スラちゃん印と勧誘
俺とコンがしばらく見つめあっていた時、どうやらもふもふさんはその様子をニコニコしながら見守っていたようだ。そのことに俺がハッと気づくと急いでもふもふさんに謝る。
「あっ、すみません。コンの方に集中してたみたいで」
しかし、もふもふさんは相変わらずニコニコしながら大丈夫だという。
「それにしてもその狐とずいぶんと仲が良いみたいで、私も見ていて嬉しくなってくるの」
彼は、そう付け加えて心底嬉しそうな顔を見せている。そんな彼につられてか彼と一緒にいた数匹のプルプルした生物もこれまた嬉しそうに震えていたのだった。
彼らのその様子には、とある背景があるのだが、この時の俺はそんなことなど微塵も知る余地はなかったのである。
「さて、君が気になっていたのはこのスラちゃん印のせっけんじゃったな」
もふもふさんは、そう言って例のボトルを手にして俺に話しかけて来る。
「えぇ、そうですね。おそらく身体を洗ったりするのに使うんですよね。他のものとは違うんですか?」
俺はせっかくの機会であったので疑問に思ったことをもふもふさんに尋ねてみたのだ。
それに対し、もふもふさんは俺の疑問に丁寧に答えてくれる。
「ふむ、その通りじゃ。こいつの特徴は、汚れを落としてキレイにすることに長けているのじゃ」
もふもふさんは、さらに付け加えて説明する。彼の話によると、このせっけんはスラちゃんの体液とリーゼの錬金術を組み合わせて、作られているらしい。そして、素材にしたスラちゃんの体液の特性により、汚れをせっけんが吸い取り、それを流すことで、一般的なせっけんでは取れない身体の汚れを落とすことができるそうだ。しかも生物には無害の為、モフリストにとても好まれているシロモノらしい。
そのことを聞いた俺は素直に感心していたのだ。俺が、リーゼから譲り受けたブラシもとんでもないものであったが、それ以外にもとてつもないシロモノを作り出しているとは、感服である。
俺がおどろいていると、ただと彼は言葉をもらす。
「リーゼ嬢とスラちゃんの技術力は、とても素晴らしいんじゃが、彼女自身少し抜けておるからあまりうまくいってないみたいじゃがの」
本当に残念なことじゃと、少し悲しそうな顔を見せる。
確かに、俺にはそのことについて思い当たることがあった。今回のブラシの件然り。逆にそうでなければ、今頃はとてつもない人気を誇っているだろう。あれだけの技術力に人の良さも合わせて人気にならない方がおかしい。俺に何かできることがあるかはわからないが、自分自身のことが落ち着いたら彼女の為にも何かしてあげよう。そう思ったのだった。
もふもふさんの温泉に来とるんじゃから、入りながら少し話そうかという言葉を皮切りに会話は、一度中断された。そして、俺とコンの身体をしっかりと洗った後、温泉につかる。
「あー、気持ちいい」
思わずおっさんのような言葉がもれてしまったが、身体にしみわたるかのようなこの温泉がとても気持ちいいのだ。コンも俺の身体につかまりながら入っているが、とても気持ちよさそうな顔をして、瞳を閉じている。そして、俺はそんなコンの頭をなでながら幸せをかみしめていた。
「どうじゃ、気持ちいいじゃろ?」
そう言ってもふもふさんが俺の隣に入ってきた。彼の頭と肩には色違いのプルプルした生物がのっている。そうして、少しの間ゆっくりとつかりながら、もふもふさんと話をしていたのだった。
温泉からの帰り際、もふもふさんから話しかけられる。
「そういえば、君の名前はなんじゃったか?」
どうやら名前を覚えてもらえるようだ。それに対し、俺は名乗る。
「ユーゴです。こいつは、相棒のコンです」
そう言って、俺はコンも一緒に紹介した。
そして、もふもふさんは、ふむユーゴ君か、といった後、少しだけ何か考えるしぐさを見せる。考えがまとまったのかそのまま俺に向けて口を開いた。
「ユーゴ君、私の所属するモフリスト用のギルドに入らんか?」
どうやら俺は、もふもふさんに勧誘されたようだった。




