迷宮再び
再びガストルンの迷宮に潜る。
挑むのは迷宮の深部。ロイらがこれから行く先を探った隊はない。
ロイらは慎重に進みゆく。
そしてロイは、敵と切り結ぶ。
「氷の息に注意しろ!」エクスが叫ぶ。
ロイは相手との距離を詰める。床を蹴る、斧槍を寸前で避ける、跳んでは鎚をかわず、手に乗り、そして跳ぶ。雑種剣が唸る。輝ける軌跡は巨人の首をはねた。崩れ落ちる巨人、ロイは駆けて、隣の巨人の胸元へと一撃をくらわせる。巨人は息を吸い込む、そして──口を開いた瞬間、そこに投擲紐の弾丸が飛び込む。巨人の背中が凍り、胸が、腹が凍ってゆく。そこにガラムズが鎚矛で殴りつける。巨人はバラバラになった。
◇
ロイは板金鎧を着た敵と渡り合う。
剣を払ってはもぐりこむ、盾で払われては切り結ぶ。火花が散って、剣を合わせる。ロイは押して、足を蹴る。崩れたところに、盾で胸を殴って倒れた敵の喉に突き刺す。青い血飛沫が上がって二体、二本の剣を同時に払う。右からくれば、雑種剣で応じ、左から来れば、盾で応じる。二体の相手で苦しむロイに、脇から援軍、ガラムズが鎚矛で殴っては一体持ってゆく。ロイは残された一体を相手に剣を打ち合う。相手の剣がロイの頭に繰り出される。思わず雑種剣で受ける、盾で押してくる、下がるロイ。盾は大きく繰り出された。ロイは引く。退いてたての横に滑りこむ。ロイの一撃、鎧の隙間に食い込む一撃、相手のわきから青い血が流れた。ロイは盾で殴りつけ、転倒させては踏みつける。喉元に雑種剣を突き刺し、周りを見た。戦場に残るは味方のみ。皆、青い血で汚れていた。
◇
炎の洗礼を浴びた。盾が脆くも融け崩れる。
「これでもくらえ!」エクスが右手を突き出せば、「光よ!」とオーロラが合わせる。爆発は巨人の片手を持ってゆく。片手を失った巨人が吼えて、盾を失ったロイに剣を振りかぶる。巨人の剣は、鎚のごとく振り下ろされ、ロイはそれを雑種剣で受けるも風圧でロイの周囲が捲りあがる。ロイは膝を突くと、雑種剣で流して荒い息、だがそれでも息を吸い、ロイは巨人の足に切りつける。どうと転倒、エクスとオーロラが光の中に巨人を沈めた。
◇
象の頭を持った巨人は、両手で斧を振りかぶる。ガラムズは鎚矛を片手に、盾を構える。振り下ろされた大斧は、盾を易々と砕いてガラムズの腕から血が噴出す。ガラムズは伸びきった敵の手に鎚矛を打ち付け、脂汗を流しつつも敵の腕の骨を折る。象の咆哮、ガラムズは牙を避けつつ神に癒しの奇跡を乞うた。ガラムズは歌を歌い始める。ロイは顔を上げ、アリーナは狙い済まし、エクスとオーロラは爆炎の渦から顔を出す。アリーナが投擲紐にて石を放てば、巨人の目を射抜いて伏せる。巨人の足がアリーナを掠めて、ロイが足に切りつけ倒れる巨人。ロイが巨人の首筋に切りつけて、巨人はそのまま動かなくなる。
◇
「これでもくらいやがれ!」
「光よ、乱舞せよ!」
エクスとオーロラの呪文が完成する。光の奔流が相手の魔法使いを飲み込んでゆく。
ロイは、こちらがエクスたちが打ち出したような光の渦を受けたことを思い浮かべて身震いする。この二人が仲間で良かったと心底思えるのだった。
と、残敵を見つけてロイが床を蹴るも、前方から呪いの旋律を紡ぐ声。
ロイの雑種剣が敵に迫ろうとした、ちょうどそのとき、横合いから風を切る音、アリーナの投擲紐による弾が相手に着弾、頭を砕く。呪いの旋律が完成する前に、敵は青い血を流して沈んだ。ロイは振り返る。
「ごめんロイ、被ったね」アリーナが投擲紐を片手に頭を掻いている。
「大丈夫だよアリーナ。むしろありがとう。一秒でも早く仕留めないと、こちらに被害が出ていたかもしれなかったから、助かった」
「どういたしまして!」アリーナはスキップを踏んでいた。
◇
