長い一日の終わり
俺ともふもふさんは、少しの間、お互いの相棒たちが満足するまで彼らをモフっていた。そうして、彼らが満足すると俺ともふもふさんは、顔を見合わせる。
「ユーゴくん。ちと長くなってしまったし、今日のところはこれまでにしようかの」
もふもふさんは、そう言うと、これで終わりじゃ、と一度話を切ったのであった。
その後、俺たちは、温泉に入っていなかったこともあり、身体をしっかりと洗ってから温泉に浸かる。そうして身体も心もリフレッシュさせると、もふもふさんとは、ここで別れることとなった。
「ではな、ユーゴくん。明日ギルドの方で待っておるぞ」
「はい。俺も明日は楽しみにしています」
俺は、もふもふさんに挨拶をすませると、そのまま温泉から出ていく。どうやら彼は、後から帰るようなので、俺は先に出たのだ。
「ユーゴ様、お待ちしておりました」
そう言って俺に声をかけてきたのは、ここまで案内してくれた受付嬢であった。
「えっ? 受付嬢さん!?」
俺は、とても驚いていた。正直なところ、俺の案内が終わった後にそのまま帰ったとばかり思っていたのだが、もしかしてずっとこの場所にいたのだろうか。嫌な予感がしつつも、気になったので俺は彼女に聞いてみる。
「受付嬢さん、もしかしてずっとここにいたんですか?」
「それが私の仕事ですから」
彼女は、相変わらずの無表情でさらっと答える。表情が変わらないので、なんと思っているのかは分からないが、どこか怒っているような気がする。俺の中で申し訳なさと罪悪感が大きくなってくる。彼女に一言謝らないと思い、声をかけようとしたところで、再び彼女から声をかけられる。
「では、ユーゴ様お時間も遅いですので宿までご案内いたしますね」
彼女は、俺に向かってそう言うと、すたすたと歩き始めていったのだ。
俺は、目の前での出来事に少しの間、呆然としていたが、我に変えると急いで彼女の後を追いかけていったのだ。
「ちょ、待ってくださいよ!」
俺は、受付嬢の後ろについて宿までの道を歩いていく。
先ほどのことについて、彼女に追いついた段階で、謝罪はしたのだが、大丈夫ですの一点張りであった。彼女が言うには、宿から温泉までと温泉から宿までの案内が仕事だからそれも仕事のうちということらしい。だからこそ、待っていることも織り込み済みなんだそうだ。
俺の罪悪感がどんどんと増してくる。では、待っている間に一度戻っていればよかったのではないかと思い、彼女に聞いてみる。
「ユーゴ様がいつ戻ってこられるか分かりませんでしたので、流石にそんな状況では抜けられませんよ」
彼女はそう答えたのだ。言われてみれば確かにそうである。結局のところ、俺の疑問は解決したが、さらに俺の罪悪感が増えるだけで終わったのだ。また、どこかの機会で彼女にもお礼をしないといけないなと考えていたところ、俺は彼女の名前を知らないことに気づく。せっかくの機会であったので、俺は彼女に名前を尋ねる。
「そういえば、受付嬢さん。名前はなんていうんですか?」
「ユーゴ様? それはナンパでございますでしょうか?」
彼女は、冷ややかな目で俺を見つめている。
俺は、彼女のそんな態度を見て慌てて否定する。
「ち、ちがいますよ。先ほどは長い間待たせてしまったので、そのお詫びをしようと思いまして。それであなたの名前を知らないことに気が付きましたので」
慌てていたせいか、言葉が若干変になってしまった気がする。
そんな俺の言葉を聞いていた彼女は、少しだけクスッと笑うと俺に言葉を返したのであった。
「フッ、おかしな人ですね。そうですね、名前は秘密にしておきます。私のことはお好きにお呼びください。それとお詫びの件ですが、せっかくですので受け取らせていただきますので、また考えておきますね」
彼女は、それだけ言うと前を向いて再び歩き始めた。
俺は、彼女が一瞬だけ見せた笑った姿に驚いたと同時に少しだけ見惚れていたのだ。いわゆるギャップというやつにやられたのかもしれない。
それはともかく、名前は結局教えてもらえなかったが、お詫びは受け取ってくれるようで良かった。少しだけ俺の罪悪感が減ったような気がする。
そして、俺たちはようやく宿へと戻ってきたのだ。
「ユーゴ様。お疲れさまでした。ごゆっくりとお休みくださいませ」
受付嬢は、そう言うと俺に一礼するとそのままどこかへと去ってしまった。
そして、俺も自分の部屋へと戻っていく。ちなみにコンであるが、疲れが溜まっていたのか、温泉を出てからは、器用にも俺の頭の上に乗りながらすっかりと寝てしまっている。俺自身も今日は色々なことがあって、かなり眠たい。部屋に戻ったらさっさと寝てしまおう。
俺は、自分の部屋まで戻ってくると枕元にコンを寝かせて俺自身もベットの上に転がった。すると、すぐに眠気がやってくる。眠気に誘われるがままに俺は寝る態勢に入る。そして、俺の意識が落ちてしまう前に何かが聞こえてきたのだ。
称号小狐からの信頼を獲得しました。
これにより小狐に対する理解が少しだけ上がります。
しかし、俺はその何かを特に気にするでもなく、そのまま眠りに入ったのであった。




