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猛攻

「あの……みなさん、どうしたんですか?」


 俺と優、そして四人の少女達が固まっていることに、ギルド受付のヤエが不思議そうに尋ねた。


「いえ、ちょっと……何か、以前から知っている方たちの様な気がして……それも、かなり親しかったような……」


 レベルの高そうな、恐らく治癒能力者(ヒーラー)と思われる、神官の装備をした女性がそう話し、他の三人の娘達も頷いた。


「……あなたたちも、そんな風に感じたの? 私の場合、この男の子にだけだったけど……」


 と、ミツはサブの事を右手で紹介した。


「……私達は、こちらのお二人に、です……初めまして、私は『フロンティア・ミコーズ』の『ハル』っていいます……でも、どこかでお会いしてましたよね……」


 まだあどけなさの残る可愛らしい顔の、しかし、高いレベルの魔術師っぽい格好の少女がそう自己紹介した。


「いや……俺達、会ったの初めてのはずなんだ。だって、一週間前にこの世界にやってきたばっかりだから……でも、確かに会った事がある気がする……あ、俺は『タク』です、よろしく」


 俺はそう自分の名前を名乗った。


「私は、ユウ。私も、皆さんと会ったことが……ううん、一緒に長い時間を過ごしたことがあるような気がします……ひょっとしたら、前世かも」


 と、彼女は少し涙ぐみながら笑って話した。


 ユウがいう『前世』が、この世界に飛ばされてくる前の現実世界の事なのか、あるいは、もっと何百年も以前の、それこそ生まれてくる前の意味で言っているのかは分からないが、それほど不思議な体験だったということだろう。


 続いて、サブが自己紹介し、その後、残りの三人も自分達の名を名乗った。


『リン』、レベル46の治癒神官。十九歳と言うことだから、俺達の一つ年上。

 ちょっと怪しい大人の色気を纏った美女だ。


『ナツ』、レベル45。戦士系の上位職業である『(さむらい)』で、今は軽装備、剣道の道着を纏ったような感じで、ボーイッシュながら凛とした、18歳の美少女だ。


『ユキ』、レベル43。子供っぽい顔つきながら、ハイレベルの妖術師だという。火炎や雷撃系の攻撃魔法が大得意な、16歳の、ナツとはまた違った雰囲気の美少女。


 最後に、『ハル』がもう一度自己紹介。レベル43の『魔呪力付与師』で、探索中や戦闘中にパーティー全員の能力値を上げる能力を持っている。ユキとは双子で、顔がそっくりだ。


 驚いたことに、全員『種族』が『天女』となっていた。


 もともとは人間だったらしいが、事情があって天界に預けられ、そこで修行を積み重ねて『天女』の称号と、高いレベルを修得できたのだという。


 全員、初対面であるにもかかわらず、妙に打ち解けて……お互いにステータスを見せ合い、驚きの声を上げていた。


「へえ、ユウ、『瞬時空間移転能力(テレポーター)』なんて力、持っているんだ……ねえ、ちょっと見せてもらえないかしら」


 治癒神官のリンが、興味津々といった様子でユウに声をかけた。


「あ、はい、いいですよ。じゃあ……今から、タクを『イフカ平原』に飛ばしますね」


 と、右手を俺にかざしてきて……。


「なっ、ちょ、ちょっと待……」


 ――次の瞬間、俺はたった一人、数時間前にレッサードラゴンと戦った平原に、ぽつんと立っていた。


「……やられた……ま、いいけど。すぐに迎えに来てくれるか」


 ふう、とため息を一つついて、空を見上げた。


 このイフカ平原は、俺達が倒した『レッサードラゴン』を除いて、強敵が出現することはない。


 出現する敵はレベル1以下。15になった俺が遅れを取ることはない。

 そういう意味では安心なのだが……ユウの突発的な行動には、いつもハラハラさせられる。


 ぼんやりと雲を眺めながら、さっきの四人の美少女達とどこかで出会ったことがないか考えていたのだが、どうしても思い出せなかった。


「……遅いな……ひょっとして、俺、放って置かれてる?」


 そんな風に独りごちた頃、ふっと、目の前にユウが出現した。


「ごめん、遅くなっちゃった」


「まったくだよ……何してたんだ?」


「えっと、タクが消えた瞬間、みんな『おーっ!』ってなって……で、今度はサブの能力も見てみたいっていう話になって。でも、あの事務所じゃいまいちはっきり分からないから、っていうことで裏庭に回って、そこで彼が岩や木の一部をえぐり取って、で、次に左手でそれを元に戻して……みんな、相当驚いていたわ」


