表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/44

半年後……

 



「飛んで行けっ!」


 数秒の鍔迫り合いの末、俺は何とかアリスを吹き飛ばすことに成功した。


「強すぎるだろうが!」

「何言ってるんですか! これに対応している八雲さんも相当強いですよ!」


 “迅速”を発動させたまま地面を蹴り、アリスに詰め寄る。

 刀を振り下ろすが、その瞬間彼女の姿がぶれた。振り下ろされた刀は空を斬り、その斬撃による衝撃波は地面を抉る。


「こっちです!」

 

 掛け声と共にアリスが後方から攻撃を仕掛けてくる。

 やはりとんでもないスピードだ。化け物かっての。化け物だな、うん。


「“聖壁”」


 魔法陣をこぶし大の大きさにして飛びかかってくるアリスの目の前、即ち顔面が来るであろう軌道上に発動させた。


「へぶっ! いったぁ~い! 乙女の顔に何するんですか!」

「知るか! 今は戦闘中なんだろ? なら仕方ない、俺は悪くない」


 壁に阻まれたアリスはすぐにそれを切り裂いて俺に接近してくる。


 少しでも時間稼ぎが出来たことに安堵しつつ、刀をアリスに向けて剣戟に備える。


「それはそうですけど~。でも発動させるなら普通剣の軌道上じゃないですか!」

「お前はすぐに切り裂いてくるじゃねえかよ! だったら直接当てないと駄目だろうが!」

「それはそれ、これはこれです~」


 そんな会話をしながらも、アリスはその斬撃を止めてくれない。

 それをギリギリで躱し、あるいは刀で防ぐ。防戦一方だ。


 刀と剣が甲高い音を立ててぶつかり合う度に『んっ』という艶めかしい声がする。

 すごく集中できない……。

 というか一撃一撃が重すぎる! この華奢な体のどこにそんな力があるんだよ!


「ずるいだろうがそんな能力! なんだよ聖属性を切り裂く能力って!」

「でも、ステータスは八雲さんの方が上じゃないですか!」

「とは言っても、防戦一方なんだが?」

「……経験の差ですね」

「やっぱりそういうことだよなあ……」


 アリスは基本的に魔法を使わない。使うのはほとんど身体強化くらいだ。

 しかし、それを補うかのように優れた戦闘センスを持ち合わせた彼女は俺と相性が悪い。


 俺は魔法を使って相手を攪乱させながら戦う方が得意なのだ。

 魔法による小技の応酬を基本として戦うため、近接バカには苦戦を強いられるばかりである。


「そろそろ限界でしょう? 降参してもいいんですよ?」 

「ハッ、言ってくれるなあ。お前が降参したらどうだ?」

「ふふふ。面白い冗談ですね……」

「ははは、そっちこそ……」


「「俺(私)が勝つ(勝ちます)!!」」


 アリスはさらにスピードを上げ、剣の威力も増した。

 しかし、未だ気づいていないようだ。アリスのスピードに何とか食いつき、誘導する。


「“獄炎”!」

 

 至近距離で魔属性魔法である“獄炎”を発動。赤黒い魔法陣から黒の炎が飛び出し、アリスへと向かう。

 この魔法は何かに触れると即座に爆発するという仕組みだ。


 ちなみに俺のオリジナル。使用時によってパターンを組み替えることもできる。

 例えば某忍者漫画のように全てを焼き尽くす、みたいな。魔法で相殺されちゃうけど。


 アリスもこれまでの模擬戦でその威力を知っているので空中に逃げた。

 だが、まだ甘い。“魔力操作”で“獄炎”を操作してアリスを追わせる。


「毎回毎回面倒な魔法ですね!」


 何を言うか! いつも無力化するくせに、このチートめ! 


「“聖域”!」


 アリスは四角い光の箱に“獄炎”を閉じ込め、その中で爆発させた。

 “聖域”には傷一つ付いていない。かなり魔力を凝縮させて作ったようだ。


「くそっ、これもダメなのか!」

「ふふふ、私強いですから」

 

 ドヤ顔うぜえ……。強いっていうか理不尽だろうが!

