鳴いたのだ。ひとまず、コンが元気を取り戻してくれたようで俺は安心したのであった。
結局のところ俺とコンは、このまま約束の場所へと向うことに決め、歩き始めたのだ。歩いている途中で、昨日ポムポムを買ったお店が見えてくると、コンは鼻をひくひくとさせ、俺の身体をペシペシと叩いてくる。どうやら、昨日と今日でコンは、ポムポムが相当お気に入りになったようだ。
「コン。まだポムポムは一つ残ってるから大丈夫だよ。それに今から依頼をこなしに行くんだから今は買わないぞ。どうしても欲しかったら依頼を終わってからだ」
俺は、コンに言い聞かせるように言う。その言葉を聞いたコンは、少し悲しそうな顔をしていた。
そうして俺たちが歩いていると、どこからか声が聞こえてくる。
「ユーゴさーん!」
聞こえてきた声の方を見ると、そこにはリーゼがいたのだ。
「リーゼ? どうしたの?」
「いえ、ユーゴさんをお見かけしましたのでつい声をかけちゃいました」
てへへ、と笑いながらリーゼはこちらに近づいてきたのだ。
そんな彼女の姿を眺めていると俺は、彼女の頭の上にスラちゃんが乗っていることに気が付いた。
「えっ? リーゼの頭の上にスラちゃんが乗ってる!?」
「はい。そうなんです! どうやらコンちゃんの真似をしているみたいで、私の頭の上にのってくるんですよ」
コンちゃんのことが、羨ましかったみたいですね、とリーゼは微笑む。そんな彼女の言葉を肯定するかのように、彼女の頭の上にいるスラちゃんは、プルプルと震えている。どことなく嬉しそうだ。
そんな彼女たちの様子をじっと見ていたコンは、少し誇らしげそうな顔をして俺の顔を見上げてくる。どうだ? すごいでしょ、と言わんばかりである。コンの期待に満ちた目に応えるべく俺は、ゆっくりとコンの頭を撫でる。
「ふふっ。コンちゃん嬉しそうですね。そういえば、ユーゴさんは、これから依頼ですか?」
「うん。今回は、討伐の依頼を受けるんだ。今から向かうところなんだよ」
俺の言葉を聞いたリーゼは、少しだけ驚いた顔を見せた後、なにやらかばんの中をごそごそと探し始めた。そして、お目当ての物が見つかったのか、何かを取りだすと俺の方に渡してくる。
「ユーゴさん。無茶したらダメですよ。危なくなったらすぐに逃げてくださいね。それと、もしもの時は、こちらを上に向かって投げてください。きっとなんとかなるはずですから」
彼女は、ひと言俺に注意を促すと、渡してきた物についてそう説明したのであった。




