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op1-1

 食パンを片手にエンターキーを叩く。

「完了っと」

 今日の日課を終えて席を立った。

 自宅のネットワークのセキュリティの保守管理とアルバイトのプログラムの今日の割り当てだ。

 企業のサイト管理の方が分はいいだろうが、何分学生という身分である以上、学業はおろそかにできない。

 そのような仕事は時間が命である。

 自体が起きたときに学校でのんびり授業でも受けていて気付かずにことがおきたら、信用は地に落ちる。

 制服に着替え、タイを締め一通りの身だしなみをチェックする。

 そこまで気を使う方ではないが、それをみて不快に思う人間がいては問題だ。

 なによりあいつに毎回節介を焼かれるのも癪だ。

 俺の沽券に係わる。

「いってきます」

 その一言に返ってくる言葉はなく、玄関の二重ロックの扉の黒々とした塗料に声が吸い込まれる。

 俺以外の誰も住んでいない家であっても身についた癖というものはそうそう離れるものではない。

 あれ以来、俺に家族と呼べる人間はいなくなった。

 家族であり続けられるのは到底無理な話だっただろう。

 どんなに寛容で人格者であったとしても俺をさける以外のことはできないだろう。

 出て行けと言われることはなかったが、無言にてそれを語る方が逆に効力を持つ、そういうものだ。

 幸い情報関係には手に職が就いていたので、一人でやっていく分には十分に過ぎるほどの収入はある。

 いくら拒んでも振り込まれ続けられる家族からの仕送りもある。

 なにかしらの罪悪感を感じているのだろう。

 それで許されようと考えているのかと思うと癪であるが、それで心が落ち着くのなら喜んで受入れよう。

 なにより金はあってこまることはない。

 そんなこんなで俺は一人で暮らすことになった。

 そうしないようにすることもできたかもしれない。

 だが仕方なかった、いや仕方なくはなかったのかもしれないが、俺にはそうすることしかできなかった。

 カバンを肩にかけてエレベーターに乗りながら、携帯電話を見るとメールが一件ある。

 案の定だ。

 送り主は鷺沢結衣。

 無題、入り口で待ってる。早くして。

 いつもと数分違いのタイミングで送ってこられるメールにはうざったるくも愛着が湧く。

 人との付き合いが乏しいからかもしれない。

 エレベーターが一階におり、その姿を確認してあたかも急いでいるかのように駆け足で向かう。

「遅い」

「すまん」

「数学の宿題終わった? あれわけわからないんだけど、解析学っての」

「そうか? そうでもないだろ。やってみりゃ意外に面白いもんだぜ。教えてやろうか」

「あんたに教わるくらいなら、う~ん靴の裏をなめる方がましよ」

 テスト前にはきっと泣きついてくることになるだろう。

 そんな会話をしながら学校までの道のりを辿る。

 遅刻しないようペースを合わせるため端末の画面をみる。

 すると、いきなり電波強度がゼロになったという表示がなされる。

 目を疑わずにはいられない。

 この端末は少々仕込みをしているので電波を拾えないということはまずない。

 その原因を突き止めようと端末を操作しているととなりでどさっという音がした。

「お、おい、結衣大丈夫か?」


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