 初代勇者は侮れないな。基本アリスは魔法を使わないと言ったが、使えないわけじゃないのだ。

 彼女曰く「自分の身体のほうが信用できる」とのことだ。


 戦闘に関しては何をやらせても天才的。生活に関してはほとんど何もできない。

 それは一人の女としてどうなのだろうか? それは後で考えよう。


「今度は私のターンです!」

「いやいや、ターン制じゃねえから!」 


 そういえば、ポケ〇ンのアニメってずるいよなあ……。避ける指示とか出せるし、ターンも関係ない。

 アニメを見てからゲームを買ったんだが、若干六歳だった俺は落胆したよ……。

 まあ何だかんだ言って全シリーズやりこんでたけど。


「どこを見ているんですか! 戦闘中は私を見てください!」

「なんだ? 告白か? 俺はいつでもウェルカムなんだが」

「なな、なにを!? もう! 食らっちゃってください!」

 

 過去を懐かしむことの何が悪いんだ? 

 そう思いながら茶化すとアリスは怒りで顔を真っ赤にして大きな光の球を作り出した。


 まるで元〇玉じゃないか。人の技をパクるんじゃない! 

 困るでしょうが! 著作権とかで。え? 俺? 俺のはリスペクトであってパクリじゃない。たぶん。


「“聖光球”!」


 アリスの放った魔法はどんどん大きさを増しながら迫ってきた。

 聖属性を相殺させるために指に魔属性の魔力を込めて、刀身に指を這わせて呟く。


「妖刀ムラサメよ。我が魔力を吸い、その力を我に使役させたまえ」 


 一気に魔力が吸い取られる感覚がすると、ムラサメはその刀身に赤黒く禍々しい妖気を纏わせた。

 ムラサメは使用者の魔力を大量に吸収して、妖気に変換する性質を持っている。


 妖気は魔力に直接干渉できるもので、魔力とは別なのだ。

 聖属性と魔属性を戦わせれば、それらが相殺し合うのはなんとなくわかるだろう。


 しかし、妖気はそうではない。潰しあうのではなく、干渉するのだ。

 例えば、刃物が妖気を纏えばその刃は魔力を斬る。

 もし使うのがハンマーなどの鈍器であれば、魔力を殴り飛ばすことができる、といった具合だ。


「切り裂け、“聖滅斬”!」


 ムラサメを振り下ろすとともに赤黒い妖気が斬撃となって飛んでいき、光球を両断する。


 二つに分かれた光球はそれぞれ俺の両脇を通って、後方にあった大岩を爆発音とともに粉々にした。

 あれまともに食らったら洒落にならんぞ……。 


「それは予想済みです! 貰いました!」

 

 アリスが斬撃を避けて、音速とも言えるようなスピードで接近してきた。

 だから俺は————満面の笑みを浮かべて口を開いた。


「かかったな、アリス。“重圧”」

 

 その言葉を言い放つと、アリスの軌道上の地面に広域の魔法陣が現れて、アリスは地に落ちた。

 残念ながら地面とキスはできなかったらしい。非常に残念だ。


「へ!? ななな、なんですこれ!!」

「奥の手は取っておくもんだぜ? アリス、お前の負けだ」

 

 ムラサメをアリスの首に添えた。

 アリスは悔しかったらしく、「うう~」と唸っている。


「勝負あったの。アリスの負け、八雲の勝ちじゃ」

「うう~。なんなんですかこれ! 解除してください~」


 アリスは未だ地に這いつくばったままなのが不服らしく、解除を要求してきた。


「あ~。それ時間経たねえと消えない仕組みなんだよね。魔力送ってるわけじゃないし」

「ええ! ズルしたんですか!」

「なにを言う。武器を使用してる時点で他の道具の持ち込みを許可してるようなもんだろうが」

「詭弁ですぅ。ズルですぅ~」

「バッカお前。普通にやりあって勝てないからこその知恵だ。弱者の特権だ」

「ふむ。お主も相当強いんじゃがなあ……」


 アリスは抗議するが、そんなこと俺には関係ない。

 アリスとまともに闘ったら善戦して普通に負けるのがオチだ。

 これは正当なものだと思う。信じてる。


「んじゃまあ、ネタバレくらいはしておくよ」


 この魔法は一定の範囲内において膨大な重力を発生させるものだ。

 しかし、この魔法は大量の魔力を凝縮させる必要があるため、戦闘中には使えない。

 

 だから俺は、昨夜凝縮した魔力を込めた紙を戦闘中に設置しておいた。勿論隠ぺいの術式を掛けて、だが。

 正直、“聖壁”が時間稼ぎにもならなかったら今回も負けていただろう。


 それを全て伝えると、アリスと竜王はポカンとしていた。

 

