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軍事会議

 八雲たちが魔王城に来てから、一か月が経った。

 現在、城内の会議室では、近々起こるアルス王国との戦争のための軍事会議が開かれている。

 

 参加者は、魔王軍各部隊の代表たちだ。八雲やアリスは遊撃隊に編成され、前線で戦う人員として登録されている。

 壇上に置かれたアルス大陸とカルマ大陸が描かれた地図を五人のメンバーが囲んでいる。

 

 魔王であるリサーナ、軍の指揮を任されているザイク、ザイクの補佐を務めるクルト。さらに、遊撃隊の隊長である麗華、魔法部隊を指揮するアルカナである。

 ザイクとクルトは二週間前に戻ってきたばかりだが、リサーナによって軍団長などの役職に任じられたのだ。


「アルス軍は境界島に拠点を置いたという情報が入ってきておる。妾の使い魔からの伝令じゃ」

「となると、俺たちはウィンドラに拠点を立てるしかないな。そこで勇者たちを食い止めないと、多くの命が奪われる可能性が高い」


 ザイクたちがカルマ大陸に来て、初めて入った町がウィンドラである。カルマ大陸最東端であるウィンドラには、現在、緑嵐竜ウィンブラストがいるため、そうやすやすと突破されることはないだろう。

 しかし、ザイクたちが知っているのは約半年前の勇者たちであるため、現在の勇者たちがどれほどの戦闘力を持つかは計り知れない。これが、唯一の不安要素である。


「食い止めるといっても、俺たちの実力とあっちの実力が拮抗しているかどうかわからないっすよ」

「だからこその遊撃隊じゃ。八雲やアリスの戦力があれば、勇者たちを抑えることくらい余裕じゃろう?」


 リサーナが麗華に問う。

 遊撃隊は実力重視の部隊であり、全軍の死傷者を減らすために、最前線で戦うことになっている。


「おそらく。ですが、団長さんやクルトさんのような敵がいた場合、負ける可能性もあります。アルカナさんくらいの実力者が数人いた場合は、負ける可能性の方が高いかと」


 顎に手を当てて、麗華はザイクとクルト、そして隣にいるアルカナに目を向ける。

 カウンターを得意とするザイクは、約一か月の修行によって技をさらに磨き上げている。構えに気づかないままにザイクの懐へと飛び込めば、その鍛え抜かれた肉体から放たれる居合によって、敵は即座に両断されるだろう。


 また、クルトはアルカナによって魔力の操作を教え込まれている。今のクルトの幻術を受けて立ち上がり続けるのは、八雲でも困難だ。さらに、弓の名手でもあるクルトの矢は、幻術を纏わせることによって、相手を攪乱させる効果をも持つ。

 

 この二人のような、ひとつの技、魔法に特化した者がいた場合、敵軍の戦力は格段に増幅する。そうなれば、それぞれが人間よりも高い能力を有する魔王軍といえども敗北に喫する可能性が高まるだろう。


「麗華ちゃんってば、ボクのこと買いかぶりすぎだよ。ボクはそんなに強くないよ?」


 悪戯っぽく笑ってみせたのはアルカナである。アルカナは魔法において右に出る者はいないと言われている。

 しかし、彼女は自身を魔法使いではなく、“魔力使い”と称する。それは、彼女が魔力の扱いに長けていることと、聖属性以外すべての属性を使役できることに所以する。

 

 アルカナは先の手合せで、八雲を破っている。八雲はなにもできずに、アルカナの術に倒れたのだ。

 術とは、魔術というより、“話術”である。

 

