op1-2
力なく倒れた結衣はとても息苦しくしている。
持病を持っていたとは記憶していたが、最新遠隔クラウド最適化プログラム型ナノマシンを用いられた補助具によって日常生活には何ら支障をきたさないようになっていたはずだ。
むしろ、ナノマシンとの親和性も高く普通の健常者よりも健康かつ運動に秀でいた。
それなのにここまで苦しんでいる。
呼吸器系の疾患だった。
心筋症の類だったはずだ。
一昔前までは、薬物治療や移植手術を行うことが主流だったが、医療用ナノマシンデバイスとネットワーク技術の進歩によりこのような治療法が主に用いられるようになった。
常にプログラムも最適化されるため、メンテナンスのために使用者が何かしなければならないということはない。
そして、クラウドコンピューティング技術により極小化されたデバイスはさらに小さくすることが可能となり、社会に広く受け入れられていた。
「おい、大丈夫か!?」
「…………、――うぅ」
脈が規則的に動いていない。
呼吸も乱れている。
間違いなく、ナノマシンの不調による体調の変化であることに疑いはなかった。
結衣を抱え上げ歩道の端により、救急に電話をかける。
だがつながらない。
「くそっ」
そう吐き捨てたときに目に映った光景はまるで地獄のようであった。
周りのあちこちで同じようなことが起きていたのだ。
一瞬、サイバーテロの文字が頭によぎるが、普通なら暗号化技術の発達によりそのようなことはまず起こりえない。
起こせない。
普通なら。
しかし、この状況は故意でかつ大きな力が背景にあれば起こすことしかできるだろう。
カバンの中の端末を取り出して、電話回線に強制割り込みをかけ、救急につなぐがつながらない。
つながらないように細工されているのかそれとも割り込みできないほどの救急への電話がつながっているかだ。
その思考にいたると同時に苦しそうな結衣を抱え上げ走っていた。
脈もかなり弱くなっている。
本来ならナノマシンの安全装置により緊急維持機能が作用するはずであるからこのようになるはずはない。
少なくとも緊急を要するような状態になることはない。
近くに救急病院があったはずだ。
走って十分程度。
抱えた状態で走っても十五分。
その程度ならつながりもしない救急車を待っているよりずいぶんましだ。
とりあえず病院に連れて行くしかない。
この状況では混雑し、トリアージで厳しい選択を医師は迫られていることだろう。
「意識を持ち続けろ、いいな」
「…………」
聞いているかもわからないような状態だが何も言わずには言われない。
何かしら声をかけ続けることが今できる最善のことだ。
この状況をすべて解決する手段は思いつくが、もうしないと決心している。
いや、決心以前に今ではできない。
それを実行するとともに、思い出される記憶で冷や汗が流れ、手の震えも止まらず何もできなくなるだろう。
脳の芯を電撃が突き刺すような感覚に襲われ、眩暈と吐き気に襲われ何とも言えない死よりも苦しい発作が起きる。
今の俺にできることはわき目も振らず、心臓が破裂し、肺が裏返って口から飛び出すほど限界に近い速さで結衣を病院に連れて行くことだけだった。
そうなんども言い聞かせて、地を駆けた。




