小狐との出会い
大きな光に包まれた後、目の前に現れたのは小狐であった。
「こゃーん!」
その狐は、一つ大きく鳴くと、俺の顔目がけて飛びかかり、その小さな足でテシテシとやり始めたのだ。
「うわっ、ちょっ」
思わずそんな声がでる。決して痛いわけではないのだが、そこはかとなくこそばゆいのだ。
そんな俺に所かまわず、小狐はテシテシと続ける。俺はそんな行動を止めるため、小狐を両手で持ち上げた。その結果、小狐の顔が目の前に来ている。少しの間、お互いじっと見つめあっていたが、小狐は、鼻をひくつかせ、ひととおり俺のにおいをかぐとそのまま俺の顔をぺろぺろとなめ始めたのだ。
「ちょっ、くすぐったい」
俺は、小狐があまりにも俺の顔をなめるので、よくわからないテンションになり、全力で小狐をモフりはじめた。
小狐をモフり始めてからしばらく時間が経ち、正気に戻った俺は、小狐に名前がないことに気がづいた。
「このまま小狐と呼び続けるのも味気ないし、今からお前の名前を考えるか」
それに相棒だもんな、と思った俺は、小狐を胸に抱きかかえながら名前を考え始めたのだ。
「うーむ、何がいいだろうか。狐……といえば、いなり? お稲荷さん。いやダメだな。ゴン? いやとあるマンガが思い起こされるし、どうも合わないな」
頭を悩ませるが、どうにも良い名前が思いつかない。そういえば、この子が最初に鳴いたときは、こゃーん、だったな。確か狐の鳴き方は、人によって聞こえ方が二種類ぐらいに分かれていたはずだ。そういうことならもう一つの方をとって……。よし、名前がきまったぞ。
「小狐さんや、お前の名前は今からコンだ!」
俺がそう小狐に話しかけると、しばらく俺の顔を見た後にちょこんとうなずいた。これにて、小狐の名前はコンに決まったのだ。
名前が決まってからコンとしばらく戯れていた俺であったが、当初の目的を思いだすと、コンと一緒に扉の前まで向かっていく。
しかし、やはりというべきかこの白い部屋唯一の脱出口であると思われる扉は、うんともすんとも言わない。
「やっぱり、まだこの扉は開かないのか」
思わず俺は、呟いた。おそらくコンを召喚するだけではまだ不十分なのであろう。まだ調べられていない場所といえば、謎の本棚だけのはずだ。
そう思った俺は、本棚の方へと向かっていく。
俺たちは、本棚の前までたどり着くとそちらの方を見てみる。やはり本がぎっしりと詰め込まれていた。これだけの膨大な数の本を読むのは到底無理であろう。さらにつけ加えるなら、どの本にもタイトルが書かれておらず、どの本がどんな内容なのかすら全くわからない。
残る手掛かりは、この本棚ぐらいしかないので適当に本を一冊手に取ってみる。見た目は、とても分厚いこと以外には、特にこれといった特徴はない。そして、やはりここにもタイトルが書かれていないのだ。内容は読んでからのお楽しみというやつである。
ここで立ち止まっていても仕方ないので、思い切って俺は本を開いてみる。それと同時に本が輝きだし、頭の中に何か情報が入ってくる。おそらくこの本に書かれている内容だ。次々と情報が頭の中に入ってきてとてもじゃないが、破裂しそうなぐらいの痛みが襲ってくる。そして、ようやく情報が入ってくるのが終わったかと思えば、最後に頭の中に直接声が聞こえてきたのだ。
異世界言語を習得しました。
これにより、全ての異世界言語が理解できます。
称号小狐との契約者を獲得しました。
これにより、小狐に対する理解が少しだけ上がります。
その言葉を最後に頭の痛みと本から発せられる光が止んだのであった。
そして、俺が手に持っていた本は、いつの間にか地面へと落ちてそのままこの白い部屋へと溶けるかのように消えてしまった。
俺は、その不思議な現象を見たあと、急いで本棚があった方へと目を向けるとそこには、最初からそうであったかのように何も存在しなかったのだ。
俺は、あまりの出来事に唖然としていたが、コンが同じように消えてしまっていないか心配になり、コンがいるはずの方向を向くと、そこには首を傾げて不思議そうにこちらを見ているコンがいた。
「よかった。コン、お前まで消えてなくてよかった」
俺は、心の底から安堵し、コンを両手で抱きかかえると思いっきりモフりはじめたのだ。
「それにしても唯一の手掛かりも消えてしまったな」
俺は、もう一度本棚があった場所を見る。やはり、そこには何も無い……。これであらかた調べられるところは、調べ終わったはずだ。
「もう一度だけ試してみるか」
俺は、もう一度例の扉が開かないか調べる為に扉の方へと向かっていく。相棒のコンは、マイペースなのか俺の頭の上に乗ってゆったりとしている。ドアの前までたどり着いた俺たちが、その扉に触れると、先ほどまでと違い、その扉は、今度は音を立てて横に開いていったたのであった。
「やった。何がなんだか全くわからないけど、ようやくこの部屋から脱出できる」
俺たちは、そうしてこの白い部屋から出ることに成功したのであった。