「お主、このアリスを相手に誘導しながら闘っておったのか!?」

「負けたのが当たり前のような気がしてきました……」

「ま、知恵の勝利だな。次からは勝てないと思うが」

『いいじゃないの主人。初勝利なんだからもっと喜びなさいよ』


 お気づきだろうか? 知らない声が聞こえることに……。

 声は俺の手元から発せられている。


 そう、ムラサメだ。実はこいつ、自我を持っている。

 伝説とも言われた刀匠の最後の作品、それが『妖刀ムラサメ』なのだ。


 その刀匠はヤンデレ女に殺された。理由は浮気。しかも、その場で女も自殺。バッドエンドだな……。


 殺される直前に出来上がったムラサメには本来自我などないはずだった。

 しかし、ヤンデレ女の怨念が強く、その影響を受けて自我が発現してしまった、というわけだ。


 その時呪いの力が付与されたため、ムラサメは俺に他の武器を装備させてくれない。

 特例として魔神ノアのナイフは使えるが、それ以外となるとムラサメはヤンデレモードに突入する。


 竜王がムラサメをくれたのだが、理由はムラサメ曰く『波長が合うから』らしい。

 何が悲しくてヤンデレと同じ波長を持たなければいけないのか……。


 しかも、何が悪かったのかムラサメは変態に目覚めている。

 曰く、『ぶつかり合う瞬間の衝撃が快感』とのことだ。俺にはわからない世界だぜ……。


「ムラサメ、戦闘中に艶めかしい声をだすな! 集中できない!」

『それくらいいいじゃない。それと、魔力美味しかったわよ』 

「ああ、そうですか……。まあ、助かったよ。お前のおかげで」


 このままムラサメに注意しても暖簾に腕押し状態なので、話を打ち切って感謝を述べる。

 一応、ムラサメがいなかったらあの魔法は防げなかっただろうし……。


『ねえねえアリスちゃん! これがデレってやつ? ツンデレ?』

「そうですね! 多分ツンデレですよ!」

 

 いつの間にか“重圧”が解けていたらしく、立ちあがったアリスはムラサメとくだらない会話をし始めた。

 こいつら、妙に仲がいい。ちょっと疎外感。


「って誰がツンデレだコラ」

「え? だっていつも冷たいのにたまに優しいじゃないですか。ねえ、ムラサメさん?」

『そうそう。主人はよくわかんないよ。頭の中が』

「お前らの方がわかんねえよ!!」


 ヤンデレとアホの子が何を言うんだ全く。

 アリスなんて一週間に一度は下着姿で起きてくるしな。毎回手をすり合わせて拝んでるけど。

 でも、その度に聖剣を投げてくるので死の危険と隣り合わせの幸せだ。


「お主たちを見てると退屈しないのお」

「こっちは大変だよ!」

「楽しそうで良いではないか」


 竜王の目はどうやら腐っているらしい。

 こいつの修行も大変だったなあ……。


『どうしたんじゃ? もっと魔法を使ってこんか』

『てめえが使わせてくれないんだろうが……』

『そういう訓練じゃからの。竜魔法はそのあとじゃ』


 竜王はひどかった。魔法を使おうとすると、いつもそれを妨害してくるのだ。

 聖属性魔法を使おうとすれば魔属性の魔力で攪乱してくるし、魔属性魔法の場合はもっとひどい。魔属性の魔力をねじ込んできて魔法を暴発させてくるのだ。

 何度死にかけたことか……。何とか竜魔法も習得したが、お披露目は後にしよう。


 そうそう、アリスとの最初の訓練もひどかった。

 肉体に教えるってのはあのことだね。


 最初の訓練も——。


『なんでだよ……。“動作予知”で視えた動きと違うじゃねえか!』

『当たり前です。そう誘導しましたから』

『じゃあお前相手には通用しないってことか?』

『これからはそんなものは通用しません。一切使わないようにしてください』


 ホント鬼教官だったな……。そのおかげで強くなれたけど。


 それに、“動作予知”はなくなったしな。というより、クラスアップしたのか?

