迷宮探査
「松明を」
アリーナが松明に火を灯し、掲げ持つ。
辺りがぱっと明るくなり、周囲の様子が浮かび上がって来る。
ここは通路の曲がり角だ。
方位磁石を確認すると、北と西へ通路は延びており、西の通路はすく先で行き止まりになり、北側に扉が付いているようだ。南と東は石壁だ。なにやら文字が書いてある。
「何々? 『仲間募集、この場所で待つ』は? なんだこれ?」
「さぁ。俺にも意味はわかりませんが、何でしょうねこれ。もどったらカレンにでも聞いてみましょうか」
「どうでも良い。早く進もうぜ」
エクスは一人で西に歩き出した。
「待ってくださいエクスさん!」
ロイは慌てて追いかける。
「ちょっと! 勝手な行動はしないで!」
盗賊娘も叫びつつ追い、
「初っ端から単独行動とは先が思いやられるのう」
と、神官戦士が髭を擦りながら続いた。
「待って! 扉を勝手に開けな──」
「これでもくらえ!」
扉は音を立てて吹き飛んだ。
扉の向こうが蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。
人型の生き物がいる。亜人……二本足で立つ豚のような生き物、怪物であった。
豚鬼はロイたちを見るや、近くに放り投げていた自分達の得物、棍棒や錆びた短剣などを取り、有無を言わせず襲い掛って来た! それもそのはず、彼らの仲間がエクスの魔法のせいで壊れた扉の下敷きになり、昇天してしまっていたからである。
豚鬼が押し寄せてくる。エクスはすかさず第二撃を放つ。
「これでもくらえ!」呪文は発動、豚鬼の胴を貫いた。そのまま爆発四散する。
「また勝手なことをして!」投擲紐から石つぶてが飛ぶ。顔に命中、豚鬼は倒れた。
「どっせい! ドワーフの鎚矛見るんじゃい!」鎚矛が豚鬼の首に命中。豚鬼は倒れた。
「何のために練習したと……うわぁ!?」かわされて部屋の奥へ引き込まれ、たたらを踏んだロイ。
「なにやってんだ! これでもくらえ!」命中、光の飛沫とともに豚鬼は爆発四散する。
戦闘は終わった。ロイは息も荒く肩を上下させている。エクスらは豚鬼どもの死骸をあさり、銅貨銀貨を回収していた。他には錆びた短剣などがあるが、それらは売り物になりそうに無いので捨て置かれているようだ。
「皆さん、地上へ戻りましょう」
「なに言ってるんだ隊長、こいつら楽勝じゃねぇか。もう一戦行くぞ」
「そうよ。ここまで敵が弱いとは思わなかったわ。奥へ進みましょうよ」
「豚鬼がナンボのもんじゃい! 鉱妖精の鎚矛は重いんじゃ!」
一対三。ロイは分が悪い。
「皆さん、戻りましょう」
「あぁ? 弱腰でどうする。先に行くぞ? これでもくらえ!」
呪文の詠唱、轟音と共に奥の扉が吹き飛ばされる。
そして始まる乱戦再び。
またも豚鬼の集団を相手に死闘が始まった。
◇
ロイの心配をよそに、一行は順調に探索を進めていた。
「しけてるわね。これなら、表通りで財布摺ったほうが何十倍も儲かるんだけど」
「盗賊娘らしい発想じゃな」
アリーナのぼやきにガラムズが言葉を添える。
「なんですって、このビア樽!」
「本当のことを口にしたまでじゃ」
「その舌、引っこ抜くわよ!?」
だが、添えた言葉がまずかった。二人は言い争いを始めたのである。
その大声は、だんだん大きくなっていき。
迷宮の隅々まで響き渡ったように思われた。
「静かにしてください、化け物どもが寄ってきます!」
ロイはもう必死だ。
「アレがそうじゃねぇの? あの骨が」
黒衣の男の言葉に振り向くと、七体程の骨の集団がやってくる。
「骨格から見て、あれは豚鬼の骨だな。誰かが妖術で仮初めの命を吹き込んだんだろう」
エクスはこともなげに言う。
「先手必勝、と。──これでもくらえ!」
光が収束し、豚骨鬼へと襲い掛かる。しかし、豚骨鬼の目の前で白の光線は掻き消えた。
「な……無効化!?」
魔導士は後ずさる。攻撃を受けた豚骨鬼の集団は、得物の贄にロイたちを選んだ。