ステータス
今回も稚拙な文章ですが、よろしくお願いします。
「————くん!」
人が気持ちよく寝ているというのに誰だ? なんで俺を起こそうとするんだよ……。
「————八雲くん!」
再び、鈴のなるような声が聞こえた。
何度も耳に入るその声に多少の苛立ちを感じながらも、俺は起きることにした。
「……はいはい、なんでしょうか?」
「よかった! 目を覚まさないかと思っちゃったよ……」
「おいおい、なんで泣いてるん————ここはどこだ?」
周囲を見たところ、クラスメイトは全員覚醒していた。しかし、ここは教室ではない。頭上には豪華なシャンデリア。鮮やかに彩られたステンドグラス。かなり大きなパイプオルガン。
まるでヨーロッパの大聖堂を思わせる作りだ。シャンデリアの蝋燭に火はついていないが、もし火をつけたのならその火は爛々と揺れ輝くだろう。ステンドグラスから入ってくる光は、自身に多彩な色をつけながら俺たちを照らしている。パイプオルガンは俺たちの身長の何倍もの大きさを誇り、その頂点はこの部屋の天井まで届きそうだ。
この空間について考察していると、後方の扉が勢いよく開け放たれた。
「おお、成功じゃ! 勇者様方が降臨なさったぞ!」
ドタドタという足音の後、後方の大きな扉から数十人のローブ姿の人間がやってきた。成功、勇者、降臨、……その単語を連結させていくと、俺の脳は一つの推論に辿り着いた。
しかし、そんな俺の推論は合否判定されず、その代わりに、爽やかな声が室内に響いた。こんな状況でもイケメンはその爽やかさを失わないのか。
「すみませんが、ここはどこですか?」
呆然としていた俺たちを代表して東條がローブ姿の老人に質問を投げかけた。
クラスメイトのほとんどは震えている。恐怖が拭いきれずに涙するもの、とりあえずの生存に安堵するもの、その他にも、冷静にこの状況を分析しているものや少し興奮気味のものもいる。
かくいう俺も、手が震えている。考察をしていたのだって、恐怖を少しでも和らげるためだ。他のことを考えていれば人間は目の前のことを一時的に忘れることだってできる。
「すみませぬ、勇者様方。我々と共に謁見の間に来てくだされ。謁見の間にて全ての質問に答えさせていただきますゆえ」
紫色のローブを着た老人が一歩前に出て質問に答えた。いや、答えたのではなく、答えを引き延ばした、というほうが正しいだろう。それにしても、紫のローブか。他は黒のローブであることから察するに、この老人が一番上の立場なのだろう。紫というのは特別な色だからな。紫衣事件というもので出てくる紫衣は僧にとって素晴らしい名誉らしいからな。
くだらない薀蓄を心中で語っていると、男子生徒の二人が老人に食い掛かった。中田と相馬だ。
「ふざけんじゃねえよ! ここはどこなんだよ!」
「そうだよ! ここで教えろよ!」
中田と相馬は相変わらずの煩さだ。今この状況において優位な立場にあるのはあっちの方だということにも気づいていないのだろうか。
喧しく騒いでいる馬鹿二人の肩を北條が掴んだ。
「中田、相馬、今はやめろ」
「すまないがみんな、この人たちに一旦ついて行こう! 不安なのはみんな一緒だ。でも全員いればきっと、いや、絶対に何とかなるさ!」
さすが、といったところだろう。力のある北條に中田たちを黙らせ、カリスマのある東條がみんなを導く。これならば反抗したくともできないし、する気もなくなる。北條か……まぁいいやつなんだけどな。
東條が全員をまとめたことにほっとしたのか、老人は深く息を吐いた。
「ご協力感謝致します。では、ついて来てくだされ」
老人とその取り巻きが歩き出したため、俺たちもそれに追従していく。
隣にいる西條は不安そうな顔をしていて、そのまた隣を歩く南條は真剣そうな面持ちだ。
聖堂のような場所を抜け、長い廊下を歩いた後、俺たちは謁見の間と呼ばれている部屋に着いた。
豪華なシャンデリア、煌びやかな調度品の数々。まさしく王城とよべるような部屋だ。中には王様と思しき人物とその側近がいる。国王は赤い外套を羽織っており、その手には綺麗な宝石のはめ込まれた杖を持っている。側近は黒いローブに身を包んだ上に、フードを深くかぶっているため、その顔は窺えない。また、その付近には護衛と思しき騎士が多数おり、それらは銀色の甲冑に身を包んでいる。その厨二感あふれる立ち居振る舞いと装備に、俺は少しの感動と羨望を覚えた。
