白い部屋
「ここはどこだ? 真っ白な部屋?」
気がつくと俺は、床も壁も天井も全てが白に覆われたこの部屋にいた。
いつここに来たのか、ここがどこなのかも全くわからない。それだけじゃない。記憶に関してもどこか曖昧としている。今、思い出せることは、自分がユーゴと呼ばれていたことぐらいだ。
「ここがどこかは分からないが、外に出てみれば何か分かるかもしれない……」
そう思い、この部屋を見回してみる。
目の前には、白い机に大きな何かの装置。
右側には、本棚が何台か。その中には、ぎっしりと本が詰め込まれている。
左側には、白い大きな扉。おそらく出口であろう。
後ろ側には、特に何もない。
ひとまず俺は、左側にある扉の方へと向かっていくことにした。そこまで辿り着くと、ドアノブのすぐ下に小さなカギ穴のようなものが見えたのだ。これはおそらく扉が閉まっているパターンだろう。とはいえ、万が一の可能性もあるので、確かめてみることにする。
結論としては、押しても引いても何の反応もなかった。そもそもカギが閉まっているというあの独特な感覚もなかったのだ。
案の定、扉のカギは閉まっているということだ。扉の重さが二トンあるとかでなければだが……。
いよいよ脱出ゲームじみてきた。幸い(今のところ)よくある時間制限付きではないのが非常にありがたい。本当にこんなどうでもいい所だけ思い出せて、肝心のところが全く思い出せないのがもどかしいところだ。
「さて、次は装置の方を調べるか、本棚の本を見るかだな」
なんとなくではあるが、ここが一つの分岐点のように感じる。慎重に選ぼう……。
俺は、ひとまず本棚がある方へと向いてみる。ここから見える限り、本棚に入っている本の数は、異様に多い。ある程度調べるにはすごく時間がかかりそうだ。
そういうことになると、先に机と装置の方を調べてみた方が良いかもしれない。
俺はそう思い、机側へと向かっていく。
目的地へと近づくにつれ、俺は、机の上に白い何かがのっていることに気が付いた。ただ、残念ながらそれが何であるかまでは見えない。
俺はそこへ辿り着くと、先ほど見えた物を確認してみる。どうやらそれは、手紙のようであった。
せっかくの手掛かりなので、先に手紙を読んでみようと思い、目を落とす。
ようこそ。この……部屋へ。
まずは、キミの相棒となるべき存在を召喚するといい。
目の前の装置に触れるんだ。そして、想像するんだ! 自分の相棒になる存在を!
いいか? 想像するのは、常に理想の相棒だ! 間違っても最強の相棒を想像するんじゃない。
では、検討を祈る。
なんだ? この内容は?
わけがわからない。相棒を召喚? 理想の相棒? 最強はダメ?
ダメだ。頭がこんがらがってきた。幸いなことに時間はたくさんある。少し落ち着こう。
俺は、大きく息を吸って、ゆっくりと吐きだす。少し気持ちが落ち着いてきた気がする。
少し整理してみよう。書いてあることとしては、非常にシンプルだ。この装置に触れながら相棒となる存在を想像することで、それが召喚できる。それを実行せよ、ということだ。
そこはいい。だがこの際、後ろの最強は置いておくとして、理想の相棒とは何なのだろうか?
召還ということだからおそらくゲームとかで言う使い魔的なものであろう。それを召喚してどうするのか? 疑問はつきない……。
しかし、唯一見つけた手掛かりがこれだ。このまま考えていたところで答えは出ない。ならば、やってみるしかないだろう。そう思い直すと、俺は、ゆっくりと装置の方へ向って歩き出す。
俺は、装置の前へと辿り着くと、両手でしっかりと触りながら、理想の相棒とやらを想像し始めたのだ。
「理想の相棒って何を想像したらいいんだろう? なんかかっこいいやつか? それともかわいいやつ? 強そうなドラゴンがいいかな。精霊みたいな存在もいいな……」
雑念という雑念が、次々と頭の中を占め、一向に具体的な想像へと至らない。その間、謎の装置は何やら時折発光しているような様子ではあるが、特に音が鳴るわけでもなく、ちゃんと動いているのか分からない。
「ドラゴンやら精霊やら、ほんとにどうでもいいことだけは思い出すなぁ。俺何してたんだろう。何かをみていたような……、狐?」
そう俺が、初めて具体的にイメージした時であった。謎の装置から莫大な量の光が放出され始めたのだ。目を閉じていても分かるほどの莫大な光量だ。俺は、より一層目を閉じる。しばらくの間、その状態が続き、ようやく大きな光に包まれていた感覚が終わりを告げる。そして、ゆっくりと目を開いていく。その開かれた先には……小狐がいたのだった。