L'oiseau bleu
しあわせ…… bonheur……happiness…… felicidad……felicità……
しあわせとはなんだ?
日本では本来【しあわせ】と言う言葉は、室町時代に作られ以降『仕合わせ』と書き『 良い縁、悪い縁関係無く巡り会う事。出逢うべき人に出逢えること』すなわち【縁】を意味した。
今現在、使っている【幸せ】と言う文字は江戸時代以降に使い始められ、【幸】という字は手枷を表し、刑罰を免れて良かった、もしくは手枷だけで死罪になる様な重い罪からまぬがれた、思いもよらない幸運だというのが語源だそうだ。
人はしあわせを感じると自然に笑顔になる。
仏教の教えに『和顔施』 というものがある。
それは、どんなに悲しくても、辛くても、他人に笑顔で接することが、一種の布施を行うことになり、笑顔を相手に捧げることが自分の功徳となり、幸福がもたらされると考えられている。
「溜め息つくとさぁ~。つく度に幸せが逃げて行くらしいよ?」
とある口癖を思い出す。
「それでは、どうしたら幸せが来るんですか?」と聞くと決まって返事は「さあ~。どうすれば、いいんだろうね?その答えを見つけたいよね?
でもさ。明確な答えの見つけられない事を考えるよりさあ~、まぁ取り敢えず美味しい物を一緒に食べようよ。そうすれば少く無くとも幸せな気分にはなれるよ?」と満面の笑みで答える。
その笑顔が好きだ。何の屈託の無いしあわせあふれる笑顔を見ている事が………。
これが【笑願施】と言う事なのだろう。
No reímos porque estamos feliz.
Estamos feliz porque reímos.
(幸福だから笑うわけではない。笑うから幸福なのだ)
俺は最近何時笑ったかなぁ~?
此処のところ自分に余裕が無くカリカリしていたよなぁ………。部下に対する小言も多くなった気がする。打ち込む趣味もこれと言って無いしなぁ~
「おい十碧。どうした?今日は何か元気が無いな?酒もすすんでないし、何か悩みか?金の悩み以外ならなんでも相談にのるぞ?」
3人の男が酒を酌み交わしているがその中の1人は窓の外を見ながら幸せについて考えている。
「拓哉に金の相談しても反対にたかられるだけだろ?それにしっかり者の十碧に限って金の心配は無いだろ?
でも、今日は本当に元気が無いな?何時もの蘊蓄が全然出てきて無いものな?
仕事は当分の間は国内だけで長期間の出張も無いし、これと言って大きなプロジェクトも無い、珍しくゆっくりできるのに何を悩んで居るんだ?」
2人の男は酒が回ってきたのか陽気に少し茶化しながら聞く。
「別にたいしたことでは……。俺のしあわせはどこにあるのかな?とふと考えていただけだよ」
「ん?しあわせ?今十分に幸せそうに見えるが?何が不満なんだ?」
「不満と言うか、マンネリ化したと言うか充実感が無いと言うか………。
それに最近出逢いも無いしなぁ~。このまま1人で老後迎えるのかなぁ~。とかさ色々だよ。
そうだ、秀一。亡くなった奥さんと出会った時なにかこう運命の様な物を感じたか?」
「ん?うーん?有った様な無かった様な」と周藤は腕を組み考える。
「なになに?十碧、結婚したいのか?相手は誰だ?」と立ち上がりビールジョッキをテーブルに置き興味深く藤堂に覗き込む様に斎藤が質問する。
「この人だと思える相手が居ればしたいに決まっている。でもそんな気持ちにさせてくれる人になかなか巡り会えないから、最近俺にはそう言った縁は無いのかとしか思えないくて………」と声が途切れる。
「十碧なら少し結婚についての自分の考えを変えればしようと思えば出来るだろ?拓哉は生活を変えないと無理だがな?」と周藤はビールを飲みながら2人を見比べながら言う。
「えっ?秀一に言わせると俺の結婚はハードル高そうだな?」と笑いながら美味しそうに斎藤はビールを飲み干し店員におかわりを頼んでいる。
「拓哉は【嘯風弄月】そのものだ。なんでも、どこにいても楽しみに変えるが、堅実さが無いし将来に対する危機感も蓄えもないからな。女性は結婚相手にはその部分を厳しく見るぞ。お前には十分に思い当たる事あるだろ?
