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竜王宅訪問



 大蛇は咆哮した後、こちらをじっと見つめていた。

 獲物として狙っているのか、もしくは敵として全力で排除しようとしているのかはわからない。


「アリス、どうでる?」

 

 アリスに指示を仰ぐ。実戦経験の少ない俺としては彼女の意見に従うことが最良の選択だ。

 

『あの大蛇。私も見たことがないのですが、恐らくはバジリスクでしょうね』


 彼女が話したのは作戦ではなく、大蛇の名称だった。

 まあ、バジリスクくらいならば俺も知っている。ハリー〇ッター見ててよかった……。


「石化の能力でも持っているのか。厄介だな……」

『へ? そうなんですか?』

 

 どうやら俺と彼女の認識は異なっていたようだ。自信満々で言っちゃったよ。恥ずかしい……。

 しかもよく考えたらありえないじゃん。そんな能力持ってたら俺はすでに石だよ……。見つめ合っちゃったし。

 

「いや、俺の妄想だ。忘れてくれ」

『そ、そうですか……。とにかく、バジリスクは魔物の中でもかなりの強さだと聞いたことがあります。気を付けましょう』

「ああ、“動作予知”で先読みはしておく。弱点はあるのか?」


 せめてそれだけでも分かれば少しは楽なんだが。


『すみません。そこまでは……』

「いや、いいんだ。そう簡単に倒せるようなものじゃないだろうしな」


 外見からしてかなりの強敵だろう。魔力の保有量も多い。

 

『まずは様子見をするしかありませんね。攻撃に当たらないように気を付けてください』

「了解!」


 “動作予知”を発動しつつ、バジリスクの周りを走る。バジリスクはこちらを目で追っていた。


 しかし、次の瞬間、俺の肩口が抉り取られる映像が脳裏をよぎる。

 即時に“迅速”と“空歩”を発動して空中に逃げた。


 “迅速”はあの犬っころが、“空歩”はカンガルーモドキが持っていたスキルだ。

 “迅速”は文字通り速度を瞬間的に早くするもので、“空歩”は空気を高圧の魔力で固めて一度きりの足場を作るものだ。

 

 空中に逃げ出した後、後ろを振り返るとバジリスクが大岩に噛みついていた。

 顎の力が相当強いらしく、大岩は瞬時に粉々に粉砕された。あれは一撃でも喰らったらまずいな。


「アリス、なにかわかるか?」

『弱点はまだわかりませんが、あれは多分“迅速”でしょうね』

「やっぱりそうか。だとすると厄介だな」


 相手も“迅速”持ちとなると、スピードでの勝負はきつそうだ。

 とすると、一度攻撃してみるしかないな。アリスも同じことを考えているだろう。


「行くぞアリス!」

『はい!』

 

 バジリスクに迫り、その側面を斬る。しかし、強固な鱗に剣が弾かれ、傷を与えることができない。

 一旦距離を取って聖属性魔法の“聖壁”を目の前に張り、バジリスクの攻撃を阻む。


『鱗の硬さが尋常じゃないですね。どうしましょうか』

 

 聖剣では奴を傷つけられない……。どうすれば?

 ああもう! 考えてたって仕方がない! 


「次は魔法で試してみるぞ!」

『わかりました。補助は任せてください』


 聖剣を握る手から魔力が流れ込み、体に力が漲る。アリスの補助魔法だ。

 アリスは聖剣を通して、使用者の身体強化の魔法のみを使うことができるようになっていた。


 そろそろ“聖壁”も限界のようだ。空中に浮かんでいた金色の魔法陣にひびが入り始めた。


『今です!』


 アリスの掛け声と共に飛び出す。バジリスクの攻撃は魔法陣を破壊して俺に迫ってくるが、一足先に回避を試みていたため当たることはない。

 

