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奈落の底

戦闘描写が拙いと思います。

ご了承ください。

 



「ん……ここは……どこだ?」


 辺りを見回すとそこは微かに明るさの残る洞窟のような場所だった。


 何で生きてるんだ俺? あの高さから落ちたら普通死ぬだろ……。

 月光が差し込む大きな裂け目を見上げるが、かなりの高さだと見た瞬間分かる。月は紅く妖艶に輝いていて、俺はそれに魅了されて思わず左手を空へと伸ばした。


「痛ッ! くそ、東條にやられたところか……」


 奴の放った光線による左肩の傷がジンジン痛む。触ってみると、直径二センチほどの穴が開いていた。

 さらに、その周囲は火傷しているようで、ヒリヒリしている。しかし、拷問のときよりは幾分かマシだろう。

 

「全く、どうなってるんだよ……」

 

 少々投げやりに呟いて、改めて自分の周囲を見ると、一枚の紙とナイフ、そして瓢箪があった。ナイフが視界に入った瞬間あの時の恐怖と痛みと絶望感が体を支配しようとしてくる。

 必死で恐怖の支配から抜け出し、肩で荒く呼吸をした。


「うっ……。はぁ、はぁ……」


 ナイフが途轍もなく怖い。またあの悪夢が始まるんじゃないかと思うと震えと吐き気が止まらない。大丈夫だ、拷問は終わったんだ。もうアイツはいない。

 必死に自分に言い聞かせ、恐怖を和らげる。そして、自分の非力さを嘆いた。北條たちを改造させるなんて、絶対に嫌だ。でも、俺に何ができるのだろう。

 

 アイツは何だかんだ言って付き合いも長いしそれなりに助けてもらったからな。俺に戦うことはできないが、伝えることくらいならできる。もっとも、俺がここから脱出できれば、の話だが。

 などと考えているうちに、自然と視線がナイフ以外のものに移る。


「この紙と瓢箪はなんなんだ?」


 まず紙を見たが、どうやら手紙のようだ。字が読めないから何が書いてあるのかわからないが……。次に瓢箪。これは水が入っていた。どこから見てもただの瓢箪。


「それにしても……誰だ? 俺を生かしてくれた奴は……」


 立ち上がろうとした瞬間、ポケットに違和感を感じた。固めの薄い物のようだ。

 

「何が入ってるってんだよ……。しかも何だよこの黒いローブ……」

 

 恐る恐る取り出すと、それはただのステータスカードだった。

 俺の抹殺に証拠が残ったら面倒だからか。クソ共め。呪ってやる。

 

 呪いの言葉を唱えながらステータスカードを見た瞬間、俺は驚愕した。

 

————————————————

 服部八雲 18歳 男

レベル :1

生命力 :500

筋力  :500

魔力  :50000

敏捷  :500

魔法適性:聖属性、魔属性、無属性

称号  :神に呪われし者、死神の加護、災いを呼ぶ者

     魔王の卵、魔神の祝福

技能  :動作予知

————————————————


「……はい?」


 俺の目はどうやらいかれたらしい。幻覚が見える。俺のステータスが化け物じみている。

 思わず、俺は指を自分の目に突っ込んだ。その瞬間激痛を感じた。


「ぎゃああああーッ!」


 痛い痛い痛い! アホか! なんで目に指ぶっさしたんだよ三秒前の俺!

 バカなの死ぬの? 誰が死ぬか! 


「みずみずみずぅ!」


 とりあえず、瓢箪に入っていた水で目を洗う。すると、なぜか痛みがスーッと引いていった。


「なんで? 水で洗うだけで痛みって消えなくね?」


 水を少量手につけて舐めてみるが、いたって普通の水だ。

 

「どうなってるんだ?」

 

 瓢箪に口をつけて一気に煽る。

 水を飲み下した瞬間、先ほどまでの肩のジンジンとした痛みが消え、思考が明瞭になった。

 

