街への帰還
熊を一刀両断し、満身創痍の俺たちに声をかけてきた人物は、どうやら女性のようであった。彼女は、軽そうな装備をしていて、一振りの大きな剣を片手に持っている。それにしてもどこかで見たことのある装いだ。
俺は、少し気になったものの、まずは彼女にお礼を言う。
「どなたかはわかりませんが、助けていただきありがとうございます!」
彼女は、俺の言葉を聞いてにっこりと笑いかけながら答えた。
「そう。それならよかったわ」
そして続けざまに、あなたたちどこかで見たことがあるような、と呟いたのだ。どうやら彼女も同じことを思っていたようだ。二人して、思うところがあるのであれば、ほぼ確実にどこかであったことがあるのだろう。
俺がどこで会ったかなと考えていると、ふと視界にコンが映る。コンも先ほどの戦闘で疲弊しているはずなのだが、弱弱しくも彼女に向けて唸っていた。その姿を見て俺は思い出したのだ。
「もしかしてあの時のギルドにいたお姉さん!」
彼女もたまたまコンの方を見ていて、俺の言葉と同時に気付いたのだ。
「あの時の迷い人ね」
彼女は、コンが唸っているのを見て、また狐ちゃんに嫌われちゃったと呟いている。少し悲しそうだ。前も彼女がコンを触ろうとした時、同じようにぐるると唸って威嚇していたのだが、コン的には彼女は受け入れられないのであろう。俺は少し彼女のことを不憫に思ったのだった。
彼女が倒した熊を解体している間に、俺は、自分たちが倒した角うさぎの近くへと行く。角うさぎは、気絶しており、当分の間は目を覚まさなそうであった。解体を手早く終わらせたのであろう彼女は、俺の方を見て少し不思議そうな顔をする。
「あら?そいつは角うさぎね。そのスピードとパワーから初見の初心者殺しとも言われているわ。でも臆病だからあまり人の前には現れないはずなんだけど」
この熊に脅されていたのかしら、と彼女は付け加えて言った。どうやらこの角うさぎくんも被害者のようだ。とはいえ、俺達も生き残るのに必死だったわけであるが、こいつも被害者かと思うとなんだか可哀そうに思えてきたのだ。俺は、彼女に薬は残っていないかと尋ねた。どうやらあるにはあるらしいのだが、人間用で効くかどうかも分からないし、効いたとしても応急処置程度にしかならないらしい。
俺がどうにかならないだろうかと考えていると、おそらくその姿を見たであろう彼女は少しだけ考えるそぶりをみせたあと、口を開いた。
「もふもふさんなら、なんとかなるかもしれないわ」
その言葉を聞いた俺はほぼ反射的に言葉を発した。
「本当ですか?」
「えぇ、おそらくだけどね」
俺の勢いに圧されたのか、彼女は数歩後退して答えた。
俺は、その言葉を聞いた瞬間この角うさぎを連れて帰ることにしたのだ。何が俺を駆り立てるのかは分からないが、とにかくほっとけないのだ。幸い依頼品の入ったカゴは無事だったので、あとはこの森から出て、街に戻るだけなのだが、俺もコンももう戦う力がない。万が一、また魔物に遭遇するとひとたまりもないだろう。
俺は無理も承知で彼女に、尋ねる。
「あの、すみません。俺たちを街まで護衛してもらえないでしょうか?俺もコンももう戦う力が残っていなくて」
俺の頭の上で、ぐったりとしているコンを指しながら言う。
それに対し、彼女は嫌な顔一つ見せず笑顔で答えのだ。
「えぇ、任せなさい。それも私の仕事の一つよ」
こうして、俺たちは、街まで彼女に護衛してもらえることになったのだ。
その後は、何事も起こることなく俺たちは、森からの脱出に成功した。そのまま女性冒険者に連れられ、街と外を繋ぐ門の前まで戻ってきたのだ。
門番のおっちゃんは、どうやら俺たちが街を出た時の人と同じようで、しんどそうに歩いていた俺の姿を見て声をかけてくれる。
「おい、坊主。大丈夫か?」
俺は、両手に抱えている角うさぎを落とさないように気をつけながら、おっちゃんに返事を返す。
「おっちゃん、ありがとう。この人が助けてくれたからなんとかなったよ」
俺は、そう言って後ろにいる彼女の方を体で指す。彼女は、軽く手を振っている。
おっちゃんは、彼女の姿を目撃するととても驚いた顔を浮かべたのだった。




