~おにぎり奮闘記??~
『明日は、今日よりも気温が高くなり、秋晴れの気持ち良い空が広がるでしょう。洗濯物は――』
ラジオから、中年の、いかにも「それ」っぽいような響きをもった声が流れた。
ああ、明日は晴れるのか。
じゃあ、どこへ行こう・・・。
―――
ここは、山梨県甲州市の奥地に位置する小さな町である。
近頃は高齢化が進み、たんと活気が無くなり、街を去るものも出てきた。
町の大人は皆、どうにかしてこの町を活性化させることができないか、と頭を悩ませていた。
地元の特産品は――――――桃・ぶどう・すもも・さくらんぼ。
確かに、フルーツ類では日本一と言っても過言ではないほどの品質があるにはある。しかし、
これで町が活性化するかといったらそうではない。
フルーツは県外出荷するのがメインなのだが、それでは値段が高くなり、買うのをためらう人も出てくる。
それに、「これ」といったものが特にない町では、訪れてもなんの感嘆もなく終わってしまうだろう。
そんな町を、高校一年生の 杉山 健人はひとりで歩いていた。
何をするわけでもなく、ただひたすら。
高校では、県立陽川高校の野球部に所属し、ピッチャーとして日々頑張っている。
彼の好物は、お母さん手製のおにぎり。
彼は、母のおにぎりが好きすぎて、同級生から「おにぎり」というあだ名をつけられてしまったほどである。
そんな彼にも、夢がある。それは――
『おにぎりでこの町を救うこと』
あまりにも無理難題なものであることは本人も承知している。だが、
彼のおにぎりにかける思いは、人1倍、いや、人1000倍にもなるだろうか。
それほどまでに、強い思いだった。
かといって、彼になにか特別な力があるわけではない。
ごく普通の、どこにでもいそうな、そんな風貌の高校生なのだから、当然である。
親は共働きで、小遣いは月3千円。食べ盛りかつ野球部の彼にとっては、とても少ないと思う額である。
でも、
彼はなにがあろうと、部活後、コンビニのおにぎりを食べることを欠かさなかった。
世間一般に、コンビニの料理は体に悪い とか、悪影響がある化学成分を使っている、といった、若干風評に近いことをいう人もいる。だったら、米の産地で作って、直売すればいいのでは?と思うが、それでは都心部にたどり着く前に、腐ってしまうこともある。大半の米の産地は東北だから、東京まで約4時間~8時間ほど。おにぎり本来のおいしさが果たしてそこまで持つだろうか。
じゃあ、山梨の米って言ったら?―――
彼には到底予測すらできなかった。
そもそも、全国的な米どころといったら、新潟か、もしくは秋田、福島あたりだろうか。こしひかりだことの、あきたこまちだことの、俗にいう「ブランド米」なるものが流通している現在で、街行く人に「米の産地といったら?」とでも聞こうものなら、まず「山梨でしょ?」と言い切る人は100%いないだろう。
そんな山梨で、何ができるのか。。。
深く考えても、寝たら、忘れてしまう。学生の本業は勉強である。だからといって、農業学問に浸ることはできない。野球部のエースを目指す彼に、その道はとても危険な茨道であるに違いないからだ。
でも、彼は見つけてしまった。山梨の、米を。