森の探索
俺たちは、森の中を進んでいく。
リリアさんからもらった地図は、エノノノコ草が生えている所がおおまかにしか書かれていないので、周りを確認しながら慎重に進んでいく。それと念のため魔物よけを用意しておく。稀にしか出ないとはいえ、正直俺達には戦闘力がないのでこいつに頼るしかないのだ。最初見ただけでは、全く使い方が分からなかったのだが、教えてもらった話によると、地面に向けて叩きつけるだけでいいらしい。効果が効いている間は、辺り一帯に煙が出て来るそうなので、その煙で逃げっていった魔物が戻ってこないうちに逃げるのが生き残る秘訣だそうだ。
「まぁ、こいつに頼らなくてもいいのならそれにこしたことはないのだが」
ふとそんな言葉がもれてしまった。それも仕方ないことであろう。今の俺たちにとって正に最強の切り札で唯一の対抗手段なのだから。
それを理解しているのかしていないのか分からないが、俺の頭の上でコンも耳をあちこち動かして警戒してくれているようだ。勿論俺自身もできるかぎりで警戒はしているのだが、音だの気配だので察知する力はコンの方が高いだろうから頼らせてもらうことにする。その分俺が、エノノノコ草の生えているところを見つけないと、と思い気合を入れたのだった。
「ん?こいつはどうだ?」
森の中を進んでいくうちに、視界に似たような植物が映ったのだ。俺は、しゃがみこんでカゴから依頼書を取りだすと、そこに書かれていた絵と見比べてみる。パッと見は、とても似ているのだが、よくよく見てみると微妙に違うのだ。
「一応これも採ってリリアさんに見てもらうか」
そう思った俺は、その植物の先っぽに向けて手を伸ばしていく。すると、ガシャンッと音を立てて、先っぽのあった部分が何かに覆われて見えなくなっていた。その正体は、先っぽのブラシ状になっているところの根元付近にあったもので、俺が葉っぱだと思っていたものだった。先っぽに近づいてきた物にかみつくかのように閉じられている。その構造は、ハエトリグサに近い。
「うぉっ、あぶねぇ」
俺は、その植物の動きに驚いてしまった。あと数秒遅ければ、その植物に俺の手は噛まれていたであろう。なんて恐ろしい植物なんだ。魔物という存在もいることなので、もしこの植物に噛まれていたらどうなっていたか分からない。不用意に触りにいくことは危険だと身を持って体験したのであった。それと同時に分からない物は触らないと強く心に誓ったのだった。
その後も森の中を進んで行く途中で、何度かエノノノコ草に似た植物を見つけた。しかし、その度に依頼書の絵と比較するものの、やはりどれも違う。
そんな風に俺が必死になって見比べているすぐ近くで、コンは植物と戯れている。しかし、毎回のようになにかが起こるのだ。例えば、ネコパンチならぬキツネパンチを繰り出し、それが当った植物が軽く爆発してしまったり、何故か分裂してしまったりなど。その度に俺は、コンを抱きかかえて、逃げていくことになるのだ。おそらく、コンとしては退屈なんだろうが、見知らぬ植物で危険を体験した俺としては、勘弁願いたいところだ。
そうして、森野探索を進めていくと、これまでとは違った開けた場所に出た。一度、ここで休憩を入れようかと思い、座ろうとしたところ、抱きかかえられているコンがあたりをキョロキョロしながら何やらクンクンとにおいを嗅いでいる。そして、ある方向で止まるとコンは俺の身体から飛び出して走り出していったのだ。
「あっつ、こらコン。まてって」
そう言って俺は急いでコンの後を追っていったのだった。
それから少し進んでいくとコンに追いついた。コンは、何かの植物がたくさん生えているところの前に座っていた。
「ん?これはもしかして?」
その植物たちを一目見るとどうやらエノノノコ草に似ている。今度こそ当ってくれよと思いながら依頼書の絵と見比べてみると、どうやらあたりのようだ。
「よーし、コンよくやった!」
俺はそう言って嬉しさのあまりコンをなでまわしたのだ。コンはコンでもっとほめろと言わんばかりに身体を押しつける。そうして、しばらく戯れた後、俺たちはカゴの中から採取セットを取りだし、一つ一つ丁寧に採り始める。依頼では、30束ということだが、リリアさんがモフリストにとって必須だと言っていたことを思い出し、少しだけ多めに採った。
そして、いざ荷物を整えて帰ろうかという時であった。目の前のくさむらから突如がさがさと音が聞こえてきたのであった。
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