「なるほど、あいつの『強制空間削除能力(イレイザー)』はえげつないからな……」


「うん、私の能力よりも興味持っているみたいだった。なので、ちょっとタクのこと迎えに行ってくるって言い残して、ここにやってきたの」


「そうか……やっぱり放って置かれたか……」


「ちがうって、ちゃんと迎えに来たじゃない。そんなに怒らないで……」


「いや、怒ってなくて……ちょっと呆れてるんだよ」


「やっぱり? ごめん……」


「まあ、いいけどな……」


 ユウに神妙に謝られると、ついドキッとして許してしまう。


「でも、あの娘達……ちょっと驚いたな。本当に慣れ親しんだ人と再会したような気分になった」


「私も、同じ……これって、なんなのかな……」


「俺達は時空を超えて来たんだ……そこでなにか、変な干渉があったのかもな」


「そうね……って、そろそろ戻らなくちゃ。心配……はされていないと思うけど」


「ああ……じゃあ、頼む」


「うん」


 今度は、ユウは左手で俺に触れてきた。

 途端、ふっと目の前に先程の少女達が出現した……いや、正確には俺の方が、彼女たちの前に現れたのだが。


「おー、帰ってきた!」

 と、歓声があがる。


 その場所をほんの少し空けてやると、次にユウも帰ってきた。


「ねえ、その能力で、私達のことも転送できるの?」


 イタズラっぽい笑顔で、ユキが尋ねてきた。


「ええ、出来るわよ。じゃあ……皆さん、イフカ平原に転送しましょうか?」


 とユウが提案すると、全員、なんの警戒もなくその誘いを了承した。

 彼女が触れる度、次々に姿を消していく少女達。


 受付のヤエは、

「私も体験してみたいなあ……」

 と言っていたが、彼女だけは仕事があるからそういうわけにはいかなかった。


 こうして、そこにいたメンバーが次々に姿を消し、俺も転送されて、最後にユウが平原に出現。合計八人が、その場に集結した。


「じゃあ……最後に、タク、貴殿の能力を拝見するとしようか」


 ちょっと男っぽい口調で、ボーイッシュなナツが俺に声をかけてきた。


「ああ、構わないけど……えっと、何を固定しようか……」


 と、それを聞いて忍のミツがなにやらウインドウを操作して、毛布を出現させた。


「……これは単なる毛布よ、なんの魔力もかけていないわ。これを固定させること、できるかしら」


 俺はそれを受け取り、


「ああ……片手で持てる程度の重さなら、固定させることができる。広げた状態の方がいいんだね?」


「そうね。その方が分かりやすいわ」


 ということで、俺は勢いよくそれを空中で広げ、そして固定した。


「「「おおおっー!」」」


 また歓声があがる。


「もうこれで完全固定された。俺が解除しない限り、何があってもこいつは移動させられないし、破壊することもできない」


「ふうん……絶対に、なんだな……」


 ナツが笑みを浮かべる。


「気を付けて、直接攻撃は絶対に駄目よ。私、固定された羽根ペンを切ろうとして、ニア・ミスリルのショートソード+2、折れちゃったから」


「ニア・ミスリルの+2が? ……わかった、斬撃だけにする」


 ナツは毛布から十メートルほど距離を取った。


「真・演斬剣ドゥ・リアンっ!」


 ズシャアアアァ、という空を切る音波と共に、目に見えるすさまじい斬撃が毛布に向かって突き進み、直撃し、そして破裂した。


「……むっ……変化なしか……」


 土埃がはけた後も、毛布に変わったところはない。


「私もやるっ! 」


 今度はユキが一歩前に出た。


跳躍破裂炎兎弾ヴァースト・ラビット!」


 跳躍する火炎弾を放つユキだが、命中したにもかかわらず、やはり何一つ変化が無い。


「私も参加しますっ! 十回魔術付与桜(プロセス)っ!」


 ハルの魔法により、ナツの剣とユキの杖に赤いエフェクトが発生する。


「よし……延長槍炎(ロング・ソウ)!」

「まかせて……火炎回流火炎龍(ディープローテーション)!」

「ちい、まだ駄目か……ええい、飛空炎舞剣(フラウィングフレイム)!」


 すさまじい剣劇と火炎、爆撃が毛布を襲う。


「うわあぁ!」

「きゃあああぁ!」


 そのあまりの迫力に、十分な距離を取っていた俺達だったが、立っていられないほどの突風を受けていた。


「……ごめんなさいね、あの子たち、ああいう『自分達の力の及ばぬもの』に対して、すごくムキになるの……」


 ちょっと大人のリンが、俺達の側にやってきてそう囁いた。


「ムキに……どうして?」


「私達が、『天女』だから……」


「それって、どういう……」


「『天女』は、天から与えられた試練を、期限内に達成できないと、その力を奪われてしまうの。今、受けている試練が、いわゆる『鬼ヶ島』の攻略……それが思うように進んでいなくて、焦っているのよ」


「そ、そうなんだ……でも、力を奪われるって、どうなるんだ?」


 ナツ、ユキ、ハルのすさまじい猛攻に目を奪われながら、俺はそう尋ねた。


「まるっきり、普通の女の子以下になる……なんの身よりもないあの子達、そうなると生きていけないかも……まあ、身売りでもすれば何とか凌げるかもしれませんけど」


「み、身売り? あんなに強いのに……」


「さっきも言いましたよね? 全ての力を奪われるって……多分、貴方達と私達が出会えたのは、天がくれた最後のチャンス。なんとしても『鬼ヶ島』、攻略しないと……」


「その、鬼ヶ島って、どういう所なんですか?」


 ユウが不安げに尋ねた。


「昔の鉱山の跡地に、強力な妖魔が湧出するゲートができたの。離れ小島である故に、そのことに気付くのが遅れて、今では数千もの妖鬼が出没する難攻不落の城と化した。坑道だから内部は細く、複雑な地形となっていて攻略は難しいと思ってたけど、空間を削り取ったり、固定できる貴方達がいれば……」


「……なるほど……そういう事ならば納得出来る……」


 と、その時。


「げっ! あの毛布の下、地面がえぐれてきているぞ!」


 サブの、驚いたような、呆れたような大声に、また俺は彼女達のすさまじい連続攻撃に見入ったのだった。


※評価やブクマ登録、感想等を頂けますと、ヒロイン一同と共に大喜びいたしますm(_ _)m。

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