俺の感想もつかの間、国王らしき男性が立ち上がった。おそらく五十代であろうその男性は、茶色いひげをその口元に蓄えている。
「勇者よ、よくぞこのアルスへと参った! 説明は食事のあとじゃ。まずは腹を満たさねばな」
「ささ、勇者様方。こちらへどうぞ」
メイドさんに勧められるがままに各自席に着かされ、美味しい食事をいただいた。飯もかなり旨かったが、それよりメイドさんが綺麗で俺の目は釘付けになってしまった。
他の男子生徒諸君もメイドさんに見とれていたが、その一方で女子生徒の視線は冷たかった。特に西條と南條。マジで怖かった……。もう氷河期。底冷えするような視線だったよ、本当に。
とまぁ、こんな感じで食事が終わるころには俺たちの緊張やら不安やらは緩和されていた。全員、硬かった表情を少し柔らかいものにさせている。
「さて、食事も終わったことだ。説明を始めるとしよう。アルバ、お主から説明せよ」
「はい、では私から」
国王が再び立ち上がり、アルバと呼ばれた老人に説明をさせた。さきほど俺たちを案内してくれた紫ローブの老人だ。
「この世界には…………」
説明が終わると、クラスメイト達の表情は真剣なものになっていた。西條はその瞳に涙を浮かばせながら肩を震わせ、南條は真剣な顔のままだがその足は小刻みに震えている。
二人が不安を感じるほどに、その内容は深刻なものだった。
まず、この世界は人間界であるアルス大陸と魔界であるカルマ大陸の二大陸からできている。
約五百年ほど前に人魔戦争が勃発し、初代勇者と魔王が相撃ちとなって戦争が一時終結したらしいが、近年魔界の勢力が再び力を付けてきていたのだとか。
本来、勇者召喚は人の手では行えないのだが、神のお告げによって今回成功することができた。そこで、俺たちにはテンプレ通り魔王を滅ぼして欲しいとのことである。
何とも勝手な話だ。俺だってこういう妄想をしてワクワクしたことがないわけではないが、それが現実となると話は別だ。
俺は死にたくないし、元の世界に帰りたいという気持ちがあるのだ。俺に両親はいないが、大好きなじいちゃんとばあちゃんがいる。
「帰る方法はないのでしょうか?」
思い切って質問してみた。俺の問いに答えたのは老人ではなく国王だった。彼は申し訳なさそうな顔をしている。
「方法は一つだけある。魔王が所持しているという魔法具を使う方法だ。それ以外の方法については知らぬ。すまない……」
「俺たちの強さで魔王に対抗することはできるのでしょうか?」
「それはこれからの訓練次第、としか言えぬ。しかし、勇者召喚された者は常人の三倍のステータスを有すると聞く。我らの勝手な都合ですまぬが、力を貸してくれ! 国民を守るためなのだ!」
そう言って国王は俺たちに対し頭を下げた。頼み込まれるのは、正直意外だった。権力を盾に俺たちをこき使うかとも思ったのだが、それはないようだ。
しかし……本当に信じられるのだろうか。嘘はついていないとは言いきれない。胸の内に生じた疑念の声は、次の瞬間には東條の掛け声にかき消された。
「王様! 俺たちはあなたたちを見捨てたりはしません! 魔王のことはいつか俺たちが倒します!」
「俺たちが魔族を滅ぼしてやるよ! なあみんな!」
東條のどこか自信に満ち溢れた宣言に、中田が調子よく同調する。それに触発された男子生徒も、東條に同意を示した。
「もちろんだ!」
「困っている人を見捨てるわけにはいかねえしな!」
さすがカリスマ、人を纏めるのが上手い。まさか俺以外のほぼ全員が同意とは。言わずもがな、同意していないのは俺と西條と南條だった。
しかし、何も見えていない。戦争はゲームでは無い。殺し合いなのだ。死の危険と隣り合わせということを自覚できていない。戦争を経験したこともない俺が言うのはおかしいがな。
「感謝するぞ、では早速訓練を」
クラス全員で魔王討伐か。なんで俺まで巻き込まれてるんだよ。まぁ、死にたくはないから訓練には参加しておくけれど。
そんな思いを抱きながら、俺たちは別の部屋へと向かった。
まず、先ほどと同じようにアルバさんから魔族についての説明と魔法の使用方法の講義を受けた。
魔族とは一般的に魔人と魔物に分類されるらしい。魔人は高い知能を持った魔物らしく、魔物は魔力の溜まった場所で生まれる生物だそうだ。