 今、“動作予知”はその名前を変えて“危険察知”になっている。


 これは常時発動しているらしく、命の危険がある攻撃を受けそうになったときにその映像が視える。

 不意打ちなんかにはこれで対応できそうだ。


「……終わったの?」

「おお、イーナ。終わったぞ」


 イーナがその腕にスライムを抱きながら歩いてきた。

 

「ごしゅじんおつかれ~」


 スライムが腕の中から飛び出して、ポン、という煙に包まれる。

 煙が晴れると、白いワンピースを着た水色の髪の美幼女が立っていた。


 そう、アクアだ。『進化の宝玉』は不完全だったらしく、戻ろうとすれば元の姿に戻れるようになっている。

 アクアは基本人型だが、移動のときなんかはスライムに戻って誰かに運んでもらっている。彼女は面倒くさがりなのだ。そこがまた可愛いのだが。


 要約すると、


 とにかく可愛すぎるんですよ、うちの子は! 絶対嫁になんか出さないね!

 スライム型のアクアを頭に乗せても可愛いけどな、人型のアクアを肩車すると俺の頭を抱えて寝始めるんだ!

 可愛いだろう? 可愛くないっていう奴は生き物じゃないね! 


 ということだ。

 

「アクア~俺頑張ったよ!」

「えらいえらい」


 ふおおおおお! 

 撫でられただけでこの癒し! 


「ありがとうアクア! 今ならアリス五人にも勝てるよ!」

「すごいね~」

「ああ、もう死んでもいい……」

「へえ~。私五人に勝てるんですかぁ」

 

 さ、殺気が!!

 アリスさんの後ろに般若が見える! 殺されてしまう!


「あ、あのアリスさん? 嘘ですからね?」

「何が嘘なんですかぁ?」

 

 え、笑顔が怖い。般若さんも笑ってらっしゃる。

 お二方が笑っているのに地獄にしか見えない!


 え、ちょ、こないで! それ以上はヤバい!

 え? なんで拳を振り上げてらっしゃるんですか!?


 や、やめ…………。



    ♢   ♦   ♢   ♦



「……大丈夫?」

「ああ、ありがとうイーナ」

「やっと起きたの。では本題に入るとしよう」

 

 目を開けると、自室のベッドの上だった。

 イーナが治療してくれたらしい。これでナース服だったら完璧だったのに……。


「八雲さん? また変なこと考えてません?」


 アリスが笑顔で聞いてくる。マジでトラウマになりそう。

 美人の笑顔がこんなに怖いとは思わなかったぜ……。


「なにも考えてないから! それより本題ってなんだ?」

「うむ。八雲、お主に教えることはもうない」

 

 な、なんと! テンプレ通りのお言葉いただきました!

 まさか聞くことができるとは……。感動だ……。


「なぜ涙目なんじゃ……。まあよい。お主の目的はどうするんじゃ?」

「目的……なんのことだ?」


 目的なんてあったか? アクアと一緒にいられればそれでいいんだが……。

 

「忘れたんですか!? 復讐は!?」 

「ああ、そんなこともあったな。でも、もういいかな……」

「八雲がそれでいいなら構わんが……。くらすめいととやらはどうするんじゃ?」


 おお! そうだった! 

 東條とか中田とかはどうでもいいが、北條たちは助けてやりたいからな。


「じゃあ早速いくか! 俺が落されたところを上がればいいんだろ?」

「いや、それは無理じゃ。今の時期はマグマが多くてそちらには行けぬ」


 なん……だと……。ここマグマなんて出てたのかよ……。


「じゃあ地上にはいけないのか?」

「いや、儂がよく行っておった町の近くにいける転移魔法陣がある」

「それってどこなんです?」

「うむ。それがの……」


 竜王は言葉を詰まらせた。なにか問題でもあるのだろうか?

 

「なにかあるのか?」

「……魔界の奥地なんじゃ。つまりカルマ大陸の最西端なんじゃよ」

「「ええ!?」」

 

 魔界、カルマ大陸ということは驚いたが距離感が掴めない。

 それほど遠いのだろうか?


