表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

お金がない!

「あぁー! 不味いことになったぞ……!」

 ジョシュアが行商から仕入れた消耗品を整理していると、エンプライが唐突に叫ぶ。

「どうしたんですか?」

 耳をふさぎながらジョシュアが訊ねると、彼女は彼の襟元に掴みかかりながら言った。

「路銀が尽きた」

 オイオイオイ。

「死んだわ僕ら」

「魔法特許料の支払いが三ヶ月前月に打ち切られたのが痛かったな……あのヤク中ビショップはいつか必ずシメてやる」

 自分がかけらも悪くないと思いこんでいるこの口ぶり。彼女はこうでなければ。

 そう言えば以前、魔法協会特許局から 『これ以上こちらに身分を明かさずに魔法研究をなさるのであれば特許料の支払いを打ち切らせていただきます』 と脅迫の手紙が来たとぼやいていた。面倒くさがりな彼女のことなので無視したのだろう。長いものに巻かれて権利を享受していたいのであれば、あまり権力に逆らうべきではない。常識だね。

「賊からいただいた小銭はどうしました?」

 この馬車は目立つからか定期的に賊に襲われている。その度に返り討ちにして、報奨金やら手切れ金やらを各所からいただいているのだ。毎回そこそこの金額をいただいているはずだったのだが……。

「この前の飲み代で使い果たした」

 使うんじゃねえぞ……。

「今回りんご酒を買ったのも不味かった」

 だからよぉ。

「いつの間にそんなもの買ってたんですか?」

 責めるように言うと、ようやく自分のしたことに気づいたのか少しだけ彼女は萎縮した。

「この前飲んで美味しかったから……」

 とんでもない浪費家というほかはない。

 幸い消耗品は先程たっぷり買い込んだのでしばらく何かに困ることはないが、旅を続ける上で資金がないのは大問題だ。

「なんとか稼がないとな……できれば楽に」

「なんですかその……それ」

 ジョシュアが心底呆れた顔を見せると、ムッとしたエンプライは遠隔でコピンの構えを取る。痛いのは嫌なのでジョシュアはすかさず回避した。

「私が下等な労働などするわけないだろう」

 堂々とそんなことを言わないで欲しい。

「さいですか」

 彼女は偉大な人間だが、地道にお金を稼ぐのには向いていないのだろう。確かに楽して大金が稼げるならそれが一番いいのだが、それはそれで手間がかかる。旅の途中に簡単にできることではない。

「次の街でギルドに寄ってみましょう。何かいい日雇いの仕事があるかも」

「日雇いって響きがアレだな。お前だけでやってくれ」

 相変わらずの仕打ちである。予想はしていたがまさか本当に言われるとは思っていなかった。

 こうしてジョシュアのはじめてのひやといが始まった。



 ゴキブリオス三匹の討伐、チャカサの採取、ゾグの街までの護衛……エトセトラ、エトセトラ。

 ギルドに掲示してあった依頼から鑑みるに、ここはどうやらそこまでレベルの高い街というわけではないらしい。

 冒険者としては中堅か、あるいは上級者なりたてあたりが集まる街に見える。

 これでもジョシュアの実力はベテラン冒険者に匹敵する。このレベルならソロでも大丈夫だろう。エンプライ以外とのコミュニケーションが苦手なジョシュアにとってはとてもありがたい話だった。

 依頼の中でも一番報奨金の高いものを選ぶ。『トーピードハーブの採取』だそうだ。

 トーピードハーブといえば魔力を引き上げるドーピングアイテムだが、煙を吸えば最高にトべるハーブとしても有名だ。どちらの用途にせよ、これを大量に欲している依頼人は恐らくちょっと危ない人間なのだろう。

 依頼用紙を破り取ると、不意に背後から声を掛けられた。

「あなた、トーピードハーブを取りに行くのですか?」

 淑やかな女性の声だ。振り返った先に居たのは、目をみはるほどの美人。

 まるで絵画から飛び出してきたかのような佇まいは些細な仕草ですら他者を魅了する。ほっそりとした手足は透けそうなほどに薄いローブに包まれ、フードからはみ出す黒髪はミディアムに切り揃えられている。タレ気味の瞳は見るものに温和な印象を与え、薄くルージュの引かれた唇は美しさの中にあってそのエロティシズムを引き立てていた。

 思わずドキリとしてしまった。

「わたくしもちょうど必要な物資にトーピードハーブがございまして。できればご一緒させていただけませんか?」

 やばいやばいやばい。

 ひとりでやろうと思っていたのに。

「あ、あ……僕でよろしければ」

 緊張のあまりうまく発音できなくなってしまったジョシュアに、女性は優しく語りかける。

「ふふ、あまり緊張なさらないでください。わたくしはホーリービショップを務めております、マヨイ・エリザヘクスと申します。マヨイでいいです。あなたは?」

 マヨイはグイグイと距離を詰めてくる。自分に好意的な美人に迫られる――あまり経験したことのない衝撃に心を揺さぶられながらも、ジョシュアはたどたどしく自己紹介をする。声が裏返らないようにするだけで精一杯だった。

「僕は……ジョシュア・ライヘンバッハァ……です……」

「いいお名前ですね」

 マヨイはにっこりと微笑んだ。そんな笑顔でそんなことを言われたら、どうにかなってしまいそうだ。

「ではジョシュア君、行きましょうか。いい群生地を知っているんですよ」

 あろうことか、マヨイはジョシュアの手を握ってきた。柔らかくて、すべすべしていて、暖かくて……ついつい意識してしまうのを押さえ込み、全身全霊で平静を装う。

 パニック寸前のギリギリで足取りもおぼつかないジョシュアを、マヨイは迷うことなく街の外へと連れ出すのだった。

用語解説:トーピードハーブ

一時的に魔力をグンと引き上げる準マジックアイテム。そこらへんに自生しているので誰でもいくらでも使用することができるのだが、非常に副作用が大きいので魔法協会は常に警告を出している。

一説によると巨竜等の大型魔物の遺骸付近に多く生えるらしい。遺骸にこもった魔力を外界へと戻す役目があるとも言われている。

副作用はいくつか挙げられるが、その中で最も警戒されているのが中毒性である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