切り開く道
そうして事件が起きたのは、ロイたちの地下第七層の探索が順調に進んでいたと思えた、その矢先のことである。
「ロイ、大変よ!」
「どうしたんだ?」
アリーナが宿に走りこんできたのだ。
「騎士団に行って! 名指しで依頼が着たわ。この国の大臣から!」
「なんだって?」
「お姫様、ソフィア姫が魔物に攫われたの」
「それで?」
ソフィア姫がさらわれた、それはわかる。だがアリーナがここまで慌てる理由がわからない。
「『それで』って、そんな人事みたいに! お姫様よ!? もっと他に言い方あるでしょ!?」
「いや、それはそうだけど……」
「あたいのお姉ちゃんなのよ!」
「え?」
お姉ちゃん……もしかして、それはソフィア姫のことを指しているのだろうか。だとしたら、目の前にいる銀髪の森妖精は──。
「お姉ちゃんを助けて! お姉ちゃんを助けてよ、ロイ、お願いよ……! やっと見つけた血のつながった身内なの。この前見て、ああ、この人がお姉ちゃんなんだって嬉しく思えたわ。それが、どうして魔物なんかに攫われなきゃいけないのよ!」
「と、言うことはアリーナお前、まさか……」
「そうよ! あたいの名前はイーリス。イーリス=レギーレ=オリーヴィア=ガストルン。王家の呪われし取替え子よ!」
ロイはすべてを察した。アリーナは嘘を吐いてはいない。だとすると、いや、そうでなくても急ぐべきだろう。事は一刻を争うに違いない。
「急ぐぞ! 俺は団長の話を聞きに行く。話を聞いて突入だ。アリーナは他のメンバーを集めておいてくれ。ああ、アリーナと呼び捨ては拙いな、これからはアリーナ姫とか、イーリス姫と呼ばないと……だよな?」
ロイはどもる。
「今まで通り、普通に接しなさいよ!」
「いや、あの……普通に? 構わないのか……ですか?」
「アリーナと呼んでよね!」
◇
突入すると集合をかけて、数刻と経っていない。
ロイはエクスにもしもの時の作戦を伝えた。
「エクスさん、今の作戦でお願いします」
「ロイ、魔王と出くわしたら、今の作戦通りで行くぞ? その作戦でいいんだな?」
「ええ、構いません。エクスさんが頼みです。どうかそれまで、生き抜いてください」
「不吉なことを言わないでくださいロイさん」オーロラがロイをなじる。
「すみません」
「安心しろ、俺は殺されても死なないさ」
オーロラは力を抜いて、エクスにしな垂れかかる。
「ロイ、お前が護ってくれるんだろ?」エクスはオーロラを抱いたまま、片目を瞑り、
「もちろんでエクスさん」
「頼むぜ、隊長!」ロイの答えに応じた。
◇
迷宮は地下第七層に降りる。
そしてすでに、ここは第七層の奥深く。ロイらはそこで赤き炎を見る。
小山のような影があらわになる。たいまつの炎が照らすのは、赤き竜、その名も高き火竜であった。竜は炎の息を吐く。ロイらは守りの盾をかざして炎から身を護る。魔法の盾は、竜の鼻息を浴びても燃えはしなかった。ガラムズとアリーナも守りの盾をかざしてその陰に潜む。ロイらは距離を詰めて竜に挑んだ。アリーナの投擲紐が遠心力を持って赤き竜の頭部を狙う、竜の目の下に当たり瞼が閉じられる、その隙を突いてロイが跳びかかり、竜の胸を狙った。竜は前足でこれを防ぐも、ロイの雑種剣は深々と食い込み、皮を、肉を、骨を断ってついには足が切り落とされる。迸る竜の血、血を吸う雑種剣と浴びるロイ。竜の悲痛な咆哮、オーロラが悶え苦しむ、ガラムズは戦の歌を歌い、オーロラは嘘のように我を取り戻した。
「これでおわりだ!」
「光よ! 終末を!」
と、迸るは白き光の奔流。皮膚を焼いて、肉を焼く。爆発。骨が千切れ、竜の巨体は融け崩れる。それでも竜は鉤爪を振り上げ、ロイを切り裂く。切り裂かれるも、ロイは流れに沿うように、血を垂らしロイは雑種剣を流して、竜の胸元、ロイは雑種剣を突き上げる。雑種剣は首を串刺しにする。赤き竜は血と炎を喉から吹き出して、自らが炎に呑まれるのであった。