「アルス王国とどれくらい離れているんだ?」

「知らんで驚いておったのか! そっちの方がびっくりじゃわい!」

「知ってるわけないだろう?」

「なぜ偉そうなんじゃ……。まあよい、これを見よ」


 そう言って竜王は地図を広げた。

 どうやら東の大陸がアルス大陸で西の大陸がカルマ大陸らしい。縮図という概念がないらしく、距離は全くわからないし地形も大雑把のようだ。

 しかし、それでもかなり遠いことだけはわかった。


「長い旅になりそうだな……」

「ですね……。でも、大丈夫です! 私とアクアちゃんもいますから」

「ああ、よろしくな」


 アリスという心強い仲間とアクアという最強の癒しさえいれば何とかなるだろう。

 できれば竜王とイーナもいるといいんだがな……。


「何を言っておるんじゃ? 儂とイーナも行くぞ?」

「「へ?」」

「こんな面白そうなこと見逃すわけにもいくまい。それに、イーナはアクアと一緒に居たいようじゃからな」


 竜王は笑いながらそう言った。イーナを見ると、彼女はアクアをなでていた。


「……私はアクアちゃんのお姉さんだから」

「え~? そうなの~?」

「……うん。お姉ちゃんって呼んで」

「わかった~。イーナおねえちゃんよろしくね~」


 きたあああああ! 癒しがさらに増えた! しかも何あの二人! すごく可愛いんですが!!

 俺も頼めばお兄ちゃんって呼んでくれるかな? わくわく。


「八雲さん? お顔が緩んでますよ?」

「えっ。嘘だろ?」


 顔をペタペタ触ってから気づいた。

 ああ、嵌められたな……。


 見るとアリスさんは再び般若を召喚していた。

 

「やっぱりいかがわしいこと考えてたんですね?」

「俺はロリコンじゃない! これは本当だ! 一種の父性だ!」

「お兄ちゃんって呼ばれたらさぞ癒されるでしょうね~」

「おお! わかってくれるのか! ……はっ!」


 また嵌められたぁぁぁあ!

 アホの子のくせに中々の策士だぞ! どういうことだ!


「……お、お兄ちゃん」

「へ?」


 イーナがもじもじしながら破壊力抜群の内容を口にした。

 

「……だって、お兄ちゃんって呼んでほしいんでしょ?」

 

 俺は言葉を失った。

 とんでもない破壊力だった。魔神もびっくりのレベルだよこれ。


 即座に脳をフル稼働し、計算式を構築する。


 美少女×上目遣い×紅い頬×もじもじ=破壊力


 どうやら俺はこの世に空想上の理論(可愛いは正義)を実現させちまったようだ。

 悪いな日本のオタク諸君。俺は一足先に行かせてもらったぜ。


「ごしゅじんはおにいちゃんってよんでほしーの?」

「ああ、勿論さ! 俺の夢といっても過言ではないぞ!」

「……すごい決め顔。でもかっこよく見える。不思議」

 

 イーナが顔を赤らめながら後半ブツブツと呟いているがなんだろうか? 

 まあいい。今はそれよりもアクアだ! さあ、お兄ちゃんと呼んでくれ!


「おにいちゃん。これでいいの~?」


 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ……。


「おにいちゃん?」


 はっ! トリップしてしまった!

 それにしても、ここが楽園(パラダイス)か。本当にいいところだ。

 存在すら怪しい天国なんかよりよっぽど素晴らしい場所だ。

 空気さえも癒しの力を持っているような気がするよ……。


「アクア。ありがとう。俺はもう死んでもいい……本当に……」

「ごしゅじんしんじゃやだ~」

 

 ななななななな、涙目だとっ!!

 こ、これは…………。


「うああああああ!!」


 ドンドンと壁に頭を打ち付ける。巷で噂の壁ドンだ。


「な、やめてください八雲さん! 死んじゃいますよ!」

 

 いくら壁に頭突きしても怒りが収まらない! なぜだ! なんで俺はビデオカメラを持っていない!! 

 俺はなんて馬鹿なんだ! この光景を撮れないなんて……。

 

「落ち着いてください八雲さん! それ以上は!」

「ごしゅじんやめて~」


 アクアの声が聞こえる。しかも、泣きそうな声じゃないか!


「ごめんよアクア。だから泣かないでくれ」

「あれ? 私も止めたんですけど……」

「やはりお主たちは面白いのう」


 額から血が出ているようだが、こんなものアクアの涙一滴分の価値もない。

 うう、視界が歪む。意識がぼやけてきた……。 


「よかった~」

「ブフッ!」

「わわっ! すごい鼻血! 大丈夫ですか八雲さん!」

「我が、生涯に、一片、の悔い、なし………」

「……なに言ってるの?」 


 アクアの笑顔が見れた。これ以上の幸せはない……。

 俺は赤い噴水を見ながら満面の笑みでベッドに倒れこんだ。

 

『主人は本当によくわからないねえ……』


やっぱり戦闘描写は難しいですね……

誤字脱字、悪い点など教えてくださるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