(6)ただ一つ欲しいモノ
ね?、と微笑みかけた少女に姫は抱き付く。
「じゃあ、貴女が私と一緒に来てっ!」
え、と少女は戸惑って、困ったように眉根を下げた。
「それは・・・・・・無理、だよ」
いやいや、としがみ付く姫を宥めて、少女は黒い扉を指さす。
「私はね、アッチに行かなきゃいけないの」
でね、と姫の顔を覗き込んでから、少女は白い扉を指さす。
「姫様はね、コッチの扉から戻らなきゃいけないの」
だからね、と少女はしがみ付く姫を自分からゆっくりと離して言い聞かせる。
「私は一緒にはいけないんだよ。
私たちがココで会えた事、それが奇跡なんだから・・・・・・」
大丈夫、と少女は茫然と座り込んだ姫を置き去りに、ゆっくり立ち上がる。
「姫様なら、出来るよ。忘れないで・・・・・・
”生きているだけで儲けモノ”。精一杯、笑って生きてね」
それだけ言って、ゆっくりと離れていく少女。
姫は暖まった身体から急速に熱が引き、
少女が現れるまで感じていた凍える様な寒さを再び感じ、恐怖した。
「いやっ!」
そう叫んだ姫に驚いて振り返った少女。
今まで気がつかなかったけれど、少女の身体はもう半透明に薄くなっていた。
少女が最期の時間を惜しんで、自分を励ましてくれていたことは分かる。
それでも、少女と離れる事は許容できなかった。
だって、少女は今、姫にとって、本当の”ただ一つ欲しいモノ”になっていた。
少女を失う事、それはどうあっても、姫には許容できない事だった。
姫は命じる。
「私と一緒に来なさいっ、紫音」
命じた瞬間、無数の蔦が少女、紫音の身体に絡みつき、ヒッと紫音は悲鳴を上げる。
蔦に包まれるようにして紫音の身体が消えていく。
紫音は姫の方を困ったように見たけど、怒らなかった。
そんな紫音に姫は泣きそうな顔で願う。
「・・・・・・時間を、貴女に生きる時間を上げるから、だから、傍に居て・・・・・・」
お願い、と涙を零しながら、ゆっくりと消えていく紫音を見ていられず
姫は目をギュッと閉じた。
蔦が紫音の全てを包むと、ポカポカと胸の中が暖かくなる。
ソッと胸に手を当てて、姫は泣き笑いの顔で呟く。
「・・・・・・・・・ごめん、な、さい・・・・・・・・・ごめ・・・・・・・・・んね、しお・・・・・・」
姫はゆっくりと紫音が指さした白い扉から自分の世界へ戻った。