「おいおい、なんだこの水は? あれか? 回復薬グ〇ートなのか?」


 回復力が半端じゃない。もしかしたら、いにしえの〇薬レベルかもしれん。

 しかもかなりの量を飲んだばかりなのに、もう満タンだ。底から湧いてるらしい。魔法具ってやつかもしれない。


 それにしても、なんだこのステータスは……。一般人レベルだったステータスがかなりの上昇を遂げている。

 まさかこれが改造ってやつなのだろうか。だとしても上がりすぎだろう。あの東條より上じゃないか。


 それに、魔法適性ができている。聖属性と魔属性、それに加えて無属性か……。どれも講義には出てきていないものだ。字面からして聖属性は光属性の上位互換、魔属性は闇属性の上位互換、といったところだろう。無属性は何なのかが全く分からないな。上位互換だとしても、該当する属性がない。これは一旦保留としよう。

 というか、魔法の使い方がわからない。現状、意味のないステータスだ。


 いやはや、俺の体は一体どうなってしまったんだろう。だが、この力があれば復讐くらい……。

 ダメだ。慢心すればすぐに死ぬ。それに、目下のところの目的は脱出だ。復讐云々はそのあと考えるとしよう。


 称号の項目に関しては……悪霊の加護がクラスアップして死神の加護になったようだ。普通にいらねえ……。さらに、追加された称号は二つ。魔王の卵と魔神の祝福。魔王の卵はわからなくもない。職業適性が魔王だからな。

 しかし、魔神の祝福ってなんだよ。俺がいつ魔神に祝福されるようなことしたっていうんだ……。

 

 そして最後の項目、技能。項目自体が増えるってのはどういうことだ。そういえば魔物には固有スキルを覚える種がいるとか言ってたな。

 技能ってのはスキル——つまり魔物の能力ってことだ。俺はもう人じゃないのか。

 

 そうか、俺が神だったのか! ……すいません、魔王候補でした。てへぺろ。


 

 次、ナイフだ……。正直触りたくもないが、ここで恐怖を克服しておかないと後で苦労しそうだ。ゆっくりと手を伸ばし、ナイフの柄を掴む。

 持ち上げると同時、猛烈な吐き気と頭痛、さらに体に染み込んだ恐怖が襲ってくる。


「うぐっ、げほっ……はぁ、はぁ……み、みず……」


 ナイフを手放し、込み上げてくる吐き気を必死に抑え、瓢箪へ手を伸ばす。遂に喉まで上がってきたそれを吐く寸前で全て飲み込み、一気に水を呷った。

 瞬時に吐き気と頭痛が収まり、徐々に恐怖も消えていく。


「はぁ、はぁ、やっぱまだ、きついな……」


 ナイフを見るだけでも、肉を削ぎ、骨を削っていくあの恐怖が蘇るのだ。今はこの水があるだけいいが、水がない状態だとどうなってしまうのだろう。

 そのことを考えるだけでも、次第に気分が悪くなっていく。


「ダメだ、こんな場所に落ちちまった以上、ナイフが必要になる……」


 この広い空間にはまだ魔物がいないが、脱出するとなれば話は別だ。否が応でも魔物との戦闘は避けられないだろう。となれば、恐怖の克服は必須。



 数時間経っただろうか。

 俺は何度もナイフを持っては放り投げて水を飲むという作業を繰り返し、何とかナイフへの恐怖を克服した。

 

「よし。まだ少しきついが、進むしかねえな」


 俺はナイフを片手に、手紙をポケットに入れ、瓢箪を首から下げながら脱出口を探すことにした。

 案外、通路はすぐ見つかり、意を決して進む。


 三十分ほど歩いた後、不自然な音が聞こえるようになった。

 

 ぺち。ぺち。ぴたっ。


 何かが張り付くような音。それは段々と近づき、俺のすぐ後ろにいると気づけるまでになった。

 俺は覚悟を決めてサッと振り向いた。しかし、そこには何もいないし、何もない。

 

「気のせいか?」

 

 とりあえず気のせいということにして、再び歩き出す。しかし、すぐにまた音が聞こえる。

 

 ぺち。ぺち。ぴたっ。


 恐怖からか、背筋を冷や汗が伝う。一向に音は鳴りやまない。

 再度、振り向く。やはり、何もない。思考がぐるぐると回る。

 

