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彼女を見た時、その少年は全身の毛が逆立つような感じがした。その女は特に喧嘩が強そうというわけでも、少年に危害を加えようとしたわけでもなかった。きれいな女性だった。彼女は少年に宿の場所を尋ねた。あいにく少年の住む村には宿屋と呼べるような場所はなかった。少年は村で一番大きな家を教え、そこならば謝礼さえ払えば泊めてくれるかもしれないということを伝えた。彼女は丁寧にお礼を言うと去っていた。彼女の何かを見透かしているような目と、嗅いだことのない変わった匂いが少年に強い印象を残した。
日が暮れて少年は自分の奉公している家に帰った。今日は主人の機嫌がよかったため、まともな食事をすることができた。食事が終わるといつものように言いつけられた仕事をやった。仕事が終わったのは家の人間がすべて寝てしまった後だった。家に鍵をかけた。立派な家である。少年は思わずため息をついた。少年は寝床のある小屋に戻ると、今日は誰にも殴られなかったことに感謝しながら床に就いた。
真夜中、少年は悪寒を感じて目を覚ました。様子がどうもおかしい。少年は静かにベットから出ると、近くにあったほうきをつかんだ。小屋の窓からそっと家の方をのぞく。すると昼間の女が扉を開けて入っていくのが見えた。おかしい、鍵はかけたはずだ。とにかく泥棒である。朝になって家の人々が家が荒らされたことに気づけば、どんな仕打ちを受けるか分からない。とにかく泥棒を捕まえなければならない。しかし、なぜか少年は動けなかった。たかが女一人ではないか。捕まえなくては。
家の人間の悲鳴が聞こえた気がした。はっと少年は我に返ると窓の外をまた覗いた。その時、風が血の匂いを運んだ。脈拍が上がる。手足が冷えていく。呼吸が浅くなる。少年は朝が明けるまでその場から動くことができなかった。
朝、隣人が家の扉が外れかけているのに気づいて人を呼んだ。中はひどいありさまだった。寝室のベットはすべて赤く染まり、天井や壁にもその液体は吹きつけられていた。そして鉄のにおいがそれが血液であることを示していた。少年は部屋の隅で震えているところを発見された。手近にほかの容疑者がいなかったことや、家の人間が少年にいつもつらく当たっていたことなどから、村人たちは少年を牢に入れた。少年は旅人の女が犯人であると必死に訴えたが、誰も信じなかった。
「何かあったのですか。」
女はゆったりとお茶を飲みながら世話になった人間に尋ねた。メイドは近くの家で住人が皆殺しに会ったこと、使用人の少年が犯人であることを伝えた。
「それは大変なことですね。」
「ええそうですね。
でもいつかはこんなことが起こるんじゃないかって思ってたんですよ。」
「この村では罪を犯した者はどのような裁きを受けるのでしょうか。」
「このようなことだったらまあ明日には絞首台の上でしょうね。
もっと大きなことでしたら町の警察に届けますけれど。」
「そうですか。ところでこのお茶おいしいですね。」
「ありがとうございます、お客様。ところで何か召し上がりませんか。
もう朝ごはんの時間は過ぎてしまっていますが。」
「あいにく今はお腹が空いていませんので。」
女は穏やかな表情でそう答えた。