仔犬と宙の神話
私たちが暮らす、アステローポス国にも神話があって、それは『宙の神話』と、呼ばれている。
はじまりが、何もない宙からはじまっているからそう呼ばれているんだと思う。
無の空間に、光と闇の二柱の神様が偶然生まれた。
それが、最初の神様たち。
光と闇の二柱の神様たちは、次々に新たな神様たちを生み出した。
火神も水神も樹神も土神も、そのときに生まれて、彼の神様たちもまた、自ら新たな神様を生み出した。
ある程度神様を生み出した最初の二柱は、今度は小さな箱庭を創り出した。
それを見ていた子どもたちも、親神たちに力を貸した。
こうして創り出されたのが、後に人間が住むことになる箱庭だった。
綺麗なその箱庭は、神様たちにとって小さく、繊細で、とても脆く出来ていた。
もう少し丈夫に創ればよかったのに…、そう思わないでもないけど。
『自分たちが関われば、この美しい箱庭は壊れてしまう』
そう危機感を抱いた子神たちは、箱庭に見合う位の小さな管理者を生み出した。
子神たちが、自分たちに似せて生んだ管理者は、雌雄一体の存在だった。
多くのことが成せる様に腕は4本。
箱庭の端から端まで速く駆けられる様に強靭な足を4本。
周りの物事を余すことなく見通せる目を4つ。
どんなことも溢さない様に聞くことが出来る耳を4つ。
箱庭を壊さない程度で、自分たちより若干弱いものの、それに準ずる強い魔力。
こうして、箱庭を管理するに相応しい存在を生み出した子神たちは、安堵からか管理者を箱庭に入れる際になんと、落っことしてしまったのだ!
落っことされた管理者は、落ちた衝撃で縦から2つに裂けてしまった。
2つに別れた管理者は、目も手も足もそれぞれ2つずつになり、魔力も半分ずつ持つ雌と雄の別々の個体になったのだ。
…無事に生まれてホッとするのはわかるけど、何で落としちゃうのかなぁ。
神様の子どもの子ども…孫神?だから、大丈夫だったんだろうけど、裂けちゃうって怖い……。
別々の個体になるだけだったから、いいんだろうけど。
「その、別々の個体になったのが問題だったんだけどね」
ケイロンさんに続きを促される。
次は確か…そうそう。
2人になった管理者たちは、望まれた通りに箱庭の管理をこなした。
しかし、神様たちが予測出来なかった。
その最も近い存在である2人が、夫婦となり子を成すということを、想像してなかったのだ。
それに、本来はひとつの存在だったふたりがお互いを思い合って生まれた存在たちが、異形としてこの世に生を受けることも、神さまたちでも予知出来なかった。
ある子は、海の水を飲み干す程大きな口と身体を持つ海に棲むモノ。
ある子は、天を震わす程の大きな声を持つ天地を駆けるモノ。
ある子は、世のあらゆる知識を識る純白の翼を持つモノ。
ある子は、全てを破壊し尽くす力と鱗に覆われた大きな身体を持つモノ。
ある子は、鋭い爪と牙で死を振り撒くしなやかな身体を持つモノ……。
≪災厄の子≫
いつしか、ふたりの間に生まれた異形の子どもたちは、気味の悪い姿、箱庭を壊す恐ろしい存在として、そう呼ばれるようになった。