反対に十碧は堅実で将来設計を誠実にこなしていくだろう?どんな時でも【乾坤一擲】何て言う選択肢は絶対に選ばないしな。女性はそんな堅実な男性を結婚相手に好む。ただ十碧は結婚に関しての理想が高すぎるんだよ」と周藤は涼しげに分析し言い放つとビールを飲み干す。
「なんか俺、ひどい言われようだな?まあ言い返せないけどな~。
しかし、仕事でも遊びでも恋愛でもどうせするなら楽しくないとな。そうでないとやりがいが無いだろ?何より充実感がない!そうなると惰性で仕事するようになるし、いいアイデアも出てこないし、ストレスが溜まりこの悪循環で俺は死ぬな。100%死ぬ」と笑いながら切り返す。
「なにやら、拓哉はどこかの御仁に言動が似てきましたね。見習って独身主義でもかかげるつもりですか?
それはそれで構いませんが……まあそれだけいつも和顔施を施していれば人生のしあわせはついて回るかもしりませんが………。面倒も同じ位ついて来そうですよ。私を巻き込むのだけは勘弁して下さい」と少し皮肉を込めて藤堂はそう話すとほほ杖をし、またため息をつきながらビールジョッキを見つめる。
「今時3人に1人が離婚する時代に、結婚だけにしあわせを求める事は無いだろ?
しあわせなんて気の持ちようだし、探すもんでもないだろ?
ほらメーテルリンクの幸せの青い鳥は遠くまで探し歩いたが結局すぐそばに青い鳥は居たと言う落ちだぞ?
まぁ出逢いが無いと嘆くなら合コンでもするか?お膳立て喜んでするぞ?でも主役は俺な」と斎藤は運ばれて来たビールを嬉しそうに手に取りつまみを食べながら言う。
「Estamos infeliz solo porque no sabemos que estamos feliz.(人は自分が幸福であることを知らないから不幸なのである)
こんなに上司や同僚、部下に恵まれて何を言い出すのかね。
まぁ十碧に必要なのは笑顔だよ。ほら眉間にしわ刻まれて来てるぞ?」と周藤は藤堂にデコピンをする。
「痛って」と藤堂は鳩が豆鉄砲食らった様に唖然とする。
「ん?あっ本当に十碧しわになって来てるぞ」と斎藤は藤堂の前髪をかきあげて茶化す。
「えっ?えええ」と藤堂は斎藤の手を振り払いながら眉間を気にする。
そこに「藤堂先輩?」と3人の男達が現れる。
「おっ、玲音君達偶然だね?飲みに来たの?一緒にどう?」と斎藤は嬉しそうに誘う。
「えっ?お邪魔では無いですか?」と千景が言うと斎藤達3人は「全然、是非御一緒しましょう」と満面の笑みで答える。
「なら俺、お店の人に言ってもっと広いテーブル用意してもらいますね」と廉はそう言って段取るべくその場を離れる。
「十碧。俺を含めてちゃんと気遣い出来る有能な部下に恵まれて居るじゃないか?これ以上のしあわせは無いと思うぞ?」と周藤は藤堂の耳元で囁く。
「そうだな」と藤堂は先程とは違い満面の笑みでビールを飲む。
「玲音君、何頼む?好きなもの頼んで、ほら千景君も。今日は十碧の奢りだから遠慮なく好きなだけ頼むと良いよ」と斎藤は玲音と千景にメニューを渡しながら迎い入れる。
「えっ?いいの?」と玲音は屈託の無い笑顔で藤堂を見る。
藤堂は満面の笑みから苦笑に変わり拓哉をにらむと
「ええ。今夜も美味しい物をいっぱい食べて楽しく飲み明かしましょう」と藤堂は男達の宴の幕をあける。
玲音は「大勢で美味しい物を飲み食い出来ることは、楽しいし、しあわせだよね」と満面笑顔を振りまく。