 巧みな話術で注意を逸らしつつ、言葉に練り合わせた魔力を八雲に流し込み、合図で魔力を拡散。八雲の脳から出る電気信号を妨害したのだ。

 結果、八雲は身動きが取れず、ナイフを首に添えられた。完敗だった。


「いえ、アルカナさんとまではいかなくとも、魔力の扱いに長けた人物は勇者メンバーに居ました」

「へぇ……面白いね、その子」


 怪しげな笑みがアルカナの頬に浮かび、そして、狡猾な狐を思わせる鋭い眼光が窓の外へと向けられる。

 だが、アルカナは地図に視線を移すと、


「ま、大丈夫じゃない? 八雲のことはボクが鍛えてるからね」


 と、飄々とした態度を取った。


 表面上では親しく振る舞っているが、麗華にとってアルカナは要注意の対象だ。アルカナのあどけない笑顔や言動に、八雲や他の面々は懐柔されているが、時折見せる表情は、ぞっとするほどに冷たい。

 

 過去になにかあったのか、と訊いても、のらりくらりと躱される。

 つまるところ、柳に風なのだ。

 

「勇者たちはかなりの戦力じゃな……どうする、ザイクよ?」

「魔王さんよ、たしかカルマ大陸の各地に転移魔法陣を設置したと言ってたよな。それ、どこにある?」

「正確には、五箇所じゃ。最東端のウィンドラ、最西端のルカ、最北端のノーザン、最南端のサウザス、そしてここ、魔王城じゃな」

「なら、とりあえず大丈夫だろう。ウィンドラに拠点を置き、他地域でなにか起こったら、転移魔法陣で駆けつければいい」


 ノーザンはレフリ山脈よりも北方、永久凍土に位置する町だ。大地は氷に覆われ、草木一本生えない。

 その代わり、生息する魔物の種類が豊富で、それらの魔物から得られる毛皮などは高級品として重宝されている。


 反対に、サウザスはディズリー砂漠よりも南方、灼熱の大地に悩まされる町である。干ばつがひどく、基本的に農作物は育たない。

 そのため、オアシスが枯渇するたび、次のオアシスを求めて町ごと移動するのだ。


 これらの二か所は、まず襲われることがないだろう。厳しい環境の土地を侵攻する可能性は極めて低い。

 

「なら、すぐにでもウィンドラに拠点を構えて、住民の退去を促しましょう。敵軍がいつ攻めてくるかはわかりませんし、すぐにでも対応ができるようにしておかないと」

「麗華さんの言うとおりっす。住民の避難を迅速に、かつ、魔法による攻撃の対策を立てるべきっすよ。あっちには高威力の遠距離魔法を使える勇者たちだっているんすから」 

 

 麗華とクルトの意見は一致していた。

 住民の移住先としては、魔王城の城下町郊外に設立した仮設の住宅、さらに、リオルドやルカなどにも仮設の住宅が用意されている。


「そうだな。魔王さん、頼めるか?」

「今日の午後にでも勧告しよう。妾が直接行けば住民たちも少しは安心するはずじゃ」

「次、アルカナ。魔法部隊をウィンドラに常駐させてくれ。特に魔力感知能力の高い人員を海岸線に置いてほしい」

「んー、感知はボクだけで充分だね。魔法部隊は二十人を置いておこうか。ウィンドラに比べたら少ないけれど、他の地域にも人員を割きたい」

 

 アルカナが部隊長を務める魔法部隊は、約五十人の精鋭で編成されている。

 それぞれが勇者に匹敵する魔力量と技量を有していると言われていて、過去には赤焔竜と同等の強さを誇ると噂された魔物を討伐したこともある。


「ルカ方面は安全だろう。なんせ、アルス大陸からの道がないからな。海は『魔の霧』によって防がれている」

「『魔の霧』?」


 麗華には聞き覚えのない単語だった。

 『魔の霧』というのは、アルス大陸の最東端と、カルマ大陸の最西端の狭間にある海峡一帯を指している。

 霧の中で船を進めていくと、いつの間にか後退している、という実話から『魔の霧』と名付けられているのだ。


「あれ、幻術の一種っすよ。俺の“拒絶の霧リジェクション・ミスト”の広範囲版みたいなもんっすね」

「そ、あれは幻術だね。人工的に張られた結界みたいなもんさ」


 アルカナが得意げにクルトに同調する。


「師匠、わかるんすか!?」

「あ、ああ。予想だよ、予想。じゃなかったら、霧がずっと晴れないなんてあり得ないからね」

 

