健康勇者2 〜国王「勇者よ、ひとまずそのダンベルを置け」勇者「断る」〜
ガッチャン ガッチャン
「王様! 魔王軍の拠点をまた一つ制圧しました」
ガッチャン ガッチャン
「……うむ。これで魔王城までの道ができた。魔王の首に手が掛かったのう」
ガッチャン ガッチャン
「王様……これまで散っていた同胞たちの無念、この命に代えても晴らしてみせます……!」
ガッチャ……
「命に代えてなどというものではない……お前ら兵士は我が子も同然。皆で生きて国に帰るのだ」
ガッチャン ガッチャン
「……王様」
ガッチャン ガッチャン
「うむ……、ではこれから最終決戦に向けた軍議を行う! だがその前に……ガチャガチャうるせええええええええええええ!」
ガッチャ………… ガッチャン ガッチャン
「続けるな! いま一回とめただろうが! 勇者よ、ひとまずそのダンベルを置け!」
「……ふう、王よ。なぜトレーニングの邪魔をする。理由次第では許さんぞ」
「ここが会議室でお前が兵士の報告を妨げてるからだよ! わかったら置け!」
「断る」
「分かればいい、ダンベルを……って断るのかよおおおお! わしなんか変なこと言ってる? 至極当然なことしか言ってないと思うんだけど?」
「俺は勇者だ、魔王を倒すために全てを捧げる義務がある」
「……ならばなぜ軍議を邪魔する」
「兵士たちが魔物と戦うように、俺の戦いはダンベルを持ち上げることにある。たとえば、魔王を倒すのにあと1ダメージ足りなかったとする。もしそれに必要な筋力が、このダンベル1回で培われると考えたら……、ダンベルをあげるしかないだろう……!」
「……なるほど」
「わかったら出て行け」
「よし、じゃあわしらが出て……行くかああああ! ここは会議室だっつってんだろうが!」
「……少し昔の話をしてもいいか」
「なんじゃ、唐突に。……話してみろ」
「俺は自然の豊かな美しい村で生まれた。そこで幼い頃から屈強な勇者になるため、師範と修行した。雨の日も風の日も、修行を始めた日から、一日も欠かすことなく」
「なんと……幼い頃から厳しい修行を」
「だがある日、師範が倒れた。修行による過労が原因だった」
「……え? 倒れちゃったの師範?」
「雪の中、上半身裸で素振り1000回。溶岩流の隣で座禅。毒耐性を得るため毒料理。それらの修行を医師に全面的に禁止された。その時、医師から言われたことを今でもはっきりと覚えている。『君たち……やりすぎ』と」
「……」
「俺の体も栄養失調気味でボロボロだった。強くはなったが、いうほど強くはなかった。だから身体作りをいちからやり直した。まずは食生活を栄養価の高い食事で整えた。それから経験値重視からウエイトトレーニング重視にパラダイムシフトした」
「なるほど、そういう背景があったのじゃな」
「お前たちに過去の自分と同じようにはなってほしくない。だから影ながらサポートさせてもらった」
「……サポートとな?」
「お前たちの食事だ。最近の兵士たちの食事は俺が管理していた」
「そんなことをしてたのか……、そういえば兵士たちの間で食事が美味しいと評判らしいな。わしも食べているが確かに美味かったぞ。粉っぽい飲み物はイマイチだったが」
「それはプロテインだ」
「なんじゃ? そのプロテイン……とやらは」
「超回復の説明を覚えているか? その超回復をサポートする食材だ。近頃、兵士たちの身体つきが変わったと思わないか」
「そういえば……心なしか体が一回り大きくなったような……」
「バランスの良い食事とプロテインの効果だ。それにより兵士たちは屈強になった。これまでの快進撃の一助になっていたはずだ」
「おお……、何もせずに部屋の隅でトレーニングに励むだけかと思っとったが、まさかそんなことをしていたのか。もしやプロテインの他にも食事に工夫を施したのか?」
「もちろんだ。中でもとっておきは師範直伝の《じっくり煮込んだシェフの毒きのこスープ》だ」
「…………なんて?」
「《じっくり煮込んだシェフの毒きのこスープ》だ。安心しろ、致死には程遠い。弱い毒を摂取することで毒耐性を上げる。これが拠点に巣食った毒モンスターを狩るのに役立った」
「……な、なるほど。そういえば先日の夕食にきのこのスープが食卓に並んだが……」
「それだ」
「なんでわしにまで毒を盛ったスープを出してるんじゃ! わしは国王だぞ!」
「大丈夫だと言ってるだろう。医師には禁止だと言われたが問題ない」
「問題ある! 医師の言うことちゃんと聞けよ!」
「大丈夫だ、みんな気持ち良さそうに敵に突っ込んでいった。恐怖を取り除く効果もあるらしい」
「もっとたち悪い! それやばいやつだから! お前は厨房に立ち入り禁止! 一歩でも踏み入れてみろ、牢屋行きだからな」
「兵士の生存を高めているのに違いはないはずだ」
「……ぐっ、そうかもしれないが……」
「さらにグレードアップしたスープを夕食に用意したから、それを食べてから考えてみてくれないか」
「そこの兵士よ。夕食のスープをドブに流して、こいつを牢屋に叩き込んでおいてくれ」
「……なぜだ」