初雪
身震いする寒さで目を覚ました。
寝ぼけながら、無意識に毛布を手繰り寄せ、暖を取る。
カーテンの隙間から眩しい光が漏れている。
「さっぶぅ……」
私は毛布に包まりながら、カーテンを開けた。
カーテンを開けると、目の前には一面の銀世界が広がっており、私の目は一気に覚めた。
「シロ、見て。雪だよ」
私は足元で丸くなって眠っている、飼い犬のシロに話しかけた。
シロは眠たそうな目を開けて、小さな欠伸を一つし、私の下にとことこと近づいてきた。
私はシロを抱き上げ、窓の外に広がる銀世界を見せた。
「シロがうちに来て、もう一年だねえ」
「わんっ」
シロは小さな尻尾を千切れんばかりに振り、外の景色に喜んでいる様子だ。
一年前の丁度初雪が降った頃、私とシロは出会った。
その時も、今日のように辺り一面が銀世界になっていた。
私は雪が嬉しくて、誰よりも早く雪を独り占めしたくて外に出た。
朝もまだ、大分早い時間帯で、辺りには誰もいない。
お気に入りの散歩コースには、私の足跡しか残らない。これはなんともいい気分だ。
私は拾った棒で、無地の白いキャンパスにデタラメな絵を描いたり、小さな雪だるまを作ったり、存分に初雪を楽しんだ。
その時、私の耳に「きゅん」という小さな音が聞こえた。
私は動きを止め、静寂に耳を澄ませた。
するとまた「きゅん」という音が聞こえた。今度は先ほどよりも、少し近くから聞こえる。音の正体は何だろうと辺りを探すが、見渡す限り真っ白な世界が広がっているだけである。
もう一度、目を凝らし、耳を澄まして、辺りを探る。
その時、雪の中でうごめく物を見つけた。
うさぎかな……? そう思いながら、私はそーっとうごめく物に近づいていった。
その正体は、真っ白な毛皮をまとった手のひらサイズの小さな子犬だった。
毛には雪が絡み付いており、その姿は随分みすぼらしいものだった。
子犬は雪の冷たさに身体を震わせながら、私を認識するとまた小さな声で「きゅん」と鳴いた。
「お前、どうしたの? こんな寒いところで何してんの?」
私は思わずその子犬を抱き上げた。
いつからここに居たのかはわからないが、子犬は相当冷え切っており、小さな身体は震えている。
捨て犬にしては、どうも小奇麗なのだが、辺りには誰もいない。
とりあえず、このままこの子犬を放って置けないと判断した私は、コートの中に子犬を入れて家に帰った。
家に帰ると当然、両親は大層驚き「我が家ではペット禁止」と、母親からお約束の台詞を聞かされた。
「でも、このまま放っておくと、この子死んじゃうよ。まだこんなに小さいんだから。飼い主が見つかるまで家で預かろうよ。お願い。それまで、私が責任持って世話をする。散歩もちゃんと私がやる。トイレの世話もしっかりやる。だから、お願い」
私の熱烈なお願いに、とうとう両親が根負けした。
「じゃあ、お父さんとお母さんは保健所と動物管理センターに問合せしてみるから」
私は喜び、さっそく寒さで震える子犬をお風呂に入れることにした。
浴室の桶に少しぬるめのお湯を貯め、子犬を入れた。
最初こそお湯に少し怯えた様子はあったものの、子犬はすぐに大人しくなり、そのままうとうとと眼を閉じた。
私はそっとお湯をかけ流し、子犬を丁寧に洗った。
洗い終えた子犬は、雪のように白く、ぬいぐるみのようにふかふかになった。
「今日からしばらくよろしくね、シロ」
私は拾った子犬に、安直な名前を付けた。
そんな出会いから、あっという間に一年が経過した。結局その後、シロの飼い主は現れなかったのだ。
最初こそ、シロを飼うことに難色を示していた両親も、いまやすっかりシロを家族の一員として迎え入れている。
私は密かに、シロは神様からのプレゼントだったのではないかと思っている。
初雪がもたらした、小さな出会いに今は感謝している。
3作目です。
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