 幻術か、はたまた透明化した魔物なのか。いや、落ち着け。こういう時の定石を考えろ。ゲームで何度も経験したはずだ。

 記憶の海から情報の断片を抜出し、考えながら歩く。脳をフル稼働させた結果、一つの可能性に辿り着いた。


「上だ!」


 ドヤ顔を決めつつ、ナイフを通路の天井へと向ける。しかし、何もいない。再び背筋がひやりとした。


 焦りではなく、恐怖が脳を包み込もうとする。その瞬間だった。

 視界に一瞬だけ水色の物体が映り込んだ。

 

 ぺちっ。


 恐怖に支配されそうになりながらも、俺は壊れたロボットのように足元へと顔を向ける。

 そこには、二つのくりっとした丸い目、涎が垂れそうなほどにゆるんだ口、水色の柔らかそうな体——そう、ドラ〇エに出てくるスライムがいた。


「なんでだよっ! お前なのかよ! 命の危険感じてた俺がアホみたいじゃねえか!」

 

 スライムは頭上に? と表示されそうな表情を見せた。いや、単に俺がそう感じただけなのかもしれないが。

 どうやらこいつはずっと俺の足元付近に居たらしく、振り返った俺の視点からは死角だったようだ。

 なぜかスライムは俺の足にくっついて離れようとしない。懐かれていることが不思議だ。


「お前は何がしたいんだ? いや、別に構わないんだけどさ……」


 スライムはそのつぶらな瞳をこちらへ向け、ぷるぷるしている。

 もし言葉を話せたのなら、「ぷるぷる。ぼくはわるいまものじゃないよ」とでも言ってそうだ。

 なんか想像したらすごく可愛く思えてきた。ぷるぷる感が素晴らしい……。


「おいで。何も危害は加えないからさ」


 両手を出してみると、スライムは嬉しそう? に飛び込んできた。

 ゼリーのような感触でいて、体温は冷たい。夜に抱き枕として寝てみたいものだ。


「プニプニで可愛いなあお前は。よし、お前は異世界初の友達だ! 一緒にここを脱出しようぜ!」

 

 ぷるぷる。ぴょん。ぺちっ。


 スライムは腕の中から飛び出し、跳ねた。嬉しいってことだよな? 多分。

 こいつのステータスの確認とかできないのかな。できたらいいのに……。

 呟けばステータス見えたりするだろうか? 実践あるのみ!


「ステータス!」

  

 ……ダメか。やっぱゲームみたいにはいかないよな。

 

「さしあたって、お前の名前を決めようと思う」


 ぷるぷる。


 うん。きっと嬉しいんだろう。そう信じよう。

 で、名前だが……。


「安直かもしれんが、スラりんなんてどうだ?」


 ぷるぷる。ぷるぷる。


 左右に揺れている。否定の意味だろうか?

 

「スラりんはだめか?」


 ぷるぷる。

 

 おお、今度は上下に揺れている。こいつ言葉がわかるのか。賢い奴だ。

 それにしても、スラりんは不評か……。結構自信あったんだけどな……。

 だとすると、他の名前候補なわけだが……。水色だからアクアとか?


「アクアなんてどうだ? これはスラりんより自信あるぞ!」


 ぴょん。ぺちっ。ぴょん。ぺちっ。


 大分喜んでるみたいだ。よかったよかった。


「よし、じゃあ今からお前の名前はアクアだ! よろしくな!」

 

 アクアは嬉しそうに飛び跳ね、俺は屈んでアクアを撫でた。

 すると、アクアは俺の胸あたりをじーっと見つめてきた。


「どうしたんだ? もしかして、この瓢箪の中の水が飲みたいのか?」


 アクアは上下に揺れる。スライムだし、食べ物は水でいいのかな?

 

「よしよし、口を開けてみろ」


 そう言うと、アクアは大きく口を開けたので、そこに瓢箪から水を入れてやる。

 飲み終わると若干体積が増えたが、数分もすると元に戻った。どうなってるんだろうか?


