断章
宇宙という囲いの中の、地球という揺り籠で、国という箱庭に暮らす、人間という生き物は。
故郷という枷に囚われ、家族や友人という鎖に繋がれ、更に身体という檻に囚われ、その檻に守られて生きている。
人間は身体から解放されても、精神はあらゆる感情に囚われたままなのだと、風変わりな幽霊に会って、確信を強くした。
自分も……また。
あらゆるものたちに囚われているのだと自覚する。
『元気でなー』
『風邪をひかないでね……』
『いつでも帰ってきて良いんだぞー』
……耳に、今でも残っている……あたたかな声。
涙すら浮かべて見送ってくれた、故郷の人々。
異端と呼ばれる者たちによって形成された一つの集合体の中で、確かに。間違いなく、幸せであった。
その中で自分は、異端ではなかった。
それなのに心は――孤独を、自由を、求めた。
やさしい鎖を捨て、この身を切り刻み、心から鮮血を流してまで、解放を願った。
一歩を踏み出す毎に、不可視の刃が突き刺さってくる。
痛みに竦みながらも歩き続ける自分は、愚かなのだろうか。
甘やかしてくれる空間からの脱却を願う自分は、傲慢なのだろうか。
故郷の人々を傷つけても、それを仕方ないと諦めている己を、誰かが断罪する。
だけどどうしても――止められない、激情が。
鬼火のように心の奥底で存在を誇示し、猛威をふるう。
自由になりたい! 自由になりたい!! 自由を!! 自由を!!!
ただひたすらその言葉に縋り付く。
何から自由になりたいのか。どうしてそれを求めるのか。わからないままに振り回された。
そして彼らから離れても――やはり一部が故郷へと繋がっていた。
確たる目的もなく、彷徨いながら、故郷の人々に罪悪感を抱き、気遣い、後ろ髪引かれながら。故郷にいた頃と同じ事をしていた。
――どこまでも逃れられない。
いつまでも、囚われた、ままで。
どうして自由になりたかったのかを、彷徨いながら探していた。




