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休息

 そうしてロイらは酒場に戻る。

 今日も定番、煮込料理シチューを掻き込んでいたのだが、


「やっと俺たちも肉入り煮込料理シチューが食えるようになったか。肉が入っているのといないのでは、味とコクがちがうな、うん」

「ホント。生きてるって感じがするわ」

「以前のも骨やスジからだしをとってあったと思うが、やはり肉がゴロゴロと転がっているのは違うのう。肉を噛み締めるたびに幸せを感じるわい」


 と、ロイらの食事に変化があったのである。


「やっとここまでこれました、みなさん。俺も皆さんのお力添えあってのことです。本当にありがとうございます。そしてこれからも、頑張っていきましょう!」

「そうじゃの」

「あたいはロイについていくわ」

「俺はそうだな、そこまで言われちゃ、力を貸してやらんでもない」


「素直じゃないのう」

「全く、エクスはその当たり、意地悪なんだから」

「うるせ」


 四人の顔に、余裕と笑顔の尻尾が見えていた。


 ◇


 朝のことである。


「柔らかい布団で寝ると、ぐっすり眠れますね」

「そうじゃの! 寝心地が全然違うわい」

「よく寝た。なんだ、みんな起きてたの?」

「いま起きたばかりだよ、アリーナ」


「エクスは?」

「見てないな。まだ部屋で寝てるんじゃないかな?」

「全く。たるんでるわねエクスは」


「誰がたるんでるって?」

「あ、起きてたんだエクス」

「お前らが遅いんだよ。どいつもこいつもぐーすか寝ていやがって」


 板と薄い毛布一枚だった簡易寝台から卒業できたロイらの表情には笑みが溢れていた。


 ◇


 そして懐が温かいと、市場に寄り、こうして露店を巡ることもできる。


「あたいも魔法の武器が欲しいな。魔法の投擲紐スリング、なんてないかしら」

「それはさすがに……あ、あれは!」

「え!? あるの!? どこどこ!」

三軒さんげん隣! あれがそうじゃないかな?」

「ホントだ! いくらかな、安かったら買ってくるね?」

「うん」


 ◇


 ロイとアリーナは二人だけの時間を持つ。


「お待たせロイ。はいこれ」

 蜂蜜や純生クリームで味をつけた絹菓子クレープを手渡される。広場の脇の、屋台で売っていた商品である。

 椅子に座って二人で食べる。

 甘い。そして美味い。ついでにアリーナの笑顔が華やいでいる。


「ねぇロイ、これから先、ロイはどうするつもりなの?」アリーナが笑顔を向けてくる。

「ええと、とりあえず騎士団本部に顔を出してみて──」ロイは考える。そう、とりあえず本部に顔を出して──と。

「そういうことじゃなくって、将来のこと。討伐だか調査だかわかんないけど、それが終わってからの話!」アリーナが怒った。

「え?」ロイにはなにが何なのかわからない。


「迷宮探索が終わってから、ロイはどうしたいのかな、と思ったの

 迷宮探索が終わってから。

 ロイは考えたこともなかった。

 一文無しで転がり込み、めしにありつくために戦ってきた毎日。

 考えたことも、考える余裕もなかったのだ。

 でも今なら──違約金を払うだけの金はある、契約期間も三ヶ月を過ぎた、残りは騎士団長の許可さえ下りれば──騎士団を、抜けられる。

 地獄のようなあの地下迷宮に下りなくても良い。

 この剣の腕を生かして傭兵に、いや、ここはもっと穏便に、訓練場の教官になってもいいはずだ。

 街に道場を開いても良い。

 静かで平和な暮らしが出来るはず。俺ならきっと──と、ロイの夢想が膨らむ。

 その反面、ロイの中でひそかにくすぶり続けていた野心という名の炎が見え隠れする。

 ロイはこのまま、なにも成さないまま終わって良いものか、安定した生活を夢見るよりも、どうせ一度は諦めた命、この剣を持って竜殺しや魔王退治のような大きな冒険をこなし、名声を得たいと考えを巡らしたのである。


「ねぇ、それでね、あたい、あんたの隣にずっといたいなって、そう思ったの。ホントだよ?」

「え?」ロイは聞いていなかった。


「もう。照れちゃって!」

 アリーナがロイの背中を叩く。

 突き飛ばされたロイは椅子から落ちる。

 半分ほど残してあった、ロイの手の中にあったクレープが地べたに落ちた。


 こうして、心底幸せな時間は過ぎていったのだ。


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