「アクア。飛び跳ねての移動は大変そうだから俺の頭に乗れよ」


 アクアを頭に乗せると、とても楽しそうに揺れている。ああ、癒されるなあ……。

 小さな幸せに浸っているのも束の間、魔物らしき唸り声が通路の奥から聞こえてきた。

 

「グルルルル……」


 犬のような魔物が一匹、涎を垂らしながら歩いてくる。

 ちょっとやばそうだ。保健所のお兄さん! 早く来て! 狂犬が!


「ガウッ!」


 なんて冗談も言ってられないようだ。正真正銘これが俺の初戦闘。

 ナイフを構え、威嚇をしてくる魔物に対し警戒を強める。


「アクア、しっかり捕まってろよ……」


 あれ? スライムが何かしがみつくことなんて無理じゃね?


「グルルルル……ガウッ!」


 先に動き出したのは魔物だった。素早く地を蹴って、一気に距離を詰めてくる。

 十五メートルほどあったのにもかかわらず、その一瞬で距離がなくなる。

  

「うおっ、めちゃくちゃ早いなコイツ」

 

 飛びかかってきた魔物を紙一重でかわす。内心ドキドキだよ畜生。

 一度呼吸を整え、再び魔物と相対。

 正直、あの速さだと俺から飛び込んでもかわされるのがオチだ。

 ならば俺は闘牛士になってやろう。


「オラ、こいよ犬っころ」


 左手を伸ばし、挑発する。犬型魔物は敵対心をさらに強めたようで、低い唸り声を発する。


 あっさりと挑発に乗った犬型魔物は先程よりもさらにスピーディに地を駆ける。


 両目に神経を集中させ、動きを見極めようとしたときに、異変が起きた。

 犬型魔物が俺の首に向かって飛び掛かってくると予測できたのだ。


 咄嗟に俺はナイフを逆手に持ち替え、軌道上にナイフを構えながら闘牛士のように体だけ避ける。


 すると、犬型魔物はそのまま突っ込んできて、あっさりと真っ二つになり、絶命した。


 予知した通りの出来事が起きたことには驚いたが、それ以上にナイフの切れ味に驚愕した。

 刃渡り十数センチほどのナイフは、ただ軌道上に置いただけで奴を切り裂いたのだ。それこそ、豆腐に包丁を入れるかのように。


「これが“動作予知”? それにこのナイフは一体?」


 ぷるぷる。ぷるぷる。


 思考の波に囚われていた俺を救い上げたのはアクアの震えだった。気が付けば遥か後方から犬型魔物の唸り声が聞こえる。それも、かなりの数だ。


 仲間の血を嗅ぎ付けてきたのか、奴らは息を荒くしながらこちらへ向かってくる。幸い、まだ距離が離れていたため気づかれてはいない。

 俺はアクアを頭から降ろして胸に抱き、走り出した。


 数分ほど走ったが、奴らが追いかけてくることはなかった。


「ふう。ありがとなアクア。お前がいなかったら俺は死んでたよ」

 

 アクアを撫でながら微笑みかけると、アクアは嬉しそうに体を揺らした。なんだかこっちも嬉しくなってくる。

 

「ここはまた……、広いな……」


 辿り着いたそこは王城の謁見の間ほどの広さがあった。周囲に魔物はいないようで、安心した俺は腰を下ろした。


 さっきの犬型魔物の速さ、あれは尋常じゃなかった。動作予知が発動していなかったらそのままスピードに対応しきれずに死んでいただろう。

 どうやらこのスキルは『視る』ことに神経を集中させると発動させることができるようだ。集中力の持続は難しいため、あまり連続して使うことはできなさそうだ。

 

 ステータスカードを確認すると、魔力が少し減っていた。スキルの発動には魔力が必要らしい。

 さらに、技能欄には動作予知の他に、魔物使役が追加されていた。これはアクアを仲間にできたから追加されたのか?


