邂逅~
初投稿になります。gdgdしないよう頑張ります~
-茨城県ー 2110年4月
茨城県の県庁所在地、水戸のとある高校の放課後。
「慎吾~部活行こうぜ~」背が190cmはあろうかという男子が教室で帰る準備をしていた男子に声をかけた。
「あいよ」そう答える男子の名前は西野慎吾。新聞記者の息子で正義感が強く、今のこの射水組の支配をまったくもって快く思っていない者である。声をかけたのは中学以来の親友である春樹遼である。2人は高校3年生で硬式テニス部に所属していてよく意見もあっていた。
「昨日の全英見た?」春樹が言った。
「いや見てない。」悔しそうに西野が言う。「昨日父さんが1階にいるなって。」
「え?また来たってこと?」
「また来たんだよ」西野の父親は敏腕記者でよく射水組に依頼されて記事を書いていた。しかしその記事は射水組に都合のいい記事ばかりだった。具体的に言うと、非常にわかりやすく飽きさせない記事をかける手腕を買われていたのだ。だがあくまでそういう方向性の意味での敏腕であって、慎吾が望むような記事を書いていたわけではない。
父親が望んでそんな記事を書いているわけではないことも、守るべき家族があること、そんな父親のおかげで自分が比較的裕福に暮らしていることをわきまえている慎吾ではあったが、息子として感情論とわかっていても父親には正義を貫いてほしいと思うのは当然であった。
「ふ~んそうかい。いや~いい試合だったから見てほしいわ、結果は言わないでおくから。」
「そんなこと言われたら部活そっちのけで見たくなるからやめい。」西野は疲れたように部室へと入っていった。
-部室棟2階ー
そのテニス部部室の上の階の将棋部。ジャージを上下に着た男子が2人、将棋を指していた。
「ファッ」片方の男子が声を発した。盤面はその男子が一気にミスで劣勢になったところだった。
「んもう~~~」その男子、吉田貴司が唸った。相対する男子は川又一平という名前で、2人は同じ将棋部の3年生であった。
「投了しても、ええんやで」川又がニタニタする。
「投げてしまうか~~負けました!」吉田は元気よく言ってその後パイプ椅子の背もたれにどっとよりかかった。
「最近集中力が続かねえ」吉田はスマフォを取り出した。
「なにか気が散る要因でもあんの?」
「いや」吉田は背もたれから体を起こした。
「逆かもしれん。最近仕事がなくて体が鈍って鈍って・・・」
「まあ確かに・・・」
「ほら2月に同師会潰してからさ・・・」
「確かに年が変わってからは非常に忙しかったね。」川又が苦笑いしながら言った。
「あの忙しさがいいなんてことは言わないけどさ、少し拍子抜けするのよね~同師会ってそんなに影響力があったのかって」
同師会は茨城屈指の指定暴力団であった。それが今年の2月に組員とその家族関係者が惨殺される事件が起きたのである。抗争の様子は何人かの一般人に目撃されていたが、その証言のほとんどが
『少数の10代に見える武装した男子が事務所に強襲し、銃声や爆発音がしたのちに男子が出てきた。』というものであった。本来ならこんな目撃証言がまともに信じられるわけはなく、虚言とでもとらえられたのだろうが、今は違う。
今から2年前の2108年頃からこんな目撃証言が相次いだのだ。当初はそれこそまったく信じられていなかったが、それが定期的、かつ次々と暴力団事務所潰しを行っている集団があるともなれば民衆の関心は自然と向くのであった。
「あったんだろうな。後ろ盾、というよりかは同師会の後ろに隠れてコソコソする連中が多かったからな。もう茨城にはそんなことできる勢力もなくなったし・・・」
「だーつまらん!ほかの地域に進出するにしてもさすがに資金が足りん!」
「まあ、急いで侵攻することないでしょ。実際他州でも表立った行動が減ってると聞いているよ。」川又が言った。
