ケルちゃん
少し遅くなってしまいましたが、どうぞ。
「もふもふさん。せっかくなのでその岩竜を見せていただけませんか?」
「ユーゴくん。それは構わんのじゃが、本当に大丈夫かの?」
俺の言葉に、少し心配そうにしながらもふもふさんは、尋ねてくる。先ほどまでのやり取りが若干尾を引いていそうだ。
そんな彼に対して、俺は答える。
「先ほどまでの試していた時ならともかく、今はまた状況が違いますので大丈夫ですよ。それにもふもふさんの相棒も気になりますしね」
もふもふさんは、俺の言葉を聞いて少し考えこんでいるようだ。その姿は、真剣な様子で、先ほどまでの申し訳なそうな顔はすでに消えている。
彼の様子が戻ったようなのを見て、俺はひとまず安心した。実際に何かあったのであればともかく、何も困るようなことがあったわけでないのだから、もふもふさんにそんな顔をさせるのがとても申し訳なかったのだ。
そして、考えがまとまったのかもふもふさんは、顔をあげると俺の方を見て、口を開いたのであった。
「ふむ。では、君の要望通り、この子を見せてあげようかのう」
彼は、ひと言、おいで、と例の岩山もとい岩竜に声をかける。すると、何やら大きな音を立てて、岩竜は立ち上がったのだ。その姿はとてつもなく大きい。
そして、俺が岩竜の大きさに驚いていると、岩竜は振り返ってもふもふさんの方を一度見てから、俺の方をじっと見てきた。本来であれば、その姿には、とても恐ろしい物を感じてしまうかもしれないが、むしろ目元がくりっとしていてかわいい。
「この子は、ケルちゃんじゃ。最初に言っておくとこの名前は、本当の名前ではないのじゃが、リーゼ嬢からつけられた名前でのう。本人は気にいっておるようなので、名前を呼ぶ時はそう呼んでやってくれんかのう」
もふもふさんは、やや困ったような顔をしながらもそう言った。おそらく彼は、その姿とケルちゃんという可愛らしい名前のギャップに戸惑っているところがあるのだろう。しかし、それでも彼は、ケルちゃんがその名前を気にいっているという事実をしっかりと受け止めた上で、その名前を使ってあげているのだ。モフリストの一端が垣間見えたかもしれない。
俺は、せっかくなので、ケルちゃんの名前を呼んでみることにした。ケルちゃんがどんな反応を見せるのか少し気になったのだ。
「ケルちゃん!」
「プルアァァァ!」
俺がケルちゃんの名前を呼ぶと、ケルちゃんはその姿からは想像できないくらいの可愛らしい声を出して、俺に返事をしたのだ。どことなく自分の名前を呼ばれて嬉しそうにしている。
そんなケルちゃんの姿を見て、俺はどんどんケルちゃんのことが可愛く思えてきたのだ。その姿は、とても大きくて、何も知らずに見たらきっと怖いと感じるであろう。しかし、その表情や目元、声などが見た目のギャップに反して可愛いのだ。
俺が、ケルちゃんに魅かれていると肩の上に乗っていたコンがペチペチと何度も顔を叩いてくる。しかもそのコンのパンチは、いつもと違いとても痛いのだ。まるで自分のことも見ろと言わんばかりである。そんなコンの様子に流石に罪悪感を感じた俺は、コンに謝ると思いっきりモフり倒し始めた。
コンをモフりながらも横目でもふもふさん達の方を見ると、彼はケルちゃんの頭を優しく撫でていた。撫でられているケルちゃんは、とても気持ちよさそうにしている。そして、もふもふさんは、一通りケルちゃんの頭を撫で終わった後もあの手この手でケルちゃんをモフっていて、その度にケルちゃんも気持ちよさそうにしていた。
「すごいなぁ!」
俺は、素直にそう感じた。彼がモフるだけであんなにも気持ちよさそうなのだ。以前のタイガードラゴンにせよ、ケルちゃんにせよ、凶暴性を持っていたものにあんな顔をさせるその技術には、感服である。正にこれぞ超一流のモフリストが成しえる技だと言えるかもしれない。
そんなふうによそ見をしていたのが悪かったのであろう、コンをモフる手が中途半端に止まっていたのだ。コンは、不満そうな顔を見せながらも俺の手を甘噛みしている。
「コン、ごめん!」
俺は、コンに謝罪すると再びモフりはじめる。人のことを気にする余裕も技術もないのだからまずは、コンとしっかりと向き合わないとな、と俺は思ったのであった。