さらに、洞窟などに魔力が溜まりすぎると所謂ダンジョンが構築されるらしい。ダンジョンというのは洞窟が一般的ではあるが、その実、魔力が溜まっている場所ならばそれだけでもダンジョンにはなり得ると言う。
次に俺たちはステータスカードと呼ばれる一種の身分証をもらい、戦闘能力を測ることとなった。見た目的には免許証と変わらない大きさ。何の素材でできているのかは知らないが、金属であることは確かだ。
訓練場と言われた中庭に出る。そこにはすでに騎士団の人たちがいて、こちらを物珍しそうに見ている。やはり、勇者として召喚されたからだろうか。
「よく来てくれたな、俺は王国騎士団団長を務めているザイクだ。お前たちの実戦訓練を担当することになっている。よろしくな!」
団長さんは筋骨隆々のマッチョマンだった。脳筋タイプかと思ったが、さすがに団長が筋肉バカの筈がない。
この人の威圧は半端じゃない。ガハハハハと笑いそうなタイプに見えるし。何より強そうだ。青いマントを風になびかせているその様は、まるで歴戦の戦士だ。いや、実際そうなのだろうけど。
「まずは配ったステータスカードの中央部分に血をつけた親指をくっつけてくれ。それでお前らのステータスが表示される。ちなみに一般人は全て10程度が平均だ。確認が終わったら俺に見せに来てくれ」
言われたとおりに中央部分の魔法陣に血をつけた親指を押し付けてみると確かに文字が浮かび上がってきた。日本語で書いてあるのは不思議だが……。このカードには翻訳機能でもついているのだろう。
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服部八雲 18歳 男
レベル :1
生命力 :10
筋力 :10
魔力 :5000
敏捷 :10
魔法適性:なし
称号:神に呪われし者、悪霊の加護、災いを呼ぶ者
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その表示されたステータスの数値に、俺は愕然とした。魔力以外は一般人。突出して魔力はすごいのに魔法適性ないとか絶望的だ。
しかも称号が酷すぎる。神に呪われるとか死あるのみとしか思えない。それに加えて悪霊の加護とは何ぞや。それもう加護じゃなくて呪いだから……。
「団長さん、俺のはいいほうなんでしょうか?」
最初に報告に行ったのは東條だった。あいつはかなり強そうだ。
何てったってクラスの中心、イケメン、スポーツ万能、成績優秀……嫌味なやつめ。
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東條聖也 18歳 男
レベル :1
生命力 :120
筋力 :120
魔力 :120
敏捷 :120
魔法適性:火属性、水属性、風属性、土属性
木属性、光属性、補助魔法
称号 :勇者の卵、神に愛されし者、精霊の加護
幸福を呼ぶ者
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それを見た周囲からは感嘆の溜息が漏れた。はっきり言って、化け物だろう! 俺は魔力で圧倒的に勝ってはいるが、魔法適性がない。その点、こいつは魔法適性がほとんどある。
まあ闇属性は魔族の専売特許らしいから持っている筈がない。しかし、称号も俺と全く真逆とは。しかも勇者の卵か、凄すぎる。
悔しさを必死に宥めていると、ザイク団長による高評価の声が聞こえた。
「かなりいいじゃないか! レベル1でステータス全て100超えなんてとんでもないぞ! しかも魔法適性も多いし、称号も素晴らしい」
「そうなんですか? なんか照れますね」
お前の照れなんかいらねえよ、誰得だよ、なんて言葉が口に出てしまいそうだ。それくらい気持ち悪かった。
それにしても東條は何をやらせても天才的だな。もうこいつに全部任せたい。ところで、他の奴らは俺と同じ一般人レベルだろうか。
「おお、聖也以外もステータス50超えじゃないか! 全員勇者の卵のようだしな。さすがは勇者召喚された奴らだ」
ここで、俺の精神にかなりのダメージが加えられた。衝撃的だった。他の奴らも、俺より断然に有能であり、強い。その事実が少しだけ俺の自尊心に傷をつけた。自尊心なんて特に大きいわけでもないのだが。
しかし俺は思った。あれ? このままだと拙いのでは、と。そこで俺は再びの逃亡を図った。こ、これは戦略的撤退なんだからね!
