貸し切り温泉での問答
俺たちは、酒場での食事を終えると、一度部屋へと戻っていく。約束の時間までは、もう少しあるので、それまで部屋で休むことにしたのだ。
「それにしても美味かったな」
俺は、ポツリと呟く。先ほどの酒場でのご飯はとても美味しかったのだ。ただし、少し見た目がグロテスクなのを除けばであるが。
コンが食べていたご飯は、見た目からして美味しそうなものであったので、おそらくシンプルなものもあるのだろう。次酒場に行く時は、オススメ品以外を頼もうと俺は心に誓ったのであった。
部屋で、コンとゆったりとして過ごしていると、そろそろ約束の時間が近づいてきた。宿から温泉までは、少し離れているので、そろそろ向かった方がいいだろう。そう思った俺は、準備を整えて、コンを頭の上にのせると、部屋を出て、ひとまずロビーを目指す。そして、ロビーに着き、宿を出ようとしたところで、俺は声をかけられる。
「ユーゴ様、お待ちしておりました」
その人は、先ほどの受付嬢であった。どうやらこの出入り口で待っていたような感じだが、なんだろうと思った俺は彼女に聞いてみる。
「えっ?どういうことでしょうか?」
「もふもふ様よりユーゴ様を温泉まで案内するよう伝えられておりますので、こちらでお待ち致しておりました」
彼女は、そう答えた。どうやらもふもふさんから頼まれていたようだ。
それにしてもと俺はふと思う。この出入り口で待っていたとのことだが、もし俺が部屋にいたままだったら彼女はどうしたのだろうか。
「もし来られないようでしたら、時間に間に合う程度には、お部屋にお伺いする予定でございました」
俺の考えていたことが、顔にでていたのであろうか、彼女は俺の内心の疑問に答えてくれたのだ。正直俺としては、あっさりと見抜かれてしまったことが少し恥ずかしい。そして、そんな俺の状態を知ったことかと、コンは先ほどから俺の頭をペシペシと叩いている。
そんな俺たちの様子を少しの間見ていたであろう受付嬢は、口を開いたのであった。
「お時間もそんなに余裕があるわけじゃないですので、さっそくご案内いたしますね」
受付嬢の案内の元、俺たちは温泉へと辿り着いた。昨日と違い、貸し切り、と大きな文字が書かれた看板がたっている。
彼女は、俺たちの方を振り向くと、口を開いた。
「ご覧の通り、本日はもふもふ様により貸し切りとなっております。どうぞ、中へとお進みください」
「受付嬢さん。案内ありがとうございます」
俺は、そう言って彼女にお礼を言うと、頭を下げている彼女の横を通り過ぎていく。その時に彼女からお気をつけくださいませ、という言葉が聞こえてきた気がしたが、そのまま中へと入っていった。
温泉の中へと入っていくとすでにもふもふさんがいた。彼はニコニコとしながら俺の方を見ていたので、俺は急いで彼の元へと向かう。
「もふもふさん、遅くなってしまいすみません」
「なに、大丈夫じゃよ。私が早めに来ておっただけじゃからの」
もふもふさんが、先にいたので少し焦ってしまったが、どうやら彼は早めに来ていただけであった。
俺は、さっそく本題に入る為に彼に聞いてみる。
「あのお話とは、何でしょうか?」
「なに、少し君と話してみたかっただけじゃよ」
ホッホッホ、ともふもふさんは笑う。
そして、もふもふさんは、俺とコンを交互に見てなにやらうんうんと頷いている。
「昨日見た時もそうじゃったが、君とその狐はとても仲が良いみたいだね。出会ってからはどれくらいになるんじゃ」
「出会ってからは、実はまだそんなに日も経ってないんです。ええ、そうなんです。少しずつコンの言いたいことや嬉しいことも分かるようになってきて、もっとこいつのことを知りたいですね」
もふもふさんの質問の真意はまるで分からなかったが、俺は今の気持ちをそのまま伝える。
俺の話を聞いたもふもふさんは、少し驚いた顔をした後、嬉しそうな顔を浮かべて言葉を発した。
「昨日も言ったかもしれんが、その狐は少し特別での。それほどの短い期間で、ここまで仲良くなれてることには、とても驚いたのじゃ。私があれこれ言うよりもその狐を通して、もっとその狐のことを知っていくのがいいじゃろ」
「はい。もっとコンからコンのことを知っていこうと思います!」
俺はそう答えたのだ。正直、まだまだコンのことについては知らないことが多い。他の人から教えてもらうことそれも一つだとは、思う。しかし、他ならぬコンのことについては、俺自身がコンからコンのことを知っていかなければならないと強く感じているのだ。そして、コンにも俺のこともっと知ってもらいたいと思う。なんせ、俺たちはあくまでも対等であり、且つ相棒なのだから。
俺は、時折されるもふもふさんからの質問に答えながらもコンのことについて、たくさん話した。俺の拙いながらの話をもふもふさんは、嫌な顔をひとつ見せず聞いてくれたのだ。
そして、もふもふさんは、俺の話を聞き終えると口を開いたのであった。
「ユーゴくん、モフリストギルドへの面接試験合格じゃ!」