「スキルの使役は難しいけど、徐々に慣れるしかねえか……」


 早速、アクアを見つめ、集中する。その瞬間、脳内に何かが走る。

 

 ぷるぷる。

 

「視えた! でもぷるぷるしかわかんねえ……。これって意味あるのか? まあ、要練習だな」


 実際のところ、『視る』というよりも、『感じる』という表現のほうが正しいかもしれない。


 具体的に言い表すことはできないのだが、なんとなくわかるのだ。第六感と言ってもいいだろう。

 本能的な危険察知能力を正確さを格段にしたような感じだ。とりあえず、相手の次の行動を読み取ることができる。


 


「「「「グルルルル……」」」」

「なっ!? いつの間に!?」

 

 拙い。どうやら練習している内に囲まれていたようだ。犬型魔物が四匹こちらを見て涎を垂らしている。

 アクアをローブのフード部分に入れ、ナイフを逆手に構えた。

 相手も戦闘態勢に入ったようで、唸り声を出しながら重心を低くする。

 

「ガアッ!」

 

 一匹が先に飛び出してきたため、動作予知を発動してナイフを軌道上に置く。

 先程と同じ戦闘方法だが、今のところこれしか有効な手段がない。予知通り飛びかかってきた奴は真っ二つ。

 しかし、本格的に俺を敵と認識したのか、他の三匹は連携をとりながら襲い掛かってきた。

 

「ぐっ! くそったれ!!」


 足に噛みついてきた一匹をもう片方の足で蹴り飛ばし、さらに頭に噛みつこうとしてきた一匹をかわす。

 だが、全力で二匹を振り払ったところを狙うかのように最後の一匹が首元に向かって飛びかかってくる。咄嗟に体を捻るが、肩に噛みつかれた。

 それを殴り飛ばすが、また二匹が襲い掛かってきた。左肩、右足の肉は食いちぎられ、かなりの痛みが走るが、歯を食いしばり耐える。


「「「「「グルルルル」」」」」


 そこへ更なる絶望がやってきた。俺たちが通ってきた通路から五匹の犬型魔物が出てきたのだ。 

 口元には血がついている。どうやらあの死体を食ってきたらしい。

 

「ハッ! 生憎と俺は諦めが悪いんだよ。てめえら全員ぶっ殺して俺が食ってやるよ!」


 全身が痛い。だが、負けるわけにはいかねえ。俺はここから生きて脱出するんだ。

 攻撃を必死に避けながら精神を落ち着かせ、『視る』ことに集中する。

 一斉に飛びかかってくる魔物をしゃがんで避け、それらの首にナイフを添え、切り裂く。鮮血の雨が体に降りそそぐが、おかまいなしだ。

 

 その場で前転し、下敷きになるのを防ぐ。しかし、その隙を狙って二匹が腕に噛みついてきたため、必死に振り払う。


 周囲を見渡すと、犬型魔物の集団は少し俺から距離を置いて、好機を狙っているようだった。

 既に俺の腕はボロボロ、先ほど噛みつかれたせいで腱が切れたらしく、腕をあげることは不可能。

 どうやら俺の脳は痛みを感じなくなるほどにおかしくなっているらしい。


 ようやくできた回復のチャンスなのに水が飲めないなんてな。もう無理みたいだ。俺は諦め、目を閉じた。


 ぴょん。ぴかっ。

 

 俺が目を閉じたその瞬間、ローブのフード部分からアクアが飛び出した。

 直後、目を閉じていても網膜が焼かれそうなほどの光が放たれた。


 目を開けると、魔物たちは暴れ狂っていた。どうやら、さきほどの光を直視したらしい。


 ぺちっ。ぺちっ。ぷるぷる。


 見ると、アクアがこちらを向いてまるで誘導するかのように体を揺すっていた。

 俺は朦朧とする意識の中、ナイフを握りしめ、アクアについていく。


 アクアについていった先は小部屋のような空間だった。入った瞬間、俺は全身から力が抜けてそのまま仰向けに倒れこんだ。


 入口を見ると、犬型魔物たちが吠えながらこちらへ突っ込んでこようとするが、なぜか入れなくなっているらしい。


 その光景にどこか安心した俺はそのまま遠のいていく意識を手放した。



誤字、脱字等ありましたらご指摘ください。

また、悪い点を教えていただけたら嬉しいです。

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