「そうなん?それならいいけどこっからどう資金をやり繰りするよ?いつまでも戦勝金だけでは賄えないぞ?スポンサーがついてくれりゃあいいんだが・・・」
「それを強要するのが暴力団なわけだね。バイトでもするかね。」
「なんの?!」吉田が目を見開いた。
「土木作業とか」
「いやいやいやいやいやいや」吉田はブンブンと首を振った。
「土木工事はもう3月の受注でたくさんやったじゃん!でもそんなに金が溜まったわけじゃないって言う・・・」いつの世界でもそうだが、3月は公的団体や大会社が資金を使い切るために工事の受注が多く、そのアルバイトも豊富だった。確かに日給は素晴らしかったが、重労働の反動で贅沢してしまうので結局普遍なアルバイトと変わらないのであった。
「ねえ、そういわずに」川又はニコニコしている。
「言うわ!」吉田は頑として首を縦には振らなかった。
西暦2110年。直近100年で日本は大きく変化していた。100年前に存在した1都1道2府43県は存在せず、東北州、宮城州、東京州、茨城州、静岡州、名古屋州、関西州、広島州、四国州、九州の10州にわかれていた。このうち、東北、東京、名古屋、関西、広島、四国はすべて州知事が射水組の傀儡であった。宮城州、茨城州、静岡州、九州の4州はそれぞれ全部別の団体の知事が立てられ、射水組の支配を免れていた。そしてさらに大きな変化は北海道の独立である。というより射水組率いる日本が西暦2060年に切り離したと言っていい。別国と化した北海道ではあるが日本と国交がある状態ではあるし普通に輸出産業が盛んである。ほとんど同じ国の時と生活は変わっていないだろう。ではなぜ射水組は北海道を独立させたのか。北海道は農業林業が盛んで多くの原材料確保地であるのは誰の目から見ても明らかだった。だが、逆に技術、工場や開発の面ではどうしても大都市のような設備がなく工業という面で見ても不利に立たされる。日本がどうしても工業国家であることを考えれば北海道は食料自給率を極端に上げるわけではないのだが、工業の面での足でまといは極端にあるのだ。だから、別国として扱うのだ。「助けてやる代わりに金はだせよ?」という考えなのだ。
ー茨城州 水戸市街地ー
多くの人が行きかっている・・・というほどでもないこの中都市に紛れこむかのように小柄な男が路地に隠れながら歩いている。その小柄な男は両脇両腰両太腿に合計6丁もの拳銃を持っている。もはや完全な不審者だ。その小柄な男が路地からでて国道の歩道を歩きだした。案の定、何人かの通行人がぎょっとしたような表情でその小柄な男を見た。小柄な男はそれら通行人は一瞥もくれず、ツカツカと早歩きで移動していく。
「おうい、飯沼さん。」突然、歩道の縁石に座っている太った男が声をかけた。飯沼さんと呼ばれた小柄な男が立ち止まった。
「阿部さん。待ち合わせは建物の中にしようって言ったじゃ~ん。おかげでこの」飯沼はそう言って周囲を見る。奇特なものを見つけてじろじろ見ている民衆はサッと目を逸らした。「有様だよ。」飯沼は苦笑する。太った男の名前は阿部というらしい。
「ンハハ、それは悪いね~。なにせバスに乗るんだから建物内にいると見逃すこともなきにしも非ずだからな。でもさ、まだ4月なんだから上着切ればいいのに。そうすれば太腿のだって見えなくなるっしょ。」
飯沼は首を横に振った
「いや、暑いんだ、それが。」
「え゛。すこし寒いくらいなのにか?」阿部が飯沼を見た。
「うん、なんかね。これからなにか始まるような予感・・・・燃えるような予感を自分でもわからんうちに感じているのか、熱いんだ。」
「ふ~ん」阿部はそれ以上追及しなかった。
「まあいいや、行こうか。」阿部と飯沼は周囲の目を気にせず歩いて行った。