 魔力をコントロールしながらバジリスクから離れてから魔法を発動する。


「“聖炎”!」


 右手をバジリスクに向けると、そこから魔法陣が展開され、直径一メートルほどの金色の火球が飛び出していく。

 火球はバジリスクにぶつかり、その鱗を焦がした。


「グアアアアーーーーウ!」


 焼ける痛みが伝わったのか、バジリスクは大きく口を開けて吠える。


「アリス、“聖炎”でなら鱗を焼けるみたいだぞ」

『はい。では、“聖炎”で首の周りを焼いていってください』

「? わかった」


 なんで首の回りなんだ? でも、アリスの言うことは基本正しいからな。大丈夫だろう。


「グアアアアーーーーウ!」


 考えている間にもバジリスクは攻撃をやめてくれない。しかも、速度が増している。

 どうやら、焼かれたことに腹を立てているらしい。


 “迅速”を使ってそれを回避しながら首の周りを焼いていく。

 その最中、“動作予知”によって、自分が貫かれる光景を視た。


 その場を離れて様子見だけをすることにし、距離を取ってから“空歩”で足場を作って空中に留まる。


 俺は油断していた。死と隣り合わせのこの状況において、あろうことか俺は油断してしまったのだ。


「なあアリス、なんで首の周りだけなんだ? 顔にお見舞いしてやればいいじゃないか」


 そのとき、アリスが叫んだ。


『止まっちゃダメです! 早く逃げて!』


 その言葉が耳に届くと同時、右胸に衝撃が走った。

 バジリスクを見ると、奴は大きく口を開けていて、その口から水色の線状のものが俺の方へと伸びている。


 熱い。

 右胸を触ると、そこには直径三センチ大の穴が開いていた。

 

「ゴホッ」


 咳が出た。口を抑えた手は赤に染まっていた。

 鉄のにおい。何度も嗅いだことがあったもの。血の匂いが鼻腔と口腔を蹂躙する。


 思考が停止する。再び右胸を触る。穴が開いている。

 

 自分は攻撃されたのだ、貫かれたのだ、と悟る。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い————————


『八雲さん!』 

 

 再び体に衝撃が与えられた。


 周囲を見ると、視線はほぼ地面と平行だった。どうやら落ちたらしい。

 視界の奥で水色の物体が動く。アクアだ。


 アクアはその頭上に瓢箪を器用に載せてこちらへ向かってきている。アクアは俺を助けようとしてくれている。


 そうだ。俺がここで諦めてどうする。アクアのことは誰が守るんだ? 俺しかいないじゃないか!


 力を入れて立ち上がった。

 右肺がやられているため呼吸は辛いが、すぐ死ぬなんてレベルじゃない。そうだ、拷問はもっと酷かっただろうが!


「なに、してん、だ、俺は……」

『八雲さん! 危ない!』


 見ると、バジリスクは再びその口を開けていた。

 口の中央では水が圧縮されて、球体になっている。あれが俺を貫いたものらしい。

 

 即座に“迅速”を使って回避、アクアのもとへ向かう。

 重傷の体には“迅速”による負荷がきつく、何度か吐血してしまった。


「サンキュ、アクア」 


 瓢箪を受け取り、中に入っていた水を一息で呷る。

 すると、すぐに胸の痛みがなくなり、傷が塞がった。流石魔神お手製の瓢箪だ。


『そろそろ来ます!』

「ああ。アクア、離れてろ!」

 

 瓢箪を返してからバジリスクの方へ振り返る。奴はこちらへと向かってきていた。


「よし。第二ラウンドだ蛇野郎」


 今まで攻撃をしてこなかったということは、あの技にはクールタイムがあるのだろう。せいぜい五秒といったところか?


『攻撃を避けながら近づいて行ってください!』

「わかった!」


 随分と無茶な指示だが、やってやる。


 “迅速”と“空歩”を交互に使用し、ジグザグに空中を駆けて距離を詰めていく。

 バジリスクは攻撃をしようにも、狙いを定められないために困惑しているようだった。


 バジリスクに目測で十メートルほどまで差し迫った瞬間、奴は大きく口を開けた。

 すぐさま“迅速”で横に跳ぶが、奴の口はこちらを向いていた。


「野生の勘ってやつか! クソッ! “聖壁”!」

 

 大量の魔力を込めて“聖壁”を展開すると同時にバジリスクの水レーザーも発射された。

 水レーザーの威力は強く、“聖壁”にひびが入り始める。このままでは拙い。


「だったらこっちも一点集中にしてやるよ!!」


 片手をかざし、送る魔力量を増加させて“聖壁”を拡大。

 そこから魔力を接触面に集中させて“聖壁”を縮小していき、強度の増加を図る。


 思ったよりも制御が難しく、額には汗がにじむ。

 まだ終わらないのか!? もう魔力が!


