クラリッサ
「あ、あなた様は、クラリッサさんじゃないですか?」
おっちゃんの声が、周りへと響き渡る。すると、街の中に入ろうとしていた人、街の外に出ようとしていた人などがクラリッサという名前に反応して、キョロキョロとし始めたのだ。
当の本人は、少し恥ずかしそうにしながらもおっちゃんに抗議していた。そして、そのかいあってかおっちゃんは口を閉ざした。
「おねえさん、有名な人だったんだな」
その一連の流れを見ていた俺は、ぽつりと呟いた。俺の言葉を聞いていたであろうおっちゃんは、再び口を開いた。
「あったりめぇよー。なんといってもクラリッサさんは、ギルドのAランク冒険者でな。その一振りの剣で数々の凶暴な魔物達を倒してきたんだぜ」
おっちゃんは、得意げな顔をして機嫌よく話し出した。彼女のファンなのであろうか。とても生き生きとしている。
しかし、おっちゃんは突然真面目な顔をすると、俺に問いかけた。
「坊主、早くいかなくて大丈夫か?多分、その角うさぎなんとかしたいんだろ?」
俺は、その言葉にとても驚いた。まさかそこまで気付いているとは、思わなかったのである。それよりも止められると思っていたので、本当にこの子を連れて入って大丈夫なのかとおっちゃんに尋ねた。
「大丈夫だ。そういうのは、もふもふさんで慣れてるからよ」
おっちゃんは、そう答えたのだ。聞いた話によると、もふもふさんはよく何かしら連れてくるそうで、おとなしいやつからそれこそ凶暴な奴も含めてなんでも連れてくるらしい。そして、時には龍種をつれてきたこともあるそうなので、そんなのと比べてしまえば角うさぎなんて可愛いものらしい。なんとももふもふさんの異常さが分かる話である。
正直とても気になる話であったので、もう少し聞いていたかったが、角うさぎのこともあるので、おっちゃんにお礼だけ言うと、俺たちは街の中へと入っていったのである。
俺たちは、ギルドへと向かう道すがら軽く自己紹介をしていた。
「私はクラリッサ。先ほど門番のおじさんも言ってたけど、討伐をメインにやっているAランク冒険者よ」
すきに呼んでもらっていいわ、と彼女は付け加えて言う。
「俺は、ユーゴです。この威嚇しているのが相棒のコン」
先ほどまでは、体力がなかったこともあってか俺の頭の上でおとなしく寝ていたが、今は起きていて相変わらず彼女に向かって威嚇している。そんなコンを見て、やはり彼女は悲しそうにしていた。彼女の話によると、昔からコンのような小動物や魔物から怖がられて逃げ出されたり、威嚇されたりする体質らしい。彼女自身は、可愛い小動物や魔物が好きらしいのだが、体質によって彼らを愛でられないのが悲しいようだ。
そんなこんなで、彼女と話しているとギルドに到着したのだ。
俺たちは、ギルドの中に入ると一直線にリリアさんのいる受付を目指していく。遠目にだが、受付で、リリアさんと誰かが話しているのが見える。受付に近づくにつれ、話している人がはっきりと見えるようなった。どうやらリリアさんと話しているのは、もふもふさんのようだ。ちょうど良いタイミングであった。俺は、受付まで走っていった。
リリアさんが俺の姿に気づくと声をかけてきた。
「おや?ユーゴさんじゃないっすか。依頼は終わったっすか?」
俺は、受付まで辿り着くと、ひと言リリアさんにごめんと謝った後、もふもふさんの方を向く。
そんな俺の様子を見て、もふもふさんも俺の方を向き、どうしたのじゃ、聞いてきてくれる。
「とつぜんすみません。この子の治療できますか?」
俺は、そう言って抱えていた角うさぎをもふもふさんに見せて、簡単にあらましを説明する。すると、少しだけ考えたそぶりを見せたあともふもふさんは答えたのだ。
「ふむ、私がなんとかしてみせよう」
そう言うと、彼は俺から角うさぎを受け取るとそのままどこかへと行ってしまった。
俺が心配そうにもふもふさんが去っていた方向を見ていると、リリアさんが声をかけてくれる。
「ユーゴさん。だーいじょうぶっすよ。もふもふさんに任せればなんとかなるっすから」
彼女は、そう言って俺を励ましてくれたのだった。