「あ、僕頭が痛いのでちょっと行ってきますね」
とっさの嘘とはいえ酷いクオリティだ。「ちょっと行ってきます」ってどこに行くんだ。そう言われてもおかしくないレベル。
全く、誰だよこんなくだらない嘘つくやつ。……俺か、なら仕方ない。俺だからな。
自分の低クオリティさになぜか納得した俺は、その場を離れようとしてそそくさと歩きはじめた。——が、防がれた。団長さんだ。
「待て待て、確か八雲といったな? 治癒魔法で治してもらうといい。幸い西條は治癒魔法に特化しているからな。簡単な初期魔法なら詠唱は不要だろう」
おっと、これは無理ゲー。どれくらい無理かっていうと、町の名前しか教えてくれないNPCに違う言葉を言わせるくらい。完全に詰み、王手、チェックメイト。ん? 王手は少し違うのか? まぁいいか。
って、そんなことはどうでもいい。とにかく、ここで提案を断っても不審に思われるだけだ。覚悟を決めろ、俺!
「あ、あはは。じゃ、じゃあお願いしようかな」
声が震えた。失敗。しかし、そんな俺の落胆など、西條は意に介さずに元気よく俺の手を握った。
「任せて八雲くん! 私初めてだけど、頑張るからね!」
周りから殺気を感じる。頬染めながらその台詞は完全にアウト。もうレッドカードですよ、男子数名がね。
特に中田。こいつ、西條のことが好きだったのだろうか? どうでもいいが、睨むのは止めて欲しい。
怨嗟の声が聞こえたり、嫉妬や憎悪の視線が俺へと向かう中、少し違った性質の視線を背後に感じた。振り向くと、そこには南條が立っていた。
……南條、お前は西條の母親なのか。そんな俺のツッコミは冴えていたと思う。実際、南條は微笑していて、その目はまるで慈愛の心を持って子供に接する聖母だった。
俺の手を握る強さが上がる。正面を向くと、なぜか西條が頬を膨らませていた。フグかと思うほどの頬を両手で勢いよく挟み込みたい欲求に駆られるが、そんなことはできない。
特に何も言わないでいたところ、西條は俺の手を放した。
「じゃあいくよ。“精霊の恵み”」
西條が呪文を唱えると体が暖かいものに包まれる感覚がした。
思考がリラックスしていく。なるほど、治癒魔法というのはこんな感じを味わえるのか。俺も使えたらよかったのに。
「さすがは愛華ね。癒し系は伊達じゃないわ」
「そんなことないよ麗華ちゃん。八雲くん、どう? 治った?」
「ああ、ありがとな西條。助かったよ」
確かに嫉妬の目線と殺気による頭痛は一時的になくなりました。でも、その治癒魔法のおかげで新たな頭痛の種が発芽しちゃったのもまた事実……。
項垂れた俺を見て、西條と南條はそろって小首を傾げた。まるで姉妹だな、などと内心で苦笑していると、ザイク団長が近づいてきた。
「よし、じゃあ八雲。ステータスカードを見せてみろ」
「は、はい……。どうぞ……」
俺はステータスカードを差し出した。今の状況を表すのなら、「さようなら僕の安穏、こんにちは僕の争乱」と言ったところだろう。
受け取った俺のステータスカードを見て、団長さんは驚愕したようだった。
「な、なんだこれは!? おい八雲、これはどういうことだ!」
「僕が知っているわけないじゃないですか……」
こっちが聞きたいくらいだ。俺一般人なのに。なんで魔法適性ないのかわからないし、魔力は無駄に多いし。
愚痴をこぼしたいのだが、それもできない。
「どうしたんだよ服部。まさかお前一番弱いんじゃないのか?」
「あ、こら仁! 勝手にとるな!」
中田がザイク団長の手からステータスカードをひったくった。
そして、それを見て甲高い笑い声を上げる。気色が悪い。
「……ヒャハハハハ! おい服部、お前一番弱いじゃねーか! 魔力があっても使えないんじゃどうしようもないもんなあ?」
「……別にいいだろ。返してくれよ」
「ほらよ、こんな価値のないやつのステータスなんて見ても面白くも何ともねえからな。さっさと死んだほうがいいんじゃねえの? 雑魚!」
本当に面倒な奴だ。何でそんなに俺に絡むんだ。やはり、自己顕示欲だろうか。西條や他の女子に少しでも自分の強いところを見せたいのかもしれない。そのための比較材料として、俺を選んだということか。なんせ、俺はクラスメイトのほとんどに嫌われているからな。俺が絡まれているところを見たところで、そいつらは何も思わない。それどころか、歓喜するかもしれない。
「中田くん! そういうこと言うのは良くないと思うよ!」
「私も愛華と同意見よ。人を見下す行為は最低だと思うわ」
西條と南條は本当に優しい。ただ、この二人も俺より強いんだろうな、と思うとなんだか複雑な気分だ。
「団長? どうしたんですか?」
「あ、ああ、すまない。次は職業鑑定だ。一人ずつこの水晶に手を翳していってくれ。水晶がお前らに合った職業を教えてくれる」
ザイク団長は東條に話しかけられてから八ッとして、動揺の色を見せながら俺たちに次のことを説明した。
それにしても、今度は職業か。本当にテンプレだな。次こそはマシなものだといいのだが。商人とか商人とか商人とかな。商人になって金を稼ぎまくってやろう。将来安泰、俺万歳!
