赤い悪魔
騎士団本部に呼び出されたロイに、新たな任務が言い渡される。
「……」ロイは唾を飲み込む。
椅子に座る騎士団長のサッシは、ロイに命令を下す。
「そうだ。この悪魔討伐が貴様らにとって一つの壁となろう。命令する。赤い悪魔を倒せ」
ロイは呟く。
「赤い、悪魔」
ロイは背中の剣のことを思う。
こいつさえあれば、どんな敵が来ても怖くないと。
◇ ◇ ◇
「赤い悪魔?」酒場の喧噪の中、煮込料理を頬張るエクスはロイの重々しい物言いに、重ねて問うた。
「そうです。赤い悪魔をサッシ団長から討伐して来るように命令を受けたんです」
「ああ、それはきっと四本腕で山羊頭、尻尾を持っている悪魔のことだろうな」エクスには思い当たる節がある。
「ご存じなんですか、エクスさん!?」
「今まで聞いた限りの話だと、どうそいつは地下第六層以降で出るらしい」先輩格の騎士団員が、酒の肴に語っていた話だった。
「強敵なんですね?」確認するような言葉だ。ロイも全く知らない、というわけではないのだ。
「炎の呪文を唱えてくる。あと、あいつは異界から同族を呼ぶことがあるから気をつけろ。倒したと思っても気を抜かないことだ」
先輩騎士団員の言葉が思い起こされる。
「とにかく先制してたたみ掛けることだ。相手に行動するする隙を与えるな」
ロイには例の騎士団員が話していた通りのことを伝える。
「エクスさん、今までも助けていただきましたけど、ずいぶんと魔物のことについてお詳しいんですね」
「当たり前だ。俺は真面目に座学も受けていたからな」
少し考えて、エクスはロイの問いに答えた。なにもバカ正直にタネを明かす必要はないのだ。
「……」
「何だその顔は。俺は優秀で真面目な生徒だったんだよ!」
「そ、そうですか。俺はてっきりエクスさんはそういうことは苦手なのかな、って」
「なにおう!?」
「で、でもこれまでの経験から、エクスさんは単なる粗野な人じゃないんだなって、思えるようになってきたんです……時々忘れますけど」
「なあロイ。お前は褒めているのか貶してるのか、どっちなんだ?」
◇ ◇ ◇
ロイは今日も迷宮の人である。
炎を見た。
この先で、炎を吐く魔物が居るようなのだ。
ロイは雑種剣を抜くと、物陰に隠れつつ慎重に歩を進める。
見える。はっきりと見える。
火を吐く青銅の牛がいる。
炎の切れるのを待ち、ロイは飛び出し突進する。
雑種剣を振りかぶる。青銅の牛も負けじとロイ目掛けて突進してきた。
剣と角がぶつかる!
雑種剣は易々と角を切断し、頭に食い込み。
開いた頭の傷から炎が噴出していた。
ガラムズが横っ面から鎚矛で殴る。牛の頭は潰れた。魔物はこうして沈黙したのである。
◇
またここに、戦うロイがいる。
赤き竜がいる。
炎を操る赤き竜。
炎が揺れる、炎が舞う、炎が放たれる。
ロイは凧盾を前面に押し出し、赤竜の炎を耐えしのぐ。
だが、その炎は一瞬で凧盾を焼き尽くし、炎の舌が舐め取った。
しかし、ロイにとって一瞬だけで良かった。敵が見せた一瞬の隙。その隙を突いてロイは炎の息を掻い潜り、赤い竜の首筋に雑種剣を突きたてる。そして下に引き裂く。
炎よりも赤き血が吹き出る。血はロイの体を染めて、雑種剣は赤竜の血を吸った。
赤竜の咆哮、だがロイらは怯まない。
投擲紐の石つぶては紫電の速さで赤竜を撃つ。石は炎を吐こうとしていた赤竜の口の中に吸い込まれる。
「これでもくらえ!」と、エクスの魔法は光を呼んで、体を撃った。爆発、赤竜の傷が広がった。
ガラムズが鎚矛を振り上げ殴る。振り上げられた竜の爪は折れた。
赤竜はロイへと爪を振り上げる。ロイは雑種剣で受けるや滑らせて、返す刃で切り飛ばす。白い軌跡とともに、赤い血潮が炎に消える。
ロイは勢いそのままに、雑種剣を振りきり赤竜の首の傷を深くする。
炎が漏れて、赤竜の肉を、骨を焼いた。赤竜が倒れる。床に伏す。
赤竜はここに討伐された。
◇
そして今、揺らめく影がロイたちの背後を取った。
影は爪でアリーナを襲う。鉤爪はアリーナの肉を裂く。アリーナは苦悶の表情を浮かべるが、気丈にも立ち続ける。
そしてそれは現れた。
赤き肌の太い尻尾に山羊めいた頭と四本の腕。奇怪な姿に皆が思い立つ。──これが今回の目標だと。
それは悪魔、赤き悪魔が何事か呟くと、赤い肌よりも赤い火の玉が現れる。
ロイは雑種剣を抜いて白き輝きに包まれた雑種剣を構え、振りかぶった白の軌跡が火の玉を両断、炸裂させる。爆炎、赤き悪魔は怒りの声を上げていた。
悪魔は腕を振りかぶる。その鉤爪がロイを襲う。
エクスが魔法の呪文を唱える、「これでもくらえ!」光は悪魔に届く前に掻き消える。
ロイは鉤爪を雑種剣で払うと滑らせて、そのまま腕を切る。雑種剣は悪魔の皮膚を破って肉を抉り、骨を断つ。悪魔は再び怒りをあらわにする。
悪魔が腕を振ると火の玉が無数にあらあれ、ロイたちに襲い来る。
ロイは炎の玉を雑種剣で薙ぎ払い、前に出ていたガラムズは盾をかざすも後方へと吹き飛ばされる。エクスはアリーナの前で防御魔法を展開し、爆風からアリーナを守るも腕をやられて酷い火傷を負った。
ロイは雑種剣を振りかぶる。白い軌跡は悪魔の胴を裂き、振り下ろした刃は胴を切る。返す刃でVの字に切り上げた雑種剣は悪魔を追い詰め、そこから袈裟懸けに切り下ろした雑種剣は悪魔を両断していたのである。




