prologue 2
1
……暗い。
……ひたすら暗い。
俺は、頭の中でそう呟きながら、このひたすら暗い回廊を、出口を探して歩き回っていた。
しかし、ここは何処なんだ?
俺が気付いたとき、俺は何故かこの暗くて何も見えない回廊にいた。
なぜ、こんな所にいるのかなんて、俺にも分からない。気が付いたら居たからだ。
さっきから数時間もずっと壁伝いに歩いてみているのだが、出口らしきものは何も見当たらない。
そろそろ足も限界だ。腹も減った。
ここ、何処なんだよ……………
…んっ?
俺の目に、金色に輝く『何か』が飛び込む。
…出口なのか………?
それを確かめるべく、俺は恐る恐るその金色の『何か』の方へ歩く。
近づくにつれて、その金色は輝きを増し、徐々に大きくなる。
そして、それが光だという事が確証される。
……光……出口!!
俺は、その光に向かって駆けていった。
しかし、近づくにつれてその光は出口などではない事に気付く。
巨大な丸い光の球体。
俺はそれを遠くで眺めながら、呆然とする。
しかし、その光は、俺の不安を少しだけ紛らわせてくれた。
………何で、こんなとこに光が?
俺はそう思いながら、その光の球体に近寄る。
その隣に歩み寄ると、その球体の大きさがよく判る。
俺の身長の三倍以上もある。
…………………
!!
突然、俺の腹に衝撃が走る。
球体から伸びた光の線が、俺の腹に突き刺さっている。
…………………
***
「……………!!」
気が付くと、俺は頭に分厚い本を載せた状態で、俺の家の壁にもたれていた。腹の痛みも、もうすっかり無くなっている。
どうやら、夢でも見ていたらしい。
「やっと、目、覚ましたのね、セシル」
コイツは………、そうだ、幼馴染のティーナだ。
ん?でもなんで、コイツが俺の家に?
「何しに来たんだよ……」
「今日はアンタには用は無いの。あたしが用があんのは、その頭の上のモノ!!」
ティーナは、俺の頭の上に乗っかっている本に手を掛け、持ち上げる。
ああ、そうだ。この本、コイツのだっけ?
でも、まだ途中なんですけど…………
「待って、それまだ途中…………」
「だったら、自分で買いなさい。」
………金がないから、アンタに借りたのよ………。
「で、どうだった?なかなか面白かったでしょ」
う〜ん、そこは否定できないな。
「てかさ、何かうなされてたケド、何か悪い夢でも見たぁ?」
それ以外に理由があるなら教えてくれ。
俺は、ティーナにさっき見た夢の事を教えてやった。
「あはははははははは、なにそれ、この小説に書いてあるコトみたい!!
アンタ、この小説の中にでも行ってたんじゃない?」
そう言えば、この本、神に見放され、精霊達の破壊によって荒廃した世界での精霊と人間達の戦いとか言う感じのストーリーだったな。
じゃあ、さっきの光の球体は光の精霊ってコトか。
「……そうかもな」
とりあえず、こう返しておく。
「さて………と、じゃ、もう一回借りるぞ」
「は?」
俺はそう言うと、そのまま立ち上がり、ティーナの抱えていた本をぶんどり、家から出る。
後ろのほうで、
「あ、こら、返せ!!」
と聞こえるが、おそらく幻聴だろう。
無視無視。
そして、俺はそのまま町外れの神殿へと走っていった。
2
「ニシシシシシシシ」
俺は小声で笑いながら、神殿の中に隠れた。
ん?
何でそんな所に都合よく神殿があるかって?
実は、俺もあんまり知らないんだ。
俺が生まれたときにはあったんだが、特に人は来ない。俺も、俺らが昔に遊び場として使っていた以外に使われていたところを見た事も無いし……
さてと、続き続き…………
外の光が当たるところに、本を置いた。
そして、表紙を捲る。
しかし、突然本に当たっていた光が消える。
「!!」
「フフフ、セシル、アンタももう年貢の納め時ね!」
俺の目の前に、指をポキポキと鳴らしているティーナがいた。
「ひっ!!!」
「さあ、返してもらうわ…………」
ティーナが、床に置いてある本に手を掛けようとする。
ああ、まだちょっとしか読んでないのに……、もう貸してもらえないんだろうな……。
しかし、本がティーナの手に振れる事は無かった。
「ちょ、セシル、何すんのよ!!」
「俺何もやってねえ!!」
本は、何故か俺の近くまで寄っていた。
いや、俺じゃないから、違うのよマジで!!
「じゃあ、アンタ以外に誰が………」
ヒョコっ
「え?」
突然、本から音がした。
俺とティーナは呆然と本を眺める。
「今、ヒョコって言った?」
「…………」
ひょこっ
すると突然、本は二度目のひょこっ、と言う音と共に浮かび上がった。
「ひゃあっ!!」
「ええええ???」
ビビっている俺達を尻目に、本はまたひょこっ、っと鳴いた(鳴いた?)
すると、本はプカプカ浮かびながら、神殿の奥に吸い込まれる。
「あっ、ま、待て―――――――!!」
「お、おい!」
俺達も、本を追って神殿の奥を突き進んだ。
3
俺とティーナは、初めて神殿の最深部に入った。
昔、町長に入るなって言われたことがあったような………
「いたいた!」
本は、広間の中央に置かれた祭壇のようなものの上で浮いていた。
「凄い………、結構広いわね」
ティーナの声が響く。
俺達は、本の下の祭壇に足を進める。
祭壇の中央には、この本がすっぽり入りそうな穴が開けられている。
「こんな所があったなんてな………、壁画もあるぞ……」
俺は、壁に描かれた壁画を眺める。
内容は、人間が黄色い球体と戦っているようだ。
黄色い球体からは、細い線のようなものが数本出ていて、それが人に突き刺さっている。あれ?これ、どっかで見たような…………
「………さっきの、夢?」
「へ?どうしたの?セシル」
「あっ、いや、なんでもない」
俺は祭壇に近づく。
すると、その祭壇の上で浮いていた本が、祭壇の穴に吸い込まれるように納まった。
「!!」
「ええ?」
部屋を明るく照らしていた松明の火が消え、広間が急に暗くなった。
「うそ……?」
そして、俺とティーナは、謎の闇に飲まれていった。