『あと数秒でバジリスクは魔力が尽きます。その後バジリスクが動けなくなっている隙に首を斬り落としてください!』

「わかった! でも、そのままじゃ斬れないぞ!」

 

 鱗に剣が弾かれてしまう可能性が高いのにそんなことができるわけがない。

 魔力も残り少ないし、魔法で倒すのは不可能だ。


『首の周りを焼いたでしょう! そこを“聖炎”を纏わせた私で斬るんです!』

 

 そういうことか! 首周りの鱗の耐久力を下げるため、そのためにわざわざ首の周りだけを焼いたってことだったのか。

 やはり彼女は凄い。彼女がいなかったら俺はまともに戦えないだろうな。なんて、本人には言えないけれど。


「ああ、任せとけ!」

 

 言い終わると同時、バジリスクの水レーザーの威力が落ち始めていき、止まった。

 

 “聖壁”を解除し、バジリスクの頭上の遥か上へと跳躍する。聖剣を両手で握りしめた。


 思い出せ、アリスの言っていたことを。

 

『いいですか? 魔法はイメージが大事なんですよ』

『へえ。でもなんで?』

『イメージができていないと魔法が暴走する可能性がありますから』

『イメージすれば魔法って応用もできる?』

『ええ、できますよ。だからイメージが一番大事なんです!』 

 

 そうそう。イメージだイメージ。目を瞑ったまま想像力を働かせていく。

 聖剣を聖なる炎が包み込む感じを想像しながら、その言葉を発した。


「“聖炎剣”!」


 目を開けると、目の前に展開された魔法陣から金色の炎が飛び出し、聖剣を包みこむ。

 

「おお! できてる!」

『熱い! 熱くないけど熱い!』

 

 意味わかんねえよ……。

 最後まで締まらないなあ俺たちって……。


「終わりだバジリスク!!」


 そのまま落下によるエネルギーに自分の渾身の力とありったけの魔力を込めて斬りかかる。

 焼けた後の鱗は耐久力が落ちていたようで、今回は刃を通すことができた。


 “聖炎”を纏った聖剣は肉を焦がしながら首にその刀身を食い込ませていく。


「グォォォアアアア——!!」

「黙ってろこの蛇野郎!」

 

 俺の出せる最大限の力を出してバジリスクの首を切り落とした。

 切断された頭と胴体からは血が噴き出て、倒れたあともピクピクと痙攣していた。グロい。


 着地した後、俺はとりあえず叫ぶことにした。あの伝説的フレーズを!


「ウツボ、獲ったど————!!」

『なんでウツボ……』

「言ってみたかっただけだから気にするな」

『とことん残念な人ですね……』


 心外だな。俺はそんなに残念なやつじゃないぞ。


「アホの子に言われたくない」

『あ! またアホって言った!』

「どうどう、落ち着け」

『私は馬じゃないです!』


 やっぱりアホの子だと思うんだけどなあ。

 でも戦闘になると豹変するし、やっぱり初代勇者は伊達じゃないってことか。


「今回もアクアには助けられたよな」

『油断するなって言ったのに! 八雲さんが死んじゃったら私……私……どうやって竜王さんのところへ行くんですかぁ!』

「おいお前。少しは悲しめよ。悲しくなっちゃうでしょうが」

 

 傷ついた。どれくらいかっていうと水レーザー五発分レベル。

 ……死ぬな。死んじゃうよそれ。


 結局、俺の味方はアクアだけでした。



 


 バジリスクの肉を食べて魔石を回収した後、俺たちは再び歩き始めたのだが……。

 あ、ちなみにバジリスクの肉は美味かった。“聖炎”で焼くと肉が浄化されるから旨みが増すらしい。(アリス談)


「なあ……」

『はい?』

「これ、門だよな?」

『そうですね。多分竜王さんの家だと思いますけど……』

「だよなあ……」


 二十分も経たないうちに竜王宅についてしまったのだ。空洞に大きな黒門をはめ込んだかのような造りとなっている。表札はない。当たり前か、近所に誰もいないし。

 

「とりあえずノックしとくか」

『そうですね……』

 

 高さ二十メートルほどありそうな門をノックして呼びかける。


「りゅーおーさーん、あーそびーましょー!」

『なにふざけてるんですかっ!』

「まあまあ落ち着けって。これが正しいお宅訪問の仕方なんだよ」

『そ、そうだったんですか……。今まで知りませんでした……』


 ま、当然全部嘘なんだが。これを信じるなんてやはりアホの子か……。


「誰じゃ? 遊びに来たのは」

「『えっ』」 


 思わず口に出してしまったが……これで通るの? 大丈夫かなぁ、おもに竜王の頭。


「ええと、服部八雲って言います! 初代勇者をお届けに参りました!」

『これでいいんでしょうか……』


 アリスが何か呟いているが、気にしない。

 

「おお、アリスのことじゃな。少し待ってくれ」


 ゴゴゴ、と門が開き、漆黒の竜が顔を出した。

 黒き両翼、漆黒の尻尾、そして青の瞳。遠めから見ると恐ろしいのだろうが、今の俺はそんなことを感じてはいなかった。むしろ、その優しげな双眸を見ると、なぜか安心感が湧いてくる。

