新生『フロンティア・ミコーズ』
ナツ、ユキ、ハルの三人による連続攻撃は、実に三十分にも及んだが、それでも俺が『絶対空間固定能力』で固定した毛布は焦げ目一つ付かず、皺一本にいたるまで変化がなかった。
三人は悔しそうな表情を浮かべていたし、そう口にしてもいたが、ミツに
「まあまあ、この能力を持つ彼が仲間になるんだから」
と彼女たちをなだめ、それで一応納得したようだった。
いや、まだ俺達、仲間になるなんて言ってないんだけど……。
ちなみに、今回彼女たちの猛攻により生まれた地面の『えぐれ』は、この後、レッサードラゴンを倒した際にできた激闘の後だと噂されるようになるのだった。
改めて八人で集まり、今回の出会いについて語り合った。
おそらく、これは『神』によって用意された『イベント』なのだろう、一つのパーティーとして行動することは、お互いにとって利益になるはずだ、と大人なミツやリンが持ちかける。
まだ駆け出しの冒険者でしかない俺達にとって、高レベルの彼女たちと一緒に魔物退治に出かけられるのは、絶好の経験、およびレベル上げのきっかけとなる。
また、その彼女たちにしてみても、俺達が持つ特異な能力は魅力的に映るはずだ。
侍のナツも納得してくれたし、最年少のユキ、ハルの双子に至っては、単に『出会った瞬間に何かを感じた』俺達が仲間になるというだけですでに大はしゃぎだった。
こうして、八人パーティーとなった新生『フロンティア・ミコーズ』。
まず、改めてお互いのステータスを確認しあった。
ここで、「瞬時空間移転能力」の能力を持つユウが魔術師なのはいいとして、俺がまだ職業を決めていないこと、そして『強制空間削除能』の能力を持つサブが『筋力』にステ振りを実施していることに対してツッコミが入った。
「タクは自分でも言っていたように、物体を空間に固定するそのその能力は罠を仕掛けるのに向いているわね。ステータスも『素早さ』に重点を置いているのでしょう? だったら、『盗賊』を選択した方がいいわね」
「……盗賊、か……なんとなく、言葉の響きがあまり良くないけど……」
「大丈夫よ、私達と一緒に居れば、すぐに上級職にジョブチェンジできるから。それより、スキルとして『忍び足』とか『聞き耳』とかが身につく方がいいでしょう?」
というミツのアドバイスにより、俺は自分の職業を『盗賊』として設定した。
ちなみに、一度選択した『職業』は、容易に変えることができない。
それこそ、レベルを上げて彼女が言うような『上級職』へのジョブチェンジを実行するか、あるいはステータスの減少というリスクを払って、同じレベル帯の別の職業へ転職するしかないのだ。
また、サブに対してはもう少し具体的な指示だった。
「あなたの能力を考えると、ずばり適任の職業は、私と同じ『忍』、ね。盗賊からも戦士からもジョブチェンジできる上級職よ」
「俺が……『忍』? なんでまた……」
「『忍』には、いわゆる『暗殺』に適したスキルが多々あるわ。敵に気付かれないようにこっそり近づいたり、SPを無視して、いきなり致命的なダメージを与えたり……」
「……なるほど、それは確かにいいかもしれない」
「そうよ。そして『忍』はなるべく軽装の方がいいから、今の『筋力』よりも『素早さ』にステ振りを実施したほうがいいわね」
「うっ……俺、失敗したかな……」
「ううん、そんなことないわ。忍にとって『投擲』スキルは必須となるの。それには『筋力』のステータスも必要になるから……」
と、ミツとサブは真剣にお互いのステータスについて熱く語り合っている。
なんかこの二人、お似合いって言うか、妙にしっくり来ているような気がした。
で、その日はイフカの町に戻り、お互いの出会いに酒場で大いに盛り上がった。
夜はというと、その日はお互いに別々の宿を予約していたので別行動に。
俺とサブ、ユウは、貧乏だったこともあり、一番安い宿屋に三人で雑魚寝。
実際はレッサードラゴンに懸けられていた百万ジェニーを受け取っていたのでもう少し贅沢できたのだが、貧乏性からはそんなにすぐには抜け出せない。
ユウまで一緒だということに、ミコーズのオリジナルメンバーからは驚かれたが、
「大丈夫、万一変なことされそうになったら、町の外まで強制転送しちゃうから」
という彼女の言葉に、みんな笑って納得していた。
翌朝。
この日も穏やかな晴天だった。
俺達八人が目指すのは、トゥムロの港街。
イフカの船着き場に止めてあった小型船にそれぞれ乗りこむ。
余り大きな船ではなく、八人が座ると満席だ。
船の後部に、我々の世界で言うところの『船外機』のような魔道具が設置されていた。
その動力源、つまり燃料の代わりとなるのが、水晶のような形の『魔核』だ。
今回、俺達がレッサードラゴンを倒して手に入れた『魔核』を、船の持ち主であるリンが十万ジェニーで買い取ってくれた。
本来、レッサードラゴンの魔核は品質はあまり良くなく、それでいてムダにでかいため用途が限られ、入手の困難さの割にあまり高値が付かないのだが、こういう船の燃料にするにはもってこいだと、相場よりちょっと高く買い取ってくれたのだ。
こうして俺達八人を乗せた小型船は、港街トゥムロへ向けて出発した。
ここで装備を調え、難攻不落と噂される『鬼ヶ島』へと向かう事になっている。
俺とユウ、サブの三人は、このメンバーであればどんな強敵であっても余裕で倒せるのではないか、と正直タカをくくっていた。
そして、現実世界に戻れる日も、そんなに遠くないのではないか、と。
それが……帰りの船では一人欠け、失意の結果となってしまうことなど、この時点では想像すらできていなかった――。