帰らない子供達 誠史郎のある日のオフ 渋谷
「ん~ダルい。ネクタイ1本に時間かけすぎたわ~」
すっかり陽の落ちた渋谷の街を誠史郎がいつものようにペタペタ歩く。
道玄坂通りに座り込んでいる少女を見つける。
誠史郎は口にタバコをくわえたまま少女に近づく。
「やあ。君、中学生だよね。帰らないの?」
「ふん。補導員かよ」
ダルそうな口調で誠史郎を見上げる。
「こんな銜えタバコの補導員なんているのかなあ?」
そう言って少女の隣に座り込む。
少女は苦笑いする。
「学校は行ってる?」
「んーまあまあかな。結構まじめだよ?」
少女が笑う。
誠史郎がさもありなんという感じで飄々と少女に問いかける。
「でも家には帰らないんだ。今日は友達の家空いてなかったの?」
少女はつぶやく。
「ふふっ。面白いねおじさん。そう。今日は誰も空いてない」
「だからここしかないかなあ・・・」
少女の目は遠い。
「・・・おじさんかぁ。もうちょっと若いと思ったんだけどなあ~。
まあ中学生はある意味囚人だから大変だね。
いきなり大人扱いもされ、でもまだ子供扱いもされ、
中途半端な立ち位置に立たされ、しかも自由になる金銭もない」
「大人の階段を歩かされる家畜かな?」
くっくっく。少女が笑う。
「んー。エンコーならできるよ」
「そしたら補導だよ」
誠史郎が2本目のタバコに火をつける。
「ねえ、おじさん。何持ってんの?」
「ん、ネクタイ」
「それで死んでもいいかな」
ポツリと少女が言う。
「ほう人生放棄してるね?」
「だって何もないじゃんアタシ」
「金も無いし、寝るところも無い、必要としてくれる人もいない」
「あるのは命だけ?ご両親は?」
「アタシに興味なんてないよ。いつも夫婦ゲンカばっか」
「よーし。じゃあ僕がナンパしちゃおうかな?」
「は?」
タバコを携帯灰皿に押し込み、誠史郎が立ち上がる。
少女の手をしっかり握って。
「レッツゴー児童保護施設だよ。後日カウンセリングもいいね。親のサイフを拝借して」
少女はポカンとして、握られた手に力を入れる。
「あはは。やっぱおじさん、ちょっと面白いね」
「おじさんじゃなくてお兄さんね。ちゃんと言うこと聞けよ?」
「あはは。お兄さんか」
二人で小走りに近くの相談センターを探す。走りながら誠史郎が言う。
「学校、もう少し日数行けよー」
「なんだ。やっぱセンコー?」
「もっとカッコイイ仕事~」
「あははははは」
「おにーさん。サイコーだわ」
渋谷の街を走る凸凹コンビがその日いたなんて事。
北斗は知らない。