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潜入

 このパーティーの中で「ハル」と並んで最年少、かつ元気娘の高位妖術師「ユキ」が、ユウを抱きかかえて岸壁の上まで『空中浮遊』の魔法で登っていく。


 上部まで辿り着き、その姿が見えなくなってしばらく経ってから、フシュン、という風きり音と共に、ユウが海岸に残っていた俺達のすぐ側に現れた。


「おまたせ、上には今のところ、見回りの『鬼』もいなかったわ。みんな転送していくね」

 と笑顔で話す。


 そして、まず『忍者』ミツ、『治癒神官』のリン、次に『侍』のナツ、『魔呪力付与師』のハルが、ユウに右手で触れられるだけで次々と姿をかき消していく。


 ユウの特殊能力、『瞬時空間移転能力(テレポーター)』は、右手で登録した地点に左手で触れた物や人を、逆に左手で登録した地点に右手で触れた物や人を瞬間移動させることが出来る。


 しかも、魔力を一切使わず、使用制限もない。

 距離も、どれだけ離れていても有効なのだから、なかなかにチートな能力だ。


 そして俺とサブが崖上に転送され、最後に彼女自身も瞬間移動してきた。


「ユウ、お疲れさま。本当に便利ですごい能力ね。おかげでずいぶん、魔力の節約が出来たわ」


 ミツは満足そうに頷いた。

 他の少女たちも感心している。


 俺もサブも、ロープで崖を登る必要が無かったので、それだけでも体力と時間の削減が出来たわけだ。


 また、いざというときは、元の崖下まで瞬時に離脱することができる。

 その能力を持つ彼女がいるというだけでも、パーティー全体としての安心感が違った。

 

 それから約二時間後。

 俺達は、今回の攻略のメインとなる、廃坑前へと来ていた。


 崖の一角に、大きな金属製の扉が取り付けられている。

 高さは約三メートル、幅も同じぐらいありそうだ。


 そして注目すべきは、その扉よりも背が高く、がっしりとした体格、且つ板金鎧、盾、槍で完全装備した大鬼の姿だ。


「『オーガ・ロード』、恐らくレベルは五十五を軽く超える化け物……この廃坑の入り口を守る大妖よ……あなた達がまともに突っ込めば、一撃で殺されるわ』

 リンが小声でつぶやく。


 今、俺達がいる場所は、この門から百メートルほど離れた林の中だ。

 門の前はちょっとした広場になっており、近づけばすぐに見つかってしまう。

 そのために、これだけ離れた位置から確認しているわけだが……それでも、大鬼の迫力は十分に伝わってきた。


「『ミコーズ』のメンバーが一斉にかかれば倒せない相手ではありません。けれど、『オーガ・ロード』の役割は門番。すぐに大声で仲間を呼ばれます。そうなると、あの丈夫な鉄製の門を破壊することなど、到底叶いませんわ。事実、前回はそれで失敗しましたから……」


 『治癒神官』のリンが、ぼそりとつぶやいた。どうやら、力業でどうにか出来るものではないらしい。


「あの化け物も、そして門にも、対物理攻撃・対魔法攻撃の軽減呪術が施されている……一筋縄ではいかない」


 侍のナツも、歯ぎしりするようにそう言葉を出した。


「けれど、今回は違う……ユキ、頼む」

「うん、分かった!」


 まだあどけなさの残る十六歳の妖術師が、なにやら呪文をつぶやいた。

 するとそこに現れたのは、一匹のニホンザル。キッキッと鳴きながら、その場で飛び跳ねたり、宙返りしたりと、なかなか軽快な動きだ。


(デコイ)……こいつであの門番をおびき出すことができれば打開できるのだが……」


 ナツが、妹のユキに指示を送る。

 ユキは頷くと、まずはサル移動させ、幾分離れた茂みの中から、門番の立ちはだかる門の前へと動かした。


 突如茂みから現れた小さなニホンザルに、大鬼は一瞬だけ目を開いて興味を示したものの、その後は微動だにしない。


 サルはキッキッと叫び、飛び跳ねたり、おどけて見せたりしたが、大鬼は全く興味を示さなかった。


 と、突如そのサルが印を結び……そして小さな火の玉を、オーガ・ロードの顔面に向けて放った。

 その不意打ちに、オーガ・ロードは避けきれず……まともに顔に浴びてしまった。


 ダメージはともかく……小さなサルが、自分に向けて火球の魔法を放ってきたことに、大鬼は明らかに戸惑っているようだった。


 そして小サルは挑発するようにおどけて見せ、さらに印を結ぶ仕草を見せた。

 ここにきて、ようやく大鬼は動き出した。


 一瞬、鉄製の門を気にする仕草は見せたが、短時間であれば持ち場を離れても問題無いと判断したのだろう、そのまま、逃げ出したサルを追いかけて歩き始めた。


 ここで、ハルによって『隠匿』の魔法をかけられ、その姿が半透明になったミツ、サブが動き出す。


 素早く門に接近、大鬼がこちらを見ていないことを確認し、サブの『強制空間削除能(イレイザー)』を発動、金属製の大扉に穴を開ける。


 そしてミツから、念話(テレパシー)が全員に入った。


「……穴が開いたわ。今なら大丈夫、みんなも来て!」


 あらかじめハルに『隠匿』の魔法をかけてもらっていた残りのメンバーも、一斉に動き出す。


 確かに、扉には人が一人、くぐり抜けられるほどの穴が開いていた。

 驚くべきはその厚みで、五十センチ程もの分厚さだった。


 元の世界の戦車でさえ、装甲の厚みはせいぜい二十~三十センチぐらいなのだから、この分厚さが分かる。しかし、それに事もなげに穴を開けるサブの能力もまた、凄い。


「門の中には今、誰もいないわ。急いで入って!」


 全員、大急ぎで扉の中に侵入した。


 そこは大広間のようになっていたが、荷物運び用のトロッコレールが存在する以外、これと言って特徴のあるものは存在せず、岩肌がむき出しになっている。

 ここの妖魔は、門番や見回りを除いて夜行性だということなので、ほとんどの鬼達は寝るか、待機しているのだろう。


「みんな揃ってるわね? じゃあ、サブ、閉じて」


 とのミツの指示により、サブは左手で穴の開いた空間をなぞる。

 するとその箇所は、元の……つまり削除される前の状態に戻っていく。


「便利なものだな……ユウの能力といい、まさに『神の手』……あれだけ手こずっていたこの廃坑にこんなにあっさり進入できるとは、本当に神の加護を得た思いだ」


「ナツ、油断は禁物よ。その分、私達が守らなければならない存在でもあるのですからね。でも……文字通り、第一関門突破ね」


 と、リンも笑顔を見せた。


 遮蔽物も多く、狭い道が入り組んでいるこの廃坑であれば、俺達の『神の手』の能力はフル活用することができる。


 それに、高レベルの『ミコーズ』メンバー達も付いている。


 この使命、今の自分達ならば、案外あっさりクリアできるのではないか……そんな風に、楽観的に考えてしまっていた。


 大切な仲間を一人、欠いてしまう惨事になることなど、この時点では想像できていなかったのだ――。


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