討伐報告
ステ振りを終えた三人は、イフカの町へと戻って、軽く昼食を食べた後、さっそくギルド支部へと報告に出向いた。
あまり人通りの多くない商店街の、一番端にある小さな建物。
看板には、『アルン冒険者ギルド イフカ支部』と大きく文字が書かれているが、その下に『イフカ商工ギルドへの斡旋・ご紹介受付いたします』の文字も追記されている。さらにその下には小さく『日雇い仕事の仲介も致します』の文字も。
ようするに、この町のさまざまな仲介・斡旋を引き受ける窓口なのだ。
とはいっても、人口二千人にも満たない小さなこの町で、どれだけの需要があるのか疑問だが。
俺達が扉を開けて建物の中に入ると、
「いらっしゃいませー! あ、皆さん、また来られたのですね」
と笑顔を返してくれる少女が一人。このギルドの受付嬢、『ヤエ』十五歳だ。
「ああ、また来るって言ってただろう?」
「はい、確かにそうですが……ここの冒険者ギルドに登録した人は、『効率が悪すぎる』って言って、ほぼ全員別の町に行ってしまいますから……」
ここで登録するのは、ほとんどがこの街で生まれ育ち、冒険者として登録できる十六歳を迎えた者だという。そうでなければ、こんな田舎の町に冒険者登録したりしないのだろう。
「俺達は約束を守るよ。ちょうど目標もあったし」
と、俺はバックパックから大きな角を取り出した。
「……えっ、これって……まさかっ!」
不思議そうにその角を眺めていたヤエだったが、みるみる表情が変わっていく。
「こ、これ……『レッサードラゴン』の角じゃないですか! どうやって手に入れたんですか!」
驚愕の声を上げるヤエに、俺もユウもサブも、人差し指を自分の唇にあて、静かにするようにジェスチャーを送った。
「あ、いえ、今日ここは私一人ですし、他にお客さんもいないから大丈夫ですよ……でも、本当にそれ、どうしたんですか」
ヤエは声のトーンを落として、なお驚愕の表情を見せていた。
「俺達が倒したんだよ」
「……え? ……皆さん、レベル1ですよね?」
ヤエのその質問に、俺達三人は顔を見合わせて笑うと、一斉にステータスウインドウを広げ、レベルのみを他者が見える状態にした。
「……じゅ……じゅうごっ!……うそ、だってこの前見たときは確かに1だったのに……」
ヤエは両手を口に当て、目は見開き……信じられないものを見てしまった、という表情だ。
「ああ、レッサードラゴンを一匹倒しただけで、みんなこれだけ上がった」
「でも、だって……あのドラゴンをレベル1の方が、たった三人で倒すなんて……あ、ひょっとして、他に協力者がいたんですか?」
「いや、俺達三人だけだぜ」
サブが得意げにそう話す。
「そんな……不可能です、あり得ないです……普通の人間に、そんなこと……」
彼女のあまりの驚きように、なんだか可哀想に思えてきた。
「……ごめん、ヤエ。黙ってたけど、俺達、普通じゃないんだ……」
俺はユウ、サブに目配せして、そして三人同時に全ステータスをヤエに開示した。
「種族……い、異世界人!? な、なんですかそれ、そんなの初めて見ました! あと……独自特殊能力!?」
ヤエは半ばパニックに陥っているようだった。
俺達は、とりあえず彼女に落ち着くように言って、そしてこれまでの経緯を説明した。
元々は、全く別世界の人間だったこと。
事故でその世界に居られなくなり、少女の姿をした神の力によってこの地に転移させられたこと。
その際、三人にそれぞれ『神の手』の能力を授かったこと。
そしてさらに、元の世界に帰るためには、『災厄の闇神』と呼ばれる妖魔を倒さねばならぬこと。
「ちょ、ちょっと待ってください! 皆さんのお話は本当なのでしょうか……『災厄の闇神』は妖魔ではありません、この世界に古代より存在すると言われる、れっきとした神様です!」
「神……じゃあ、倒す事なんかできないのか?」
「はい、無理だと思います。それに、現在、封印されているはずなのですから、戦う事自体が無意味です……それに、万が一にでも本当に倒されたりしたら困ります……」
「困る? …ヤエちゃん、どうしてそれで困ることになるの?」
ユウが優しくそう質問したときに、建物入り口の扉が開き、新たな客……ごく軽装備の女性冒険者が入ってきた。
「……なかなか面白そうなお話ね。私も混ぜてもらって良いかしら」
どこから話を聞かれていたのかは分からないが、俺達の素性がいきなり第三者にばれてしまった。
「……そんな顔しないで。貴方達にも、うかつに大きな声でしゃべっていたっていう非はあるんですから……でも、今のままじゃ不公平ですね。私のステータスも、皆さんにお見せしますね」
そう言って、彼女は自分のステータスを我々に開示した。
「「「「レベル……よんじゅうはち!?」」」」
俺とユウ、サブ、そしてヤエの四人の声が、見事に重なってしまった。