もふもふバッジ
「えっ? もふもふさん!?」
俺はとても驚いた。まさか俺たちの近くにまで来ているとは思ってもいなかったのだ。なんというか色々な意味でもふもふさんには、驚かされる。
そして、どうやらそのように思っていたのは俺だけじゃなかったようで、リリアさんやイリアさんもとても驚いた顔をしていたのだ。
「ふぉっ、ふぉっ。そんなに驚かんでもええじゃろ。なに、扉が開きっぱなしで、何やら楽しそうな声が聞こえてきたのでな」
「申し訳ございません。私の不注意で、開けたままにしてしまいまして……。えっ? 楽しそうな声ですか?」
もふもふさんの言葉を聞いてからすぐにイリアさんは謝罪した。しかし、何やら気になる言葉があったのか彼女は首をかしげている。
イリアさんは、少しの間なにか考えたようなそぶりを見せた後、もふもふさんに尋ねたのだ。
「あの、失礼ですが、いつから見てらしたのですか?」
「ふむ、ちょうど君がリリア嬢と何やら見つめあっていた時ぐらいかの?」
もふもふさんは、ニコニコと微笑みながらそう答えたのだ。
つまりは、ほぼ最初から見ていたということであろう。
その言葉を聞いたイリアさんは、呆然としていた。まさかほぼ全て見られていたとは思わなかったのだろう。徐々に彼女は現実を認識し始めたのか、段々と顔が真っ赤になっていき、その場で頭を抱えて蹲ってしまったのであった。
「さて、ユーゴくん。部屋に行くとするかの」
もふもふさんは、イリアさんが落ち着いてきたタイミングを見計らって俺にそう声をかけてきたのだ。俺はそれにわかりましたと返事をして、もふもふさんの後をついていく。
ちなみにイリアさんだが、あの後俺とリリアさんで全力で慰め、最終的に角うさぎを抱きしめることで元に戻ってくれたのだ。今も角うさぎを大事に抱きしめて彼女は語りかけている。
「ぷぅちゃん。君だけだよ。わかってくれるのは」
「ぷぅー」
角うさぎは、少しだけ居心地悪そうにしていたが、結局諦めたのかそのままイリアさんの手の中で寝る態勢に入ったのだ。
それにしても、ぷぅちゃんってあの角うさぎの名前なんだろうか。俺がそんなことを考えていると、顔に考えが出ていたのかリリアさんが耳打ちして教えてくれる。
「ちゃんと決まったわけじゃないっすけど、お姉ちゃん以外にもぷぅちゃんって呼んでる人はいるみたいっすね。多分その名前になるんじゃないっすかね」
そういうことらしい。安直ではあるが、可愛らしい名前だし覚えやすくていいんじゃないだろうかと俺は思う。
そうこうしているうちに俺たちは部屋の前まできたのだ。
「さて、ユーゴくん。この部屋に入るんじゃ」
もふもふさんの言葉に従い、俺達は部屋へと入っていく。その後、もふもふさんの勧めにより、彼の対面になるように俺はソファに腰掛ける。しかし、女性陣二人は、ソファの後ろに立ったまま待機している。
「では、話を始めるとするかの」
「ちょっと待ってください」
もふもふさんがこのまま話し始めようとしたところで俺は、待ったをかける。リリアさん達二人を立たせたままというのは、どうにも落ち着かないのだ。
「あの、すみません。リリアさん達は立ったままなんでしょうか?」
俺は、もふもふさんにそう尋ねた。
もふもふさんは、ふむ、と少し考えるようなそぶりを見せた後、リリアさんとイリアさんの方をそれぞれ見て言ったのだ。
「では、二人ともそういうことみたいじゃからユーゴくんの隣に座りなさい」
リリアさん達は、わかりましたと答えて、そのまま俺の隣へと座ってきたのだ。
先ほどまでは、二人を立たせていたことに申し訳なさを感じていたが、今は美人な二人に挟まれて少し緊張してきた。両手に花のような状況が今度は落ち着かないのだ。
俺はふと二人の方を見てみる。イリアさんの方には、相変わらず角うさぎがいて、今は完全に眠ってしまっている。リリアさんの方には、いつの間にやらコンがいたのだ。どのタイミングで彼女の方に移ったのかは分からないが、彼女の膝の上にちょこんと座って俺の方を見ていた。この状況はある意味両手にもふもふとも言えるかもしれない。
「うぉっほん。今度こそ話はじめるとするかの」
もふもふさんは、大丈夫かと俺に確認してくる。それに対し、俺は大丈夫だと答える。
「まずは、ユーゴ君。このもふもふギルドへの入会おめでとう。これにて、モフリストとしての道への第一歩を歩み始めたことになるのじゃ」
もふもふさんは、そう言って俺にバッジのようなものを渡してきたのだ。そのバッジの形は、まるでコンの尻尾のようなとてもモフりがいのありそうな形をしている。
「そのもふもふバッジは、君がこのもふもふギルドに所属していることを証明する物なんじゃ。それには、盗難防止として、本人にしか使えないし、盗られないような魔法もかけられておるのじゃ」
もふもふさんは、そう俺に説明したのであった。