 アルカナの言動に、麗華は眉をひそめた。

 一瞬、アルカナの瞳が揺らいだのだ。いつも飄々とした態度を取っているアルカナが、言葉を詰まらせるなど、珍しいどころの話ではない。


 が、アルカナは視線を感じたのか、麗華に笑いかけ、


「どうしたの? 顔がこわばってるけど、もしかして緊張しちゃってるのかな?」

「緊張なんてしてないわ。むしろ、私の力を発揮する機会を得られて歓喜しているくらいだもの」


 平静を装って、髪をかきあげ、麗華はアルカナを見つめ返す。

 が、それは逆効果だったらしい。アルカナは目を細めたのち、唇に微笑を含ませた。


「ふふ、お仲間だった勇者たちを殺すかもしれないのに? なかなかひどい子だったんだね、麗華ちゃんは」


 侮蔑の混じった発言に、麗華は目を剥いてアルカナの胸ぐらを掴んだ。 


「ちょっ! 麗華さんっ!」


 制止しようとしたクルトの手を振り払い、麗華は魔法陣を展開。いつでも“水氷槍(アイシクルスピア)”を射出できる状態だ。

 

「私がっ……どんな気持ちでここにいると思っているの……っ!」

「あはっ、『歓喜』してるんじゃなかったの?」


 怒りを露わにした麗華にも、アルカナは冷笑を浮かべている。

 とそのとき、


「アルカナ! こんなときくらい、ひとを茶化すのはよさんか。麗華には麗華なりの覚悟がある。おぬしが口を出すことではない」


 麗華とアルカナの間に割って入ったのは、リサーナだった。

 引き離された麗華は、アルカナを睨み付けながら、渋々待機状態を解除して魔法陣を消去する。


「ちぇっ、リサーナがそういうなら仕方ないか。悪かったね麗華ちゃん、謝るよ」


 主君であるリサーナの命令には、アルカナも従うほかない。

 が、「納得はしていない」とでも言うかのように、アルカナは双眸を細めて麗華を見据える。


「でもね、麗華ちゃん。これは戦争だ。君がお仲間だった勇者を殺すことを躊躇することで、いくつもの命が奪われることになるんだ。君はそれを理解していても、きっと殺せない。もしそうなったときは、ボクが君ごと勇者どもを殺す」


 アルカナは本気だった。なにより、射抜くような鋭い眼光が、アルカナの決意を雄弁に語っている。

 その鋭利さに、麗華は戦慄を覚えた。アルカナという少女の裡に秘められた覚悟は、麗華の非ではないように思えた。


「ザイク、クルト。これは君たちにも言えることだ。躊躇った瞬間が最期だと思いなよ」


 そう告げたきり、アルカナは会議室を後にした。

 残された四人の間には不穏な空気が流れている。


 麗華とザイク、クルトには、それぞれ仲間だった者たちへの想いがある。

 そして、リサーナには自国の民を護りたいという強い想いがあるのだ。


「私たちは、勇者たちを殺してでも食い止めるわ。それが魔王としての責任であり、私個人としての決意。私ひとりの命で何十人もの命を救えるのなら、この身を刺し違えてでも、勇者を殺してみせる」


 真っ直ぐで、力強いリサーナの瞳からは、彼女の想いの強さが窺えた。


「それが、私の覚悟よ」


 その一言を残して、リサーナも会議室を出た。



 ザイク、クルト、麗華、三人とも無言のまま、時間だけが刻々と過ぎていく。

 麗華は、頭の中でアルカナとリサーナの言葉を反芻していた。


 彼女らの言っていることは理解できる。が、感情がそれを許さない。

 聖也たちと戦わなければいけないことを、麗華は他の誰よりも理解している。理解しているが、認めたくない。


 麗華の中では、理性と感情との間に一枚の壁があるのだ。

 誰よりも痛感している。避けられない事態なのだと。

 誰よりも自覚している。自分たちが止めなければならないと。


 だが、嫌なのだ。

 今まで過ごしてきたクラスメイトたちと戦うのは嫌なのだ。説明したところで、きっと聖也たちが信じてくれないことは予測している。

 けれど、それでも、麗華は戦いたくないのだ。

 