「水晶が職業を推奨……。ふふふふ」
……南條の声でつまらないダジャレが聞こえた気がするが、平和のために無視しておく。彼女の隣に立っている西條は何も言えずに苦笑しているばかりだ。触らぬ神に祟りなし、というやつだ。
西條からスタートした職業鑑定は何の心配も無く進んできた。西條はやはり治癒士で、南條は槍使い、北條は武闘家、とだいたい予想通りだった。
中田が剣士だったのは意外だ。あいつは絡み屋とかやってればいいのに。何の職業かは知らん。ただ絡むだけ……みたいな。触手でいいよもう。べ、別に職種と触手をかけたとかそんなんじゃないんだからねっ!
結論、俺も南條と同じだった。たぶん、今の洒落を言ったら南條は笑い死ぬと思う。
「よし、次は聖也だ。どんな職業だろうな。むむ? ……なんと! 聖也、お前に合った職業は勇者だ!」
「本当ですか!? なら俺は必ず魔王を打ち倒してみせます。俺がみんなの希望の光になってみせます!」
「その意気だ! 期待しているぞ!」
途端に女子どもの黄色い声があがり、男子の尊敬の眼差しが東條に向けられている。それもそうか、クラスの中心人物が勇者なんだから。もし俺が勇者に選ばれたとしたら、全員怒り狂うだろうしな。
というか、そんなものになって持ち上げられたら面倒だ。勝手に勇者でもなんでもやっててくれ。俺は平和に暮らしたい。ステータスが低いのは悔しいが、それで死ななくてすむのならそれでいい。
目を瞑って少々嫌味まじりに考えていると、とうとう俺の順番が来た。
「最後に、八雲。お前はどんな職業だろうな」
「きっと商人とかですよ。そっちの方が気が楽です。むしろ夢です!」
「ま、まあそう言うな。む? な、なんだと……!?」
団長の額に脂汗が滲み、顔が青ざめていく。何か問題でもあっただろうか。俺はただの一般人なんだから何の問題もないと思うんだが。
「団長、俺の職業はなんだったんですか?」
「お前のしょ、職業は、ま、魔王……だ」
その言葉に、俺は衝撃を受けた。俺は冷静を装って、団長の言葉を鼻で笑った。
「冗談はやめてください。俺はそんなことしませんよ」
団長の後ろへ回ると、そこには確かに魔王と表示されていた。
「嘘……だろ……」
絶望。それだけが俺の脳を満たし始める。魔王を討伐するのが目的なのに、俺が魔王……。
すなわち、俺はこの国の敵。全人類の敵、ということだ。それはまさしく絶望という言葉で形容すべきものだった。
「八雲、悪いがついて来てくれ。国王たちに相談せねばなるまい」
「わかり……ました」
青ざめたままゆっくりと歩き出す団長の後ろについて、謁見の間へと向かう。絶望的だ。最悪、俺は処分される可能性もある。
俺は魔王になんてならないと誓って王に許しを乞えば処分されずに済むか? いや、無理だろう。人っていうのは自分に害をもたらすものは徹底的に排除しようとするもんだ。
「八雲くん! どうしたの?」
「団長さん、服部くんを連れてどこへ?」
不思議に思ったのか、西條と南條がこちらへ駆け寄ってきた。
「……俺は八雲に少し用事があるだけだ。お前たちは団員と共に訓練していろ」
「大丈夫だよ、西條、南條。少し行ってくるだけだよ」
そう言って精一杯の笑顔を作るが、二人は俺に心配そうな目を送ってきた。
「すぐ戻るから心配するな。腹が痛いだけだからな」
そう言ってごまかす。その言葉は、俺自身にも暗示をかけているようにも思える。
俺は再び、謁見の間へと向かって歩き始めた。
※団長さんのとんでもないグロ発言を修正いたしました。