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仔犬と上官

「おい、見ろよ」


視線が、こちらに向いた様に感じるのは、決して私の自意識過剰という訳じゃないはず。


まだ小さな汚れひとつすら着いてない、新品の騎士服をまとっている私と同じ年頃…つまり、まだ少年と呼べる位の男の子たちが、こちらをあからさまに見ている。KBR>たぶん、声の主であろうそのうちのひとりに至っては、指を指しているのが視界の端に見えた。


「田舎貴族のくせに、どんな手を使ったんだか…」


「どんな手って…、あれだろ?」


にやにやと、嫌な笑い方をしてるが、私は無視して、なんの変哲もない壁際に置いてあるのか、落ちているのかわからない、やたらと大きい毛玉を見つめる。


…あの毛玉、何だろう。大きいし、心なしか上下に呼吸をしているかの様に動いてるけど、まさか生き物?!


見回り前とはいえ、仕事中に関係ないことを考えて、なるべく彼らの話しが聞こえないようにする。


しかし、如何いかにも貴族のご子息といった上品な少年たちが集まって小さな輪を作り、顔を突き合わせているが、その様子はコソコソとしているくせ、話す声はやたらと大きくて聞きたくなくても、その声は耳に入る。私の努力は、聞かない“ふり”位しか出来なかった。


淑女レディがすることじゃないだろ?」


「どうせ、貴族としてのプライドがないんだろ。あんな田舎者を、俺たちと一緒にすること自体間違ってる!」


少年たちの嫌な笑いが、その仲間内に伝播する。その笑い声に、イラッとした。


生き物なのかよくわからない、正体不明の毛玉を私はいま、親の仇を見る様な凄まじい形相で睨んであるはずだ。噛み締めた奥歯が、ギリギリと音を立てている。


「でも、あんな貧相な身体にわざわざ…。ウルグルラ隊長も物好きだな」


何をいわれたのだろうか。


一瞬だけ、理解出来なかった。けれど、理解した瞬間、真っ白だった頭の中は徐々に真っ赤に染まった。


怒りで我を忘れて怒鳴り掛けたけど、それが口から出ることはなかった。


「そんなところで、何をしているのですか」


声に味なんてないはずなのに、何故だか聞くたびに、“甘い”と感じる低くて感情の揺れのない冷淡な声が、私に質問を投げ掛けた。


向こうから歩いて来たのは、私が着ることを許された、黒い騎士服に身を包んだ上官だ。宝石の様に綺麗な深い青をした瞳が、ひたりと私だけに視線を向けられる。


…?質問の意味がわからない。待ち合わせは、スピカ先輩と前から決めていた場所だった。今回組む相手は隊長が決めたから、その相手がいなければ、必然的に待っているとわかるはず…。


「見回りのため、スピカ先輩を待っているところです」


毛玉もどきから、彼の方へ身体ごと向き直りながら説明する。別に猫背というわけじゃないけど、背筋が自然と伸びる。


単純で、いまの状況を分かりやすく説明出来たと思う。でも、その後でそんな見ただけで状況がわかることを、この人は問い掛けないと思い直した。


「それは、見ればわかります。仕事中に、ぼんやり突っ立っているだけなら咎めますが」


その仕事中に、毛玉もどきのこと考えてました…。もちろん、口には出さないけど、少し気まずい。


後ろめたいことがあるせいか、相手の目が心なしか冷たく感じる。…取り敢えず、その視線を自分の視界から外してみた。


「何か、変更がありましたか?」


頬の辺りに視線が突き刺さるし、やはりしゃべるからには相手を見なければならないから、恐る恐る視線を相手に戻す。


やはり、何の感情も見えない瞳でこちらを見ている彼は、質問に質問で返した私に頷いてみせた。


「急に別の任務が入ったので、スピカ君に当たらせました。代わりに、ダバランが貴女と組むはずでしたが、既に姿が見えなかったと報告を受けたため、彼には本来の相手と見回りに向かってもらっています」


つ、つまり。


「最後まで、話を聞いてから行動すれば、こんな無駄な時間を過ごすことはなかったですね。早く行動するのはいいのですが、それは臨機応変に対処しなさい」


「はい…」


組む相手と、担当区域だけを聞いて先走ったのが、悔やまれる。只でさえ、この隊唯一の新人で仕事がろくに出来なくて肩身が狭いというのに…。


「反省だけしても、意味がありませんよ。落ち込んでないで、次からはどうしたらいいのかを考えなさい。そして、他の仕事に支障が出ないように。…行きますよ」


自然と下がっていた視線を促されて戻すと、彼の後ろ姿が見えて慌てる。


「えっ、どこにですかっ?!」


慌てて問うと、立ち止まった隊長は、少しだけこちらを振り返る。


「わからないのですか?見回りに行くんですよ。貴女をひとりにして、今度は何を仕出かすかわかりませんし」


甘く低い声が、どこまでもひんやりした言葉を紡ぐ。私の一言に対し、隊長の長い嫌味が心に突き刺さる。…仕方ない、私が悪いのは分かりきってる。


どうやら、スピカ先輩とダバラン先輩の代わりに、恐れ多いことに隊長が見回りに付き合ってくれるみたいだし。尊敬する隊長≪ひと≫と、少しでも一緒にいれることを、取り敢えずは喜んでおこう。…例え、役立たずと思われて情けなくとも!!


さっさと歩き出した隊長に置いて行かれないように、小走りになった私は不意に思い出す。隊長が来るまで気にしていた話し声と、毛玉もどきがいつの間にか、私の意識から逸れていたことに。もしかして、隊長と話してるうちに、両方いなくなったのかなぁ…。気にはなるけど、足が長いせいか、ただ単に早足のせいだかわからないけど、隊長との距離が引き離されてしまい、私は慌ててそれらのことを忘れて、スラッとした後ろ姿を追い掛けた。



主人公と黒の騎士隊をよろしくお願いします。

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