竜と人の合いの子は、ロイと激しく剣で打ち合う。ロイは押し、竜人は引く。ロイの雑種剣が光を放ち、輝きが竜人を圧倒する。すると、次の瞬間、竜人の鎧は砕け、服が敗れて巨大な竜へと転じた。ロイは光の輝きを持ち、星を鍛えた雑種剣にて討ちかかる。竜が息を吸い込めば、放たれるは光の奔流。光はロイだけではなく全てを呑み込み輝きの果てに消えうせる。光の後に、雑種剣を構えたままのロイがいた。雑種剣は光の息を二つに分けて、膝を突きつつ防いで見せた。口の端から流す赤い血は、左手の甲で拭われる。時が止まったそのときに、エクスとオーロラが顔を出しては光を打ち返す。「これでおわりだ!」掌が重なるその先に、光の奔流が生まれて呑んでいく。光が消えたその先に、砕けた剣が落ちていた。
◇
「ロイ、頼む!」
「はい、エクスさん!」
ロイが前に出た。
そして、蒼い悪魔がやってくる。その数は六、三方を囲まれ引くに引けない。
「アリーナ!」
ロイが雑種剣を抜き放ち、
「ロイ!」
アリーナが投擲紐に石を詰める。
「これでもくらいやがれ!」
「光よ、乱舞せよ!」
魔導士二人がそれぞれ叫ぶも、光輝は悪魔の前には無力だった。
怯みかかる皆の心を鼓舞すべく、ガラムズは戦いの歌を歌う。
ロイやアリーナの心から浮き上がりつつあった不安が拭い去られる。
ロイは正面に牙を剥く。悪魔はそれを嗤って応えた。
ロイの剣圧は悪魔の腕を千切り抜き、悪魔は邪悪な旋律を謡う。悪魔の呪文はロイの左右で黒く炸裂し、ロイは正面に吹き飛ばされる、だがそれ幸いと、ロイは床を蹴っては悪魔の正面、雑種剣を立てて眉間に打ち込む。悪魔の呪文は前後左右から一斉に、氷雪の魔法となって現れる。身を切る寒さ、凍える体、吹き出す血も凍る冷たさで。ガラムズの歌が止み、アリーナの動きは止まる。ロイはそれでも立って、悪魔の血を吸った雑種剣を振るう。雑種剣の軌跡は光を呼んで、悪魔の角を折ると肉を断つ。悪魔の叫びは同胞を呼ぶも、異次元の口は開いたまま何も起きない。アリーナは異次元の口目掛けて石を投げ込み、異次元の口は渦を呼ぶ。次元断層は悪魔を巻き込み、悪魔は呪いの言葉を発しつつ、仲間を巻き込みながら消えてゆく。残る悪魔、四体。ガラムズの歌が帰ってきた。ロイは床を蹴るなり悪魔に切りつけ、腕にて払われようとするもそのまま流れて胴へと落ちる。落ちた先にて首をはねた。悪魔はそろって呪いの旋律を紡ぎ、再び極寒の地獄を作り出す。ロイは落ちて、落ちた先から血は滲む。エクスとオーロラが凍った手を上げ呪文を放つ。
「これでもくらいやがれ!」
「光よ、乱舞せよ!」
呪文は光束を作り出し、それぞれの目標に飛びゆく。光はまたも悪魔の前で消えうせるかと思われたが、一つの光は消えずに悪魔を呑み込んだ。爆散。アリーナは投擲紐に弾を詰め、悪魔が邪悪な旋律を唱え出したとき、口の開くのを見計らって撃ち出す。直後、冷気に呑まれるも、悪魔は喉を打ち抜かれ、声なき悲鳴を上げて怒り狂う。冷気に討たれたロイであったが、手足を引きずり雑種剣を振るう。悪魔の血に染まった雑種剣は、さらに唸りを上げて打ちかかる。冷気で柄に張り付いた手で、悪魔の体を連打、悪魔の血に染まり、手は己の血に染まる。ガラムズが飛びつき、鎚矛で顔面を殴って沈める。残り一体は、喉の仇と鉤爪でアリーナを引っ掛けようとし、狙い済ました投擲紐で目を射抜かれる。またも上がる悪魔の悲鳴、声なき悲鳴。エクスとオーロラは呪文を唱える。
「これでもくらえ!」
「光よ!」
しかし悪魔の手前で魔法の光は消えうせる。ロイが出る。手と足から血を流し、口の端から血を垂らしたロイが出る。悪魔の腕が揺れる。鉤爪が襲う。ロイは雑種剣で流して懐へ。喉元目掛けて雑種剣を突き入れる。
貫く。
剣は、悪魔を串刺しにした。悪魔は足掻くが、ロイは下へと切り下ろす。悪魔の臓腑が零れ落ちる。ついに悪魔は果てた。