 誰よりも痛感しているがゆえに、誰よりも自覚しているがゆえに。


 打開できない現状に麗華が歯噛みしていたそのとき、ザイクが重々しく口を開いた。


「俺たちにも、責任がある。クルト、俺たちは麗華たちを勝手に呼び出し、勝手に戦争をさせようとしていた」

「…………」

「それだけじゃねえ。まず、俺たちは根本から間違ってたんだ。会ったこともねえ魔人を敵だと認識し、滅ぼそうとしていた。たしかにそれは小さいころから教え込まれたことだったし、仕方のねえことだったかもしれん」

「…………わかってる」 

 

 クルトの握りしめた拳と噛みしめた唇からは血がにじみ出ていた。

 

「だが、俺たちは魔人のことを知ろうともせずに剣を向けた。おそらく、まだアルスにいたら、俺たちは嬉々としてカルマ大陸に侵攻するだろうな」

「でもっ、あいつらだって説得すればわかってくれるかもしれないっ! 俺たちが剣を交えずに済む方法があるかもしれない!」


 ザイクは黙って、クルトの叫びを聞いていた。

 ザイクの拳からもまた、血が出ていた。剛健な肉体はがっしりと構えているようだが、その実、誰にも気づかれないほど、微弱に震えていた。

 

「……いいや、ない。あいつらは俺たちを敵とみなすはずだ。きっとあいつらの中では、俺たちは死んだことにされている。『死体を利用して、動揺させようとしている』なんて文句をつけりゃあ、俺たちは敵にしか見えないだろうよ」

「だけどっ! 時間をかければわかってくれる! 絶対、わかりあえるはずなんだ!」

「……クルト、腹ぁ決めろ。わかりあえるなんて、嘘だ。てめえだって、わかってるはずだぞ。もう、戦う道しか俺たちには残されてねえってことくらいよ」


 ザイクは、静かに、けれど、荒々しく、クルトの頭に手をおいた。

 

 その瞬間、クルトの目が見開かれ、その視線はザイクを捉えた。

 ザイクの瞳は、わずかに潤んでいた。


「……ただ、俺はあいつらともう一度だけでも、もう一度だけでも、馬鹿騒ぎしたかったんだっ……」

「ああ、わかってる。俺も同じだ……」


 大理石の床に、ぽた、ぽたと、クルトの頬から雫が滴り落ちていく。

 


