op1-3
近くの救急病院はかなりの人であふれていた。
ホワイトボードが複数置かれ、何やらいろいろな文字が殴り書きされていた。
トリアージが行われているのだろう。
ここまでナノマシン医療が普及した時代だ。
それをいきなり奪われることで影響を受ける人はとてつもない数になることは当然のことである。
ましてや、ナノマシンが利用される対象の病気は命にかかわるものが総じて多い。
ナノマシンを体内に入れるというリスクと釣り合うようなメリットがなければ用いる理由がないからだ。
体に好き好んで得体のしれない物体を入れるというものはいない。
いれば相当の変わり者だろう。
そんなわけで重病患者、とりわけナノマシンを用いるのが旧来の治療よりもリスクが少ない場合にのみ用いられる。
結衣の場合もそのケースの一つである。
現場では様々な声が飛び交い、ストレッチャーが動き回っている。
足りない人材のなかから一部の人間がさらに入ってくるだろう救急に備えて待機していた。
看護師だろう恰好をした女性だ。
その人に声をかける。
こちらに気付いたようで駆け足でこちらに来た。
「急に調子がおかしくなったんです。脈はありますがかなり弱いです。心臓に持病を持っていますが、ナノマシンにより治療ができていました」
「そのような患者さんばかりです、とりあえずこちらに」
その指示に従ってストレッチャーに乗せる。
残り数少ない救急用の資材を用意し、結衣に看護師はなれた手つきで取り付ける。
バイタルが一時経って表示される。
その数値は深刻さを示す数字でしかなかった。
先ほどよりもひどいチアノーゼを起こしている。
血圧、脈拍、血中酸素濃度とも最悪だ。
看護師の顔色も心なしか悪くなっている。
ここにいる人のほとんどが同じような状況であることは想像に難くない。
が、その表情を見るととりわけその中でもひどいらしい。
「先生を呼んできます」
そういって駆け足で医者を探しに行く、その姿が消えるまで目で追う。
後ろからけたたましい音が鳴った。
嘘だろ、そう思って振り向くと結衣のバイタルを表示する機械が警報を鳴らしている。
頭の中が真っ白になり、膝から崩れ落ちた。




