所属の証
俺は、もう一度もふもふさんからもらったバッジを見てみる。不思議なことにこのバッジからはコンと同じ雰囲気が感じられるのだ。これでは、もふもふギルドに所属しているという証明以上に俺とコンが相棒だということを表しているように感じる。
「ふむ、その様子だと何か気付いたようじゃな」
もふもふさんは、そう俺に声をかけてきたのだ。
やはりと言うべきか、何やらこのバッジには、秘密がありそうである。俺は、無言でうなずくことで彼に返事を返す。そして、彼は、再び話し始める。
「実は、このもふもふギルドの証となるものは、人によってそれぞれ違っておっての。ユーゴ君に渡したそのバッジは、昨日こっそりとキミたちから頂いた毛を使って作っておるんじゃ。だからこそ、そこからはコン君の雰囲気が感じられるのじゃよ」
「えぇ! そうなんですか?」
俺は、もふもふさんの話を聞いてとても驚いた。まさか、人によって証が変わるとは思わなかったのである。どうやってこれが作られたのかも気になるが、それ以上に他の人がどんな物を持っているのか俺は気になってきたのだ。とはいえ、俺が知っているモフリストは、目の前にいるもふもふさんだけである。
俺は意を決して、もふもふさんにどんな証を持っているのか聞いてみようと思ったところで、予想外の所から声がとんできたのだ。
「ユーゴ君のは、バッジ型なのね」
その声の正体は、イリアさんであった。どうやら俺の手元を覗き込みながら声をかけてきたようだ。
「ちなみに私の証はこれよ」
そう言って、イリアさんが見せてくれたのは、指輪であった。それには、ネコによく似たもふもふ生物が可愛く描かれている。
「そこに描かれている子可愛いですね! ……えっ? もしかしてイリアさんモフリストだったんですか!?」
「あら? 言ってなかったかしら。私は、モフリストでもあり、このもふもふギルドの職員でもあるのよ」
イリアさんは、胸を張ってそう言ったのだ。
俺は、彼女の言葉を聞いて驚愕した。まさか、こんな身近にモフリストがいたとは思わなかったのだ。
「ちなみにリリアもモフリストよ」
イリアさんは付け加えるように言った。
俺は、それを聞いた瞬間言葉を失った。まさかもっと身近にいたとは思わなかったのである。俺は、機械のような動きで首を動かして、リリアさんの方を見てみる。彼女は、なはは、と苦笑いしながら俺の方を見ていた。
「リリアさんもモフリスト?」
「なはは、そうっす。黙っててごめんなさいっす」
俺が、確認するようにリリアさんに問いかけると、彼女はあっさりと認め謝罪したのだ。
正直、俺の頭では理解が追い付かない状況である。
「こんな時は、モフるに限る」
俺は、そう小さく呟くと、いつの間にか俺の膝の上に戻ってきていたコンを思いっきりモフり始めたのであった。
コンをモフることで落ち着きを取り戻した俺は、改めてリリアさんに話しかける。
「ちなみにリリアさんの証は何?」
「えっ? ひ、秘密っすよ!」
リリアさんは、取り乱したかのように慌ててそう答えたのだ。
しかし、俺には彼女が慌てる理由も隠す理由も全く分からない。もう一度俺は彼女に聞いてみる。
「秘密って、別に隠さなくても」
「ダメなものは、ダメっす。乙女の秘密っすよ」
相変わらず、彼女は断固として答えようとしない。何がそこまで彼女を駆り立てるのだろうか。
そうまでして隠されると、俺は余計に気になってきたのだ。
「リリアのって確か……」
「お姉ちゃん! ダメっす!」
「えっ? でも」
「ダメっす」
俺が気になっていると、イリアさんの声が聞こえてくる。二人は姉妹ということもあってか彼女はリリアさんの証が何か知っているようだ。
しかし、即座にリリアさんが遮ってしまい、結局のところ何かは全く分からない。今のところは、知るのは諦めた方が良いのかもしれない。これ以上藪をつつきすぎると、何か恐ろしい物がでてきそうな気がするのだ。
「ふぉっ、ふぉっ。リリア嬢の証は一度置いとくして、実はユーゴ君のもふもふバッジも最初は違う姿をしておったんじゃよ」
イリアさんの口を必死にふさいでいるリリアさんを横目に、もふもふさんは俺に言ったのだ。
「えぇー! 最初は違う形だったんですか!? どんな形でしたか?」
「ふぉっ。それは秘密じゃ」
俺は、衝撃の事実にとても気になっていたのだが、どうやらもふもふさんは教えてくれないようである。正直残念だ。そんな俺の気持ちがおそらく表情に出ていたのであろう。もふもふさんは、優しげな声で再び話しかけてきたのだ。
「なに、心配することはないぞ。ユーゴ君が、モフリストとして成長していけば自ずとその本来あった姿を見ることができるじゃろ。とはいえ、まだこの世界に来て日が浅いじゃろうからまずは生活を安定させることじゃ。しばらくはあちらのギルドでリリア嬢から依頼を受けるといいじゃろ」
彼の言葉を聞いた俺は改めて、自分の為にもそしてコンの為にもまずはお金を稼ぐべきだと改めて痛感したのであった。