 

『お久しぶりです!』

「おおアリス。久しいな。元気だったかの?」

『はい、おかげさまで!』


 いや、どこがお蔭様だよ……。お前軽く封印されてたようなもんだろ……。


「うむ。では二人とも中に入れ。儂は後から行く」


 なんかフレンドリーだな……。竜は先に俺たちを案内してからどこかへ行ってしまった。

 

「なあ。これが普通なのか? おかしくないか?」

『これが普通なんですよ。いい人たちばかりなんです』


 案内された部屋の中に入ると、そこはリビングのような場所だった。家の中はかなり清潔で生活感たっぷりだった。本棚にはたくさんの本が並び、綺麗に整頓されている。

 そして、テーブルの上には小さな箱が開けっ放しの状態で置いてあり、その中には虹色に光る飴玉のようなものが置いてあった。


 とりあえず椅子に座り、頭に乗っていたアクアを膝の上に乗せる。

 

 部屋を見渡していると、あることに気が付いた。

 部屋の奥の通路から誰かが覗いているのだ。


『あれ? こっちにおいで~』

 

 アリスが呼びかけるが、出てきてはくれない。とそこで、穏やかな声が聞こえた。


「すまんの。イーナ。あっちに行こう。大丈夫、怖くないから」

 

 老人がお盆に湯呑を載せてイーナと呼ばれた少女を連れてきた。

 イーナという子は深紅の髪が特徴的な可愛らしい女の子で、男性の裾を掴みながら歩いてくる。


『わあ~可愛いですね~。竜王さん、どなたですか?』

「ああ、この子はイーナ。人間の女の子じゃ。イーナ、自己紹介しなさい」


 老人の優しい口調に促され、イーナが前に出てくる。


「……イーナ。十二歳」


 衝撃が全身を駆け巡った。すなわち、「嘘だろ……八歳程度にしか見えないぞオイ……」と。


「よしよし、よくできたの」


 老人はイーナの頭を優しく撫でる。微笑ましいものだ。ん? アリスはさっきなんて言った? 竜王?


「あの、すみませんが、あなたが竜王さん?」


 少しの疑念を抱きながら尋ねる。


「そうじゃが? なにか?」

「え? でもさっきまで竜でしたよね?」

「そのことか。儂は人化の術を使えるからの」

 

 この優しそうな老人が竜王なのか……。

 正直、意外だ。「我こそが竜王。全竜種の起源にして頂点なり!」みたいな奴だと思ってた。


『そんなことはいいじゃないですか~。それより、イーナちゃん。初めまして、アリスです』

「……アリスさん。どこ?」


 イーナがきょろきょろと部屋の中を見渡す。それらしき女性がいないことに、彼女は困惑気味のようだった。

 そりゃそうだ。俺だって最初は剣が話してるとは思わなかったし。 


『そうでした! 私剣のままです! 竜王さん、私の体を返してください!』

「おお、そうじゃな。よし、では行くとするかの」


 竜王は椅子に立てかけていた聖剣、もといアリスを連れて再び通路に消えてしまった。場に静寂が残る。

 

「…………」

「………………」


 こ、この空気はまずいやつだ! 友達と知らない人と俺の三人でいるときに友達がいなくなって、俺と知らない人だけが残されるやつと同じパターンだ!

 き、気まずいぜ……。


「……そのスライム、可愛い」


 イーナは膝の上のアクアを指さしてつぶやいた。


「ああ、この子はアクアって言うんだよ。俺の友達だ」

「……ぷるぷるしてて可愛い」

「触ってみるか? ほら、アクア。行っておいで」


 膝から下ろすと、アクアは飛び跳ねてイーナのもとへ向かった。


「わあ、可愛いね……」

 

 イーナはアクアを撫でながら微笑む。

 

 いえいえ、あなたも可愛いですよ! 無口系美少女と無口系スライムの戯れる姿……癒されるなあ……。

 その光景……プライスレス! お金払いたくなっちゃうレベル。プライスレスじゃねえなそれ。


 え? スライムが無口なのは当たり前だろって? 

 馬鹿野郎! アクアは照れ屋さんだから話さないだけなんだ! 俺はそう信じてるんだ!




「はいは~い! 元の体に戻っちゃいました~」

 

 気の抜けたような声と共に、奥の通路から美人が走ってきた。

 このアホっぽい声……ま、まさか! 奴か!?


