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域外探索任務

 騎士団長サッシの部屋。

 天窓からの柔らかい光で部屋は満たされていた。

 そして、そんな部屋に置かれた樫の木で作られた机の向こうに座る男が一人。

 サッシはロイが違約金を払う旨を伝えると、一度だけ目を見開いて、


「そうか。迷宮探索任務を放棄するというのだな?」

「はい」

 サッシの目が光る。


「違約金を全て払われてはな。俺としては迷宮探索任務を続けて欲しかったがに……まぁ良い。ただしだ」

「なんで……しょうか?」

 サッシは立ち上がり、部屋をゆっくりと歩きながら呟く。


「騎士ロイ。域外探索任務を拝命せよ。王命である」

「域外探索任務? 王命!?」

 静かだが、重みのある言葉だった。


「万病に効くと伝わる酒の滝を探し出し、その霊酒を王に献上するのだ!」

「酒の滝!?」

「その滝の落ちる淵には、邪悪なる成竜グレータードラゴンが住むと言う。これを討伐せしめよ!」

成竜グレータードラゴン!!」

「どうだ、怖気づいたか。だがこの話、断るのであれば、今すぐにでも迷宮に入り、地下第七層より蒼い悪魔エグザを倒滅して来い」

 行くも地獄、退くも地獄。

 果たしてロイは、

「──域外探索任務、謹んで拝命いたします」

 未知の可能性に賭けた。

 同時に、ロイはエクスの話を思い返しながら、サッシに感謝の意を示したのである。

 そして、光竜騎士団団長、サッシの部屋を後にする。


 ロイは思う。いかなる敵であろうと、剣を信じて討ち果たすのみ。それがたとえ届かぬ敵であっても、剣にて活路を見出すのだと。

 こうしてロイは無目的に生を繋ぐだけではなく、今では英雄にならんとし、竜退治に向かおうとしていた。


 ◇


 "天国の花園"亭。ロイは大切な人に、旅立ちの挨拶をしに来ていた。


「行かれるのですね? 寂しくなります」カレンは目を伏せる。

「アルデウム王国へ行ってくるよ」


「どうしても、行かれるのですか」すがるような目で、

「ああ。やらなきゃいけないことが出来たんだ」

「わかりました、もうお引止めはいたしません」カレンの瞳に決意の色が。


「ありがとう」

「もし旅先で、向日葵ダンディライオンの花をお見掛けになることがあれば、この私のことも思い出してくださいね」カレンの目尻に涙が見える。

「言われなくても思い出すよ、きっとね」

「忘れちゃ嫌ですからね。使命を果たし必ず帰ってきてください」カレンが両手でロイの手を握る。


「うん。使命を果たしたら必ずこのガストルンの街に帰ってくる」

「約束ですよ!?」指切りをした

「ああ、約束だ」

「(チュ)」爪先立つや、電光石火でロイの頬におまじない。


「え……?」

 カレンは蜂蜜色のツインテールを振りまきながら、店の奥へと消えた。

 ロイの心にも、一抹の寂しさが残った。


 そしてロイたちは今、ガストルンの街の北門をくぐる。


 ◇ ◇ ◇



 馬車は揺れる。

 帝国の商都ファルドネーゼに向かう商人の馬車だ。

 いざと言うときの用心棒を兼ねて、と商人には話を通してある。山賊などの襲撃があれば、即、ロイたちの出番となるだろう。


「何せ、伝説の美酒を求めて旅するんじゃからの! 酒が滝となって流れ落ちてくるなど、夢のようじゃわい」

「王様やお后様の病気を治す薬を探しに行くんでしょ!?」

「その薬が伝説の酒じゃろうがい!」

「それはそうだけど! 心配じゃない、王様やお后様が」

「それより竜がいるんだろ? その滝壺。それもただの竜じゃない。成竜グレータードラゴンと来たもんだ!」

「伝説ではそうあります。楽しみです」

「お? ロイもそう思うか!」

「はい。だって成竜グレータードラゴンですよ? どんな恐ろしい怪物かと思うと今から身震いします」

「でも、詳しい場所はわからないんだろ? なにせ、俺様が知らないぐらいだからな」

「依頼ではアルデウム王国の辺境とあります。正確には妖魔の森の奥深くだとか」

「俺が忘れているはずだぜ。妖魔の森、確かにな。あの場所にいるのは強敵とは程遠い雑魚ばかりだからな。興味もない」

「妖魔の森って?」

「ガストルン王国より遥か西、アルデウム王国に北方に位置する森林地帯。昼もなお暗い森。闇妖精ダークエルフを頂点とした妖魔の国だ」

「そ、そうなんだ、なんだか怖そう」

「数の力だけはあなどってはいけないだろうな」


 馬車は揺れる。揺られて揺れて。


「それにしても、お様とお后様がご病気だったなんて。知らなかった。あたい」

「下々には関係の薄い話じゃ。とはいえ、王様やお后様のご病気が早う快癒されると良いのう」

「そうだよね! 王様やお后様には早く良くなって欲しいよね!」

「アリーナは王室が好きなの?」

「え? あ? うん、ちょっと気になっただけ」

 ロイの問いに、アリーナが慌てて答える。


 アリーナが馬車の背で遠くを見る目は、みどりに寂しげな色を湛えていた。


 ◇


 明後日のこと。


 丘の向こうから、馬に乗って駆け下りてくる集団がある。数は七、八。彼らは二手に分かれ、こちらの前方と後方に回り込もうとしていた。

「エクス! 起きて!! 鉱妖精ガラムズもいつまでも呑んでないで! 出番!!」

「んあ? アリーナどうしたって……、ああ、ありゃ強盗じゃねぇか」

「馬車を停めてください」

「そかし──」商人が言いよどむ。

 ロイは背負った雑種剣バスタードソードを抜き放つと、白い光があふれ出し、

「この剣に賭けてあなたとあなたの荷物はお護りします。それがお約束でしたから」

 と、馬車から飛び降りた。

「勝てるのか!?」

「これでもくらってろ!」エクスの放つ魔法の光は、馬車の後方に迫っていた襲撃者らを爆炎の渦に沈める。

「どこに負ける要素があるというのです。安心なさってください」と、言いつつ、ロイは飛んできた矢を剣で払い落としたのだった


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