 眼前の光景に、麗華はなぜか強い苛立ちを覚えて、会議室を後にした。

 いや、「なぜか」ではない。理由はわかりきっていた。


 同族嫌悪。つまり、麗華はクルトに自身の姿を投影していたのだ。


 麗華も、薄々感じてはいる。

 もう自分と聖也たちに和解の道が残されていないということを、麗華は心の片隅で密かに悟っている。


「わたしだって、わかってるわよ……っ」


 長い廊下を歩きながら、麗華は喘いだ。


 ずっと、一緒に過ごしてきたのだ。

 恋慕に近い感情。いうなれば、家族愛のようなものを、麗華は胸中に持ち続けていたのだ。


 麗華、愛華、拓哉、聖也は幼馴染なのだ。

 彼女らは、人生のほとんどをともに過ごしてきた、かけがえのない仲間であり、大切な友達であり、家族であったのだ。


 それが今や、三人と一人とに分かれてしまった。

 聖也はきっと、今でも麗華たちを想い、悔やみ、涙を流しているのだろう。

 聖也はきっと、自分自身を憎んでいるのだろう。麗華たちと別行動するという道を選んだ自分自身を。


 しかしそれは、聖也だけの責任ではないのだ。


「わたしが無理矢理でも聖也を連れてきていればっ……」


 麗華は歩きながら、頬を掻いた。赤く、爪の跡が残る。


 聖也が八雲になにかしら負の感情を抱いていることは気づいていた。

 そして、こちらの世界に来てから、聖也が強大な力に溺れていることにも、気づいていた。


 それなのに、聖也を見放したのだ。

 それは、八雲を落としたのが聖也だったから、という理由からだった。


 好意を抱いている相手を殺したも同然の人物だ、避けてもおかしくはなかっただろう。 

 だが、あのときの聖也は明らかに異常だった。力に溺れ、人の命を簡単に奪うような、異常性を持っていた。

 それに気づいていて、聖也を見放したのだ。


 後悔に歯を食いしばりながら、麗華はひたすらに廊下を歩いた。


「……麗華」


 突然呼び止められる。

 何度も耳にした声。


「……拓哉」


 拓哉が、壁際に座り込んでいた。

 八雲との特訓を終えたあとだったのだろう、拓哉のやや明るい茶髪には、汗が滴っている。


「お前さ、ひとりでふさぎ込んでんじゃねえよ」

「……ふさぎ込んでなんか、いないもの」

「知ってるか? お前って、後悔してるときはいつも早歩きだし、頬に赤い跡ができるんだ」

「……ほうっておいて」

 

 麗華が俯いて唇を噛む。

 拓哉は屈んで麗華の顔を覗き込み、 


「不安そうな顔してるやつを、ほっとくわけねえだろ。馬鹿か」

「……馬鹿はあなたじゃないの。どうして私が不安だなんてわかるのかしら」


 すると拓哉ははにかんで、


「幼馴染だからに決まってんだろ? お前ら以外の女子の不安顔も見抜けてたら、今頃俺はモテモテだよ」

「……やっぱり馬鹿じゃない」


 再び歩き出そうとする麗華の手を掴み、拓哉は半ば強引に引き寄せた。

 華奢な麗華が拓哉の腕力に勝てるはずもなく、麗華は拓哉に抱き留められた。


「不安なのはお前だけじゃない。俺だって、聖也たちとは戦いたくない。だけど、俺たちは戦うしかねえんだ」


 と、拓哉は麗華を離して、がっしりと肩を掴んだ。


「聖也の野郎をぶっとばしてよ、正気に戻してやんのも俺たち幼馴染の役目ってもんだろ?」


 そう言うと拓哉は麗華の頬を両手で叩く。パチンッ、という軽快な音とともに、麗華の頬が真っ赤になる。

 突然のことに驚いて、麗華は声も出せなかった。


「ひっかき傷が愛華に見られたら大変だからな。上書きだ!」

 

 悪びれることもなく快活に笑う拓哉を見て、麗華の頬にじわりじわりと痛みが増してきた。

 

「ったく、世話のかかる幼馴染だ。それにしても、抱きしめても全然ドキドキしなかったな」

「私だってドキっとしなかったわよ」

「幼馴染だからなのか、それとも単に女性としての魅力が足りないのか……うん、麗華は後者だな」

「失礼ねっ!」

 

 拓哉の小言への恨みと、感謝を込めて、麗華は拓哉の頬を平手打ちして、踵を返した。


「いってぇ……」

 

 打たれた頬をさすりつつ、「理不尽だ……」とぼやきながら、拓哉は先を行く麗華を追従する。

 麗華の平手打ちは、恨みが八割、感謝が二割である。確かに理不尽であるが、この場合、拓哉の発言の方が悪い。

 

「やっぱり、小さいのかしら……」 

 

 時折、自身の薄い胸に手を当てつつ、麗華はすたすたと拓哉よりも速く歩く。

 感謝と嬉しさに緩んだ頬を、大切な幼馴染に見られないように。



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