「どうも~。改めまして、アリス=レイ=アルスです!」

 

 再びの衝撃が走る。……嘘だろ? 見た目と中身のギャップ激しいよ? 外見は完全にクールビューティな金髪青目のお姉さんだぞ? 


「あれあれ~。八雲さんもしかして私の美貌に見とれちゃいました~?」


 絶対アリスだわこいつ。ドヤ顔と詰め寄り方がうぜえ……。


「ねえねえ、どうなんですか~?」


 拳を握りしめながら下を向いていたところ、アリスが顔を覗き込んできた。

 睫毛長いし、目は吸い込まれるように綺麗だ……。


 あぶねえ! 何考えてんだ俺は!


「近い、離れろ」

「またまた~。お顔が赤いですよ?」

「悪かったな! 予想外にお前が美人だったから見とれちまったんだよ!」


 ……今なんて言ったよ俺。最悪だぁぁぁああ! 絶対調子のるよあいつ。


「えっと、その、なんていうか、照れますね。えへへ」


 指先をツンツンしながら頬を染めて上目遣い。なんという合わせ技だ! 可愛すぎる! でも認めたくない!


「大丈夫かお主たち?」

 

 竜王が心配そうに話しかけてくれた。ありがたや。

 あのままだと何も言えなくなっちゃう雰囲気だったからな。


「ええ、大丈夫ですよ。それより、どうしてアリスの体を保存していたんですか?」

「それはだな、本人の希望じゃよ」

「私そんなこと言いました?」


 アリスの素っ頓狂な声に、溜息を吐く。

 お前が忘れるなよ! アホなの? アホだな、うん。


「確か『結婚もせずに死にたくありません……。ですので、私の体を保存してください。私は聖剣に宿って運命の相手を待ちます……』とか言っておった」

「理由が残念すぎるだろオイ!!」

「えへへ。いや~若気の至りってやつですよ」


 まあ確かにそうだな。五百十九歳だし。仕方ない、うん。

 一人で勝手に納得し、頷く。そこへ、竜王の質問が飛び込んできた。


「で、八雲が運命の相手なのか?」

「いや、それはないですね。ひどいですし」

「なにそれ辛い。泣きそう」

 

 ひどいって顔じゃないよね? 性格だよね? それもそれで嫌だな……。

 ま、まぁ俺にはアクアがいるからね! 将来安泰、万々歳だよね!


「……大丈夫だよ。よしよし」


 外見八歳くらいの美少女に撫でられる俺。なんか複雑……。でも、可愛い子に撫でられると嬉しく感じる。不思議! 


「うう、ありがとうイーナ……」

「どういたしまして」


 イーナちゃんマジ天使。いや、天使どころじゃない、女神だ!


「そうだ、俺を地上に戻すことはできますか?」

「うむ。できるぞ。というか、儂にだけ敬語を使うのはやめてくれ」

「あ、はい」

 

 竜王が睨んできた。マジで怖いから止めて欲しい。


「すまん。実は俺は異世界から召喚されたんだよ」


 そこから俺は今までのことを全て話した。辛いことや苦しいこと、などなど……。

 波乱万丈すぎだろ俺。辛酸と苦汁を混ぜてコップ一杯飲みほしたくらいだな。ちょっと死にそう。

 

「辛かったんですね八雲さん……」

「八雲よ。儂はお主の味方じゃからな……」

「……私が守ってあげる」


 アリスと竜王は目に涙を浮かばせて、イーナはアクアを撫でながらそう言ってくれた。


「みんな、ありがとう。でも大丈夫だ」

「八雲さん、私ついて行きます!」

「いや、でも……」

  

 その後もアリスはついていくと言い続けていたので、仕方なく連れていくことにした。

 だってしょうがないじゃん。上目遣いの涙目だぜ? あれで折れないやつはホモだ。


「そうと決まれば特訓です! 私が鍛えてあげます!」

「儂も竜独自の魔法を伝授しよう」

「……私はアクアちゃんと遊んでるね」


 なんかすごいことになった……。

 初代勇者の訓練に竜王の魔法講座だと? それ最強じゃん。途中で死にそう。

 

「明日から始めましょう!」

「そうじゃな。今日は寝るとしようかの」


 勝手に進んでいく『俺改造計画第二弾』。死なない程度に頑張ろう。


 その後、俺たちはご飯と風呂をいただいてから各自に用意されたベッドに入った。もちろんアクアと一緒に。

 アクアは口をもごもごさせていたが、まあ大丈夫だろう。おやすみなさい……。







ちょっと強引な展開になっちゃいましたかね?

誤字脱